幼馴染は今日も見透かしてくる
突然だが、僕には幼馴染がいる。
昔はかなり仲が良く毎日のように遊んでいた。
しかし、時間が経つにつれ、思春期になり、だんだんと遊ぶ時間は少なくなっていく。
──とは言え、毎日登校したり、週何回かは昼を一緒に食べたりはしているので、疎遠ではなかった。
ただ……性格がね……。
幼い頃は可愛かったんだけど、今がね……。
別人と言うほどに変わっていた。
「あっ……」
「おや? ケンくんじゃないか」
こんな感じに。
朝。
学校に向かう道の途中にあった電柱に彼女はいた。
大原 柚。
僕の幼馴染だ。
黒髪ロングに真っ黒い瞳と、ザ・清楚系少女。
「酷い寝癖だね……どうやったらこんな形になるんだい?」
「……」
「それに朝は食べていないのかい? 空腹そうに見えるけど……」
呆れたような口調で、溜息を吐く少女。
「……」
いや、何でわかるの?
怖っ……。
「すみませんね。 “天使様”」
学校の美天使。
彼女──柚の異名だ。
容姿端麗、成績優秀、温柔敦厚と、その名の通り、学校では生徒会にも入っていてかなりの人望を集めている。
だが、彼女はこの異名が嫌いらしい。
「その名で呼ぶのはやめてもらえるかな?」とまるで親の仇と言わんばかりに拒絶した。
「ごめんごめん」
「悪かったよ」と両手を挙げる。
「キミの前だけにはこうやって素でいられるんだ……だから、居場所を奪わない欲しい」
「……」
学校では優秀な生徒。
だが、僕だけでは、エスパーのように見透かす幼馴染。
もし、あの美天使の本当の性格がこんなモノだと知れば、誰もがビックリ仰天、目を疑うであろう。
「ああ、キミのお養母さんがね。 今日遅くなるらしいから、今夜は私の家でご飯食べていきなさいと仰っていたよ」
「母さんが? ……分かった」
僕の家は母子家庭と呼ばれる物だ。
父親は僕が物心付く前に事故で亡くなっているせいで、父の代わりに母はいつも夜遅くまで働いている。
その為、幼い頃から保護者が不在だった為、僕は近くの家に住む柚のご家族にお世話になっていた。
つまり、柚の家は僕の第2の家でもあったのだ。
「じゃあ、学校が終わったら直行すれば良いんだね?」
「そう。 鍵は持ってるでしょう?」
「うん……」
他愛もない会話をしながら、通学路を歩く僕たち。
横断歩道が見えてきた。
人の形をした緑色の光が点滅している。
どうやら、少し来るのが遅かったらしい。
「少し遅かったみたいだね?」
そう思ったのは、彼女も同じだったようだ。
目の前の信号が“青”になるには少し時間が掛かる。
「遅刻は……しないよね」
「問題ないさ。 このまま進んでも余裕を持って到着出来るよ」
「だよね……」
信号が変わるまで待っていると、僕たちの隣で学生カップルがイチャイチャしていた。
背服は……近くの公立高校の物だった。
キャッキャウフフとしている高校生カップル。
その内容は──ベットの上での感想だった。
いや、こんな場所で話すなよ……。
このリア充め……。
2人の会話は柚にも聞こえたのか、少し顔が赤くなっていた。
「……」
信号が青になり、歩行者達が進み出す。
十字路を右に曲がり、学校に続く小さな坂道を登る。
坂の上には、同じ制服を着た生徒たちがポツポツといた。
中には彼氏彼女の関係の生徒も見える。
さっきの交差点と言い、この坂道と言い──。
「羨ましいな……」
そんな事を呟きながら、歩き出す。
その時だった。
「キミは……彼女が欲しいのかい?」
「えっ?」
「いや……だから、キミも彼女が欲しいのかい?」
いきなりどうしたんだ?
えっ、彼女?
僕が彼女が欲しいって?
まさか、あれが聞かれた?
確かに、ゲームとかアニメとか見ると、彼女がいると羨ましいとは思う。
でも、実際に欲しいかと言われると……。
「別に欲しいとは思わないかな……」
あくまでも偏見だが、彼女がいると自由時間が減るイメージがある。
それに別れる事だってあるし、もし浮気とかされたら、たぶん耐えられないだろう。
だから、羨ましいとは思うけど、欲しいとは思わない。
「そっか……」
シューンとする柚、
だけど、その表情はどこか嬉しそうにも見えた。
「そろそろ時間だ。 私は先に行くよ」
「ん……」
時間というと、生徒会か?
柚は頭が良いからな。
「遅刻はしないでよ? キミは運動神経が鈍いんだから」
「……余計なお世話だよ」
「そうかもね?」とふふっと笑う柚。
彼女はそのまま駆け足で坂を登って行った。
「‥‥すごい速さだな」
こう言う一面が、彼女が天使と言われるんだろうな。
そんな事を思っていると、柚の姿が小さくなっていく。
「……」
昔の、優しくて、ちょっと危なげで、いつも後ろを着いてきた少女を知る身としては、驚きと嬉しさを感じる。
「僕も急がないと……」
4年連続の皆勤賞。
5年連続を目標とする身としては、遅刻するわけにはいかない。
そんな事を思いながら、僕は真っ直ぐ学校に向かった。
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