141.決行
1日が経った。
「それでは、頼んだ」
見回りの男が俺に言う。
他の面子はそれぞれ家族と別れの言葉を言い合っていた。
すでにこの男は、昨日、娘である少女と最後の時間を送っていた。
できれば、こいつらが死ぬ前に俺が戻ってきたいところだが。
「死ぬなよ」
村長がそう言って、見回りの男の肩に手を置いた。
その目には水がたまっている。
ソンチョウたちは、結局、俺に付いてくることになった。
昨日の夜、この地下の全員で話し合って決めたらしい。
決まったことに俺は文句を言うつもりはない。
連れて行くのは俺だが、一応、部外者だからな。
「無理な話をしないで下さいよ。……もし、生き残れたら、一緒に酒を飲みましょう」
「うむ。うむ」
涙ぐむ見回りの男とソンチョウ。
しばらくそんな時間が続いたが、俺がソロソロ時間だと伝える。
雰囲気を壊してしまって申し訳ないが、計画を失敗させるわけには行かないからな。
すると、見回りの男が赤い目を見開いていった。
「いいか。お前たち!俺たちはこれから新たな時代を迎える。誇りを持って向かうのだ!」
「「「「おぉぉぉぉ!!!!」」」
声が狭い部屋に響き渡る。
見張りの兵士が来ないか心配になるが、今日は王の対応やらのために見張りは立っていなかった。
流石に階段の先に入るだろうがな。
まあ、そこまで声が届くことはないだろう。
「それでは、移住組は悪魔殿に続け!決して単独の行動をするな!」
見回りの男がそう言うと、俺の周りに老人や子供たちが集まってきた。
かなりの大人数だ。
千人はいるかもしれない。
まあ、指示を聞けるなら問題ないだろう。
「よし!はぐれるなよ!」
俺は声を掛け、ソンチョウたちに教えて貰った、脱出口へと向かった。
どうやら、地下から出る脱出経路は作っておいたようだ。
俺の手間が1つ省けて嬉しい限りだ。
まあ、俺の仕事の本番はこれからなんだがな。
ざざ~ん。
目の前に広がるのは、青い海。
俺たちはこれを超えなければならない。




