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楽しんで頂けると嬉しいです!
嫌な夢を見た。
信じてもらえない辛さ。
どんな私を演じても、1番最初の私は本当の私だった。
どんなに信じてもらえなくても私は貴方の幸せを望んでいた。なんて愚かだったの。
(今日はやな感じがするわ)
お守りとしてお気に入りのグレーダイヤモンドのネックレスとイヤリングを付ける。
忘れましょう。私には小さな王子様がいるのだから。
私の不安を感じ取ったのか、フワフワな小さな王子様がスリスリとしてくる。可愛いロージー。撫でたい気持ちを抑えて声をかける。
「さっ、ロージー行きましょう」
ロージーは自分からバスケットに入った。ノアから貰った頃はバスケットに入ってもどこにいるか分からない程小さかったのに、今は顔をちょこんと出して外を見ている。
今日はロージーのお父さんとお母さんに会いに行く、ノアとの約束の日。初めて行ってから今日で2ヶ月。週一回がいつの間にか、ノアが仕事が休みの日に行くようになった。
いつもは、楽しくて仕方ないのに。
(今日は行きたくない)
今まで会った事ないのだから、心配ないのかもしれないけど、あの夢を見たせいで嫌な感じが頭から離れない。
私はいつものようにロージーのバスケットと小さいカバンを持って馬車で王宮に行く。王宮の門番の兵士と顔見知りになり、いつものように挨拶を交わす。
王宮の中にあるノアの住んでいる宮殿に向かう。いつもなら、アランが迎えに来て待っているのに誰もいない。ノアの宮殿までの道は覚えてるから、そのまま向かう。
「ナディア」
背後から、私を呼ぶ声がする。振り向いてはいけない。行動と頭の中がついていけなくて振り向いてしまった。
久しぶりに見たグリーンの瞳。
『国家反逆罪で処刑に処す』
今朝の夢を思い出す。冷たい瞳。
「……ご機嫌よう。私、急ぎますので」
足早に去ろうとするが腕を掴まれた。
触れられたくないのに。
「待ってくれ。ナディアに謝りたくて」
『もう、お前は俺の名を呼ぶな。反逆者め』
夢と重なる。
違う違う。私は反逆者じゃない。
私は何もしてない。
「いいえ。謝るのは私の方です。申し訳ございません。では、失礼いたします」
私は謝罪し頭を下げて進もうとする。でも、貴方が腕を離してくれない為に腕が少し引っ張られて痛い。
『ここで処刑を執行する』
幻の兵士が首と肩を掴み私が暴れても動かないように腕を後ろに締め上げ強い力で押さえつける残像がうつる。
「……痛いのですが。離して下さいませんか」
「も、もう少し話したいんだ」
『愚かな姿だな』
あの時の貴方と一つに見える
怖い。あの恐怖が襲ってくる。
首が熱くて燃えているような感覚。痛い痛い。苦しい。感覚がどんどんなくなっていく。身体に力が入らず目の前が傾いていく。
めったに怒らないロージーがバスケットの中から威嚇をしている。
「ルード、ナディアが嫌がってるよ」
「……ノア殿下どうしたのですか?今日は外出の予定はありませんが」
いつの間にか、ノアは私の前に立ち私を抱きしめながら、掴まれた腕を剥がそうとしている。
「来客があるので迎えに来ただけなので心配ない。だから、私の大事な人から手を離してくれないか」
ノア殿下は離れた腕を見て、ロージーのバスケットと小さいカバンを持って、私の手を掴み自分の宮殿へと進む。
「ごめん。怖い思いしたね。アランが急に用事が出来てしまって。もっと早く迎えに出ればよかった。ナディア大丈夫?……あいつには、ここの警備はさせてないのに」
「いいえ。大丈夫です。助けていただいてありがとうございます。ノアがきてくれてよかった」
ノアが背中を撫でてくれたおかげで肩の力が抜ける。ノアを心配させない様に笑顔で言う。
「ナディア」
握られている手に力がはいる。
「ノア。今日はクッキーを焼いてきました。テラスで一緒に食べましょう」
「うん。楽しみだね」
ノアが喜んで笑顔になると、こっちまで嬉しくなってしまう。
(ノアが居てくれてよかった)
さっきまでの嫌悪がどこかに行ってしまうほど、私はノアと一緒にいる時間が大事になりつつある。
「ナラとジップお待たせ。ロージーよ」
「どうぞ」
ノアの宮殿に着いて、すぐロージーのお父さんとお母さんが私の足に挨拶の様にスリスリしてくれる。くすぐったくて声を出して笑ってしまう。
ノアからロージーのバスケットを渡してもらってロージーを草の上に置く。3匹は楽しそうにじゃれて遊んでる。
「じゃ、僕たちはこっちだね」
微笑んでるノアは私の前に手を差し出した。私は戸惑いノアの手を取るのだ。私はノアの手の暖かさを意識しながら、テラスへと進んでいく。
(私が戸惑うのを楽しんでいるんだわ)
ノアと一緒にいる時は私と別人ではと疑う。心が穏やかになったり胸が波打ったり、今までで初めての感情をどうしたらいいかわからない。
「クッキー美味しいね。いつも、ありがとう」
「喜んでいただけて嬉しいです」
テラスでお茶を飲みながら私が作ったクッキーを食べている。ノアの口に合ってホッとしてる。
私が読んだ本の話やロージーの話や、ノアが留学していた時の話を話した。いつの間にか、ロージーたちは遊び疲れたのか3匹して丸まって眠っている。
ロージーたちの話をして笑い合ってたはずなのに、不意にノアに見つめられてた。ノアはお守りとして付けていたイヤリングを触る。
「このグレーダイヤモンドはお気に入りなの?」
「はい。……お守りとして。なんだか守ってくれるみたいで」
「そうか」
小さい声が聞こえて、嬉しそうに優しく笑った。なんでノアが嬉しそうに笑っていたのかわからないけど、とても、ノアがとても綺麗だった。
「もうそろそろ帰る時間だね。もう少し時間をくれないかな?君に見せたいものがあるんだ」
庭園に連れられて行くと、白薔薇と赤薔薇が咲いている。
「この白薔薇は珍しい花びらの形をしてるんだ」
白薔薇を見ると花びらの両方の先が丸まっていてハートに見えて可愛い。
「可愛い。こんな風になるなんて、めずらしいですね」
笑いながら振り向くと、ノアはひざまずいて白薔薇を一輪持っていた。
「僕の気持ち。ナディア受け取ってね」
ノアがキラキラ輝いて見える。私がゆっくり一輪の白薔薇を受け取るとノアは手の甲にキスをした。
心臓が止まるかと思った。夕陽が空の色を綺麗にオレンジ色に染めて私たち2人もオレンジ色に染まっていたけど、私は赤く染まっていただろう。
ノアは王宮の前まで送ってくれた。ラクールの馬車が待っていたのでノアにお礼を言って屋敷に帰る。テラスでの出来事が衝撃的すぎて帰り道のノアとの会話が思い出せない。覚えてるのはノアの楽しそうに笑ってる笑顔だけ。なんだか、一輪の白薔薇が愛おしくなり優しく抱える。
屋敷に着いてすぐエマに花瓶を用意してもらう。
部屋につくと力なく椅子に座る。ロージーが椅子に座った私の上に乗って撫でて欲しそうにしているので思いっきり撫でてあげる。
エマが水の入った花瓶をテーブルの上に置いた。
「お嬢様、綺麗な白薔薇ですね。ノア殿下からですか?」
声をだすと恥ずかしいのでうなずく。
部屋で一息ついて冷静になると、花言葉を思い出した。
白薔薇の花言葉は
『私はあなたにふさわしい』
一輪の白薔薇の花言葉は
『一目惚れ』
全身が真っ赤になる感覚。ノアは友人じゃなく本当に私のことが好きなのだ。確信する。私もノアのこと好きなんだ。
でも、私はノアに釣り合わないわ。
私には眩しすぎる。あんなキラキラした人。
不安になったのがわかったのか近くにいたエマがにっこりと笑って言った。
「……お嬢様、幸せになっていいんじゃないですか?あんなにお嬢様の事思ってくれて、優しくて強い方どこにもいらっしゃいませんよ」
私は幸せになって良いんだろうか。
ロージーは、私の指を舐めてスリスリしている。ゴロゴロと喉も鳴らす。
「私、この白薔薇をずっと大事にしたいわ」
「お嬢様。一緒に押し花にしませんか?」
エマと一緒に作った一輪の白薔薇の押し花。
まだ時間はかかるけど額に入れていつでも見られる場所に飾ろう。
ノアの優しい笑顔を思い出す。
読んで頂きありがとうございます!