おまけ話4 ルードside
楽しんで頂ければ嬉しいです。
数名の騎士を連れて地下牢に向かっている。
ノア殿下もナディアも人が良すぎる。何も知らないまま死刑にすれば良いのに。
『フィリアには簡単に死んでもらうわけには行きません。生きて罪を償って欲しいのです。もしかしたら、この国の為に呪いの力は必要かもしれません』
確かに、呪いの力は国に有意義な力だ。しかし、生かす事によりどんな弊害が起きるのか想像出来ない。フィリアが簡単にこっちの指示に従うのかも不安だ。
生きて罪を償うなんて残酷な事なんだろう。
私は罪を背負うならば一瞬で終わる方法を取るだろうな。
地下牢に着くとフィリアはいつもの華やかさはなかった。
フィリアが暴言を吐き暴れるのであれば地下牢で処罰を行うつもりだった。しかし、全てを察していたのか、それとも気力が無かったのか分からないがフィリアは冷静に対応していた。
仕方ないもう一度調べ直そうかと思った時、フィリアが声をかけて来た。
「ルード様。5年くらい前に襲われた女の子を助けた覚えはありませんか」
「何を急に」
いつもの大人びた表情ではなく少女の様な少し頼りない表情で私に問う。
「覚えていませんか。暴れて傷だらけになった女の子を」
「そんな前の事覚えていない。襲われた女性を助けたのは多くあるからな」
内容は理解できた。動揺を隠す様に出口に足を進めるが、もう一度確認する為に振り返る。
「お前も身を以て償え」
すぐに地下牢を出る。
(そうか。あの少女が生きていた)
フィリアはあの時の少女だったのか。だいぶ印象が変わっている。しかし、少しだけ面影があるようにも見える。
5年前13歳の時。騎士候補として過ごし、初めて使いで街に買い物に来ていた。
たまたま、1人の少女が2人の男に裏路地へと連れて行かれるのを見た。
放ってはおけず私が駆けつける。少女は闇雲にナイフを振り回していたが男に押さえつけられた。頬には殴られた跡や、身体にはナイフの切り傷があり痛々しい。
私はとっさに剣を抜き男たちに向かって行く。男たちは私が子供だとわかると油断し一瞬で勝負がついた。逃げて行く男たちを尻目に少女に近づいた。
自分とあまり変わらない歳だろうか。思ったよりも小さい。
『なんで助けたんだ。助けてなんて言ってない』
髪は短く生意気なブルーの瞳をして、言葉使いも綺麗ではなかった。
だが、私の口から出た言葉は自分でも想像出来なかった。
『綺麗なんだから無茶はするな』
そう言って手を差し伸べた。
少女の何を見て思ったのか自分でもわからなかったが、私には綺麗に見えたのだ。自分と歳があまり変わらないのに、ナイフを振り回し勇敢な少女だと思った。
少女に差し伸べた手は払い退けられ『ありがとう』と小さな声が聞こえ、走ってどこかに行ってしまった。
私は騎士になる事が昔からの夢で、武術も優秀で皆から期待されていた。
皇帝陛下に認められたい。皇帝陛下直属の騎士になりたい。それが、騎士団の誇りだと思っていた。しかし、その思いだけではいけないのだと思い知らされる。
(守る力があるなら、苦しんでいる人を助ける)
自分の心に刻みこんだ出来事だった。自分の考えを改めさせてくれた少女に会いたくて出会った場所の近くを何度訪れても二度と会う事はなかった。
それから、街の巡回を増やし治安を良くしようと考えて他の騎士見習いと行っていた。騎士になっても仲間と巡回を続けていた。その業績も認められて騎士団副団長という地位を頂いたのだ。
多かれ少なかれフィリアは罪を犯した事には変わりがない。今は冷静に対処する事が必要だ。
騎士団の職務室では、昨日ノア殿下から預かった書類を鑑定してもらっていた。
「ルード副団長、この書類偽造されてます。サインの文字が違うインクで書かれているのと内容文がグイド・ソルテの字に似ています」
「店から、お香の売買に関する書類が発見されました。偽造前の書類だと思います。内容からして国家反逆罪には問われない書類ですね」
「ルード副団長、グイド・ソルテの側近を見つけました。全て吐かせました。グイド・ソルテが隣国からお香に使う花や毒を入手してフィリアに渡していた。そして、ノア殿下毒殺も提案したと証言してます」
「そうか。ありがとう」
各自調査にあたってもらっていた騎士たちが戻ってくる。全ての証拠や報告書を書類にしたためノア殿下の職務室に向かう。職務室に着く間に個人で頼んだ書類に目を通す。
ノア殿下の職務室に着き報告書を渡す。
「関わっていたのは確かですが主犯ではありません。グイド・ソルテが主犯です。証拠をまとめた書類はこちらに。グイド・ソルテの側近は騎士団で見張りをしています。しかし、フィリアは貴族や騎士団を操っていた事、ノア殿下の命を狙い毒を精製した事は確実なので死刑を回避出来ても何かしらの罪を償う事でしょう」
「短時間にここまで動いてもらってすまないな。騎士団は有能ばかりだな」
報告書を見ながらデュークの話になる。
「そう言えば、デュークは良くなったか」
「はい。寝たきりだった為か体がなまり、今は少しずつ訓練をしております」
実際デュークは自分がした事を覚えていた。全ては自分のせいだと思っているがフィリアを責める言葉は聞かなかった。自分の心が弱いせいだったと。ノア殿下への謝罪を求めたが叶わなかった。
「あの毒は本当に即死につながる毒薬だ。体の異変やらないか知りたいと医師団が騒いでいた。騎士団の中が少し騒がしくなる。すまないな」
デュークを医師団が検査する。それで謝罪は無しの平等だと思っているのだ。本当に甘い人だと思う。
「はい。わかりました」
「後、2時間後に皇帝陛下に謁見させて貰うこととなった。これで陛下を説得する」
ずっと書類に目を通している。この人何を考えているのか分からない。
「正直、ノア殿下はフィリアをどうお考えですか。ナディアが言っていた生きて償う事は?」
顔を動かさず目だけをこちらに向ける。そして、椅子の背もたれに身体を預ける。
「生きて償うって難しいよね。ナディアは何を感じてるんだろう。ナディアが辛い顔をするのは見たくないな。まぁ、僕が許しても、皇帝陛下が許さないだろう。デュークとは立場が違うからね。僕の命を狙ったんだから死刑は免れないと思う。あれでも、父だからね。息子には弱いものさ。だから、書類を確認もせずに死刑なんだろう」
ノア殿下はひらひらと偽造された書類を見せる。
「だとしたら、生かすというのは無理なのでは?」
「うん。無理だよね」
満面の笑みで答える。
「ノア殿下!」
ふざけているのかと声を荒げるが、ノア殿下が真面目な表情に戻る。
「今日はありがとう。明日また連絡する」
「……かしこまりました」
それ以上の発言は出来なかった。
朝、ノア殿下からの文書が届いた。
『フィリア・グイドの死刑を執行せよ』
処刑台に登る。上には膝を突いたフィリアがいる。背後から近づく。
「やるなら早くおやりなさい」
今まで牢に居たとは思わせない凛とした声が響く。最後だというのに堂々としている。
剣を首筋に這わせる。首に突き刺さないように、そのまま下の床に向かって下ろす。手でフィリアの目を塞ぐ。
「今ここで、フィリア・ソルテは死んだ。新しいお前は生きて罪を償うのだ」
ノア殿下の文書はこう続いていた。
『フィリア・ソルテの死刑を執行せよ。証拠に髪の毛を持ってこい。遺体の有無については問わない。騎士団に世話係の女性が1人増えても誰も不審に思わないだろう』
長かったフィリアの髪の毛を短く剣で切る。これで、フィリア・ソルテは死んだのだ。
フィリアは震えながら目を覆っていた私の手をよける。
「私は、死んだのですか」
「そうだ。もう、フィリア・ソルテなどいない。お前の身柄は私が預かる事になった。……生きたくはないのか?」
フィリアは振り向き熱い視線を向ける。
「今まで私がした事は後悔していません。性格だって変わる事はないでしょう。それでも、生きて罪を償えと言うのですか?私が大人しく従うとでも」
「……昔みたいな髪型になったな」
フィリアの髪を撫でる。フィリアは身を震わせて不安な表情をしている。
「もう、グイド・ソルテに囚われなくて良いんだ。リリア」
リリア。個人的にフィリアの生い立ちを調べてもらった報告書を思い出す。街でフィリアが呼ばれていた愛称だ。亡くなった母親が呼んでいた名前。
リリアの瞳から涙が溢れる。
母親はグイドによって殺され、言うこと聞く子供を引き取った。己の私欲の為に、呪いを使わすようにしていた。
「私はリリアで良いの」
「あぁ」
「わかりました。この命この国の為に尽くします。私の呪いも使って下さい」
「わかった。次は無い。肝に銘じておけ」
リリアが幼く感じて頭を撫でる自分が信じられないが、深く考えない事にした。
リリアを他の騎士に任せて、フィリアの髪の毛をノア殿下に持って行き死刑執行を行なった事を報告する。
「無事に終わって良かったね。ルード副団長お疲れ様でした」
「これで、大丈夫なんですか?」
フィリアの切った髪の毛を見る。
「大丈夫だよ。じゃ、熱り冷めるまでリリアを頼む。もう少ししたら、ルード副団長には活躍してもらうから」
「はい。わかりました。どうやって皇帝陛下を説得したんですか?」
ノア殿下はニヤリと笑って身を乗り出す。
「息子には弱いんだよ。それに娘も出来たんだ。頼まれたら断れないさ」
一瞬で気が抜けたが、それだけでは無い事はわかっている。これ以上、聞いても教えてはくれないだろう。
諦めて騎士団の塔に向かい、これからどうしようかとリリアの事を考えて進む。
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