おまけ話3
楽しんで頂けると嬉しいです。
夜の庭園で月の光を浴びる。
昼間の出来事が嘘の様でこんなにも好きな人の隣に居られるのが幸せなんて思ってもなかった。
昨日、ノアに左の薬指にはめて貰った月でキラキラ光ってる指輪を触る。
(嬉しい。とても綺麗)
今日で何度触っただろうか。本当に私はノアの婚約者になったんだろうか。確かめる為に指輪を触ってしまう。少し冷たくなって来た風が熱くなった頬を冷やしてくれる。
「ナディア。もう風が冷たくなる。早く部屋に戻りなさい」
後ろから、お父様の優しい声が聞こえ、そっと肩にストールが掛けられた。
「お父様。もう少しいさせて下さい」
「……あぁ。ナディアの大切な物が増えたな」
私の左の薬指の指輪を見てお父様は笑った。
何度も触っていたのがわかっていたみたいで恥ずかしい。
「えぇ。お父様から頂いたグレーダイヤモンドのイヤリングとネックレス。ノアから頂いた婚約指輪。私のお守りです」
「その事なんだが。グレーダイヤモンドは私からではないんだよ。実はノア殿下が留学先で自分で見つけた代物らしい」
「……ノアが」
イヤリングを触って笑っているノアを思い出す。
すごく微笑ましくて思わず笑みが溢れる。
(だから照れていたのね)
一目惚れって言ってたけどいつ私を見たのかしら。てっきり皇帝陛下の舞踏会だと思っていた。
「ナディア。幸せになるんだよ。ノア殿下はお前を大切にして何かあれば守ってくれる。だから、ナディアもノア殿下を大切にして、何かあれば力になれる様にするんだよ」
「はい。もちろんです。お父様ありがとうございます」
お父様は私の頭を撫でて、早く戻るんだよと言って屋敷に戻って行った。
私はノアに会いたくて仕方なかった。笑った顔も、恥ずかしくしてる顔も、苦しく辛そうな顔も、困った顔も全部好き。なぜ、こんなにも愛おしいと感じるんだろうか。
私は月の光で輝く婚約指輪に口づけをした。
「ナディアおはよう」
次の日の朝。ニコニコと笑うエマがいつもよりも上機嫌で支度をするから、何かあるかもと思ってはいたが。まさか、ノアが食堂に座っているなんて考えてはいなかった。ノアは愛おしそうに微笑んでいる。
「……おはようございます」
昨日あんなに逢いたいと願ってはいたが実際目にすると戸惑ってしまう。
「僕が居て驚いた?戸惑ってる顔も可愛くて好きだよ」
心臓が一気に動き出した様で鼓動が大きく鳴る。
「ノ、ノアはどうしてここに?」
早くノアがここにいる理由を聞かないと、恥ずかしくて逃げ出したくなる。
「あぁ、そうだった。皇帝陛下と皇后陛下が王宮にご招待です。まぁ、挨拶程度だから緊張しなくて大丈夫だから」
ノアは嬉しそうに笑っている。皇帝陛下と皇后陛下にお会いするのに緊張します。ノアの婚約者になると言う事は私も王室に入る事になる。認められるには頑張らないといけない。
「朝食食べたら行こうね」
「はい」
ノアに見られながら朝食を摂った。あまり、緊張の余り食べられなくてノアに心配された。
私は気合いを入れて王宮に向かった。
王宮に行くと皇帝陛下の自室に呼ばれた。扉を開くと、仲睦まじくお茶を楽しまれていました。
(なぜか、お二人を見てると心が満たされる)
「此度は婚約おめでとう。ノアの婚約者になってもらって良かったよ」
「本当ね。こんな可愛らしい子が私の娘になるの。凄く嬉しいわ」
皇帝陛下と皇后陛下には和かに話しかけて頂いた。緊張していたのが嘘の様にお二人と話すのがとても楽しかった。
ノアは兄弟の中で1番大人しいけど負けず嫌いなところがあるとか。お兄様たちに剣で負けて倒れるまで訓練したり。結婚しても私なら心配ないと言って頂いたり。
とても嬉しかった。
皇帝陛下の自室からノアの宮殿に戻る事になり、吹き抜けの廊下を並んで歩く。優しく指を絡め合いなから手を繋ぐ。いつもの手を繋ぐ形と違い、ノアの暖かさを近くに感じて恥ずかしい。
「そんに緊張しなくても大丈夫だったでしょ。僕は恥ずかしい事ばかりだったけど」
ノアが私を覗き込む様な形で私を見る。恥ずかしがっている私に気づいたのか意地悪な笑顔で繋いだ手に力を込める。
「……ノア」
真っ赤になってる私をからかっていた雰囲気から、真面目な表情になって歩みを止めた。
「ナディア。やっぱりなかなか実感がなくて、早く2人に正式に挨拶して欲しかったんだ。小さい頃の話聞いて幻滅してない?ごめんね。ナディアありがとうね」
優しく笑ってまた歩き出す。
私も恥ずかしくてノアに自分の気持ちを伝えるのが難しくて。でも、ここでちゃんと伝えないと言えなくなる気がして今度は私が止まる。
「ノア。私……」
「こっち、来て」
ノアは吹き抜けの廊下を横に出て木々が生えている場所まで連れてくる。
「可愛い事を言うところだったよね。ここで聞かせてくれる」
改めて言われると恥ずかしいけど、たどたどしく言葉を紡いでいく。
「私も全然実感が湧かなくて、今日皇帝陛下と皇后陛下にお会いできて本当に良かったと思ってる。とても、お優しいお二人で良かった。お二人を見ていると心が暖かくなるわ。だからノアも暖かい人なのね。ノア、ありがとう。後ね、これ」
朝、着ける時間がなくて持ってきたグレーダイヤモンドのイヤリングとネックレス。
ノアは不思議そうに見ている。
「昨日お父様が、これはノアがくれた物だって教えてくれて。ずっとお父様からだと思ってたからちゃんと言えなくてごめんなさい。ノア、とても素敵な贈り物ありがとう。私のどんな宝石よりも大切な宝物です」
大好きな気持ちと感謝の気持ちを込めてノアに笑顔を向ける。繋いでいた手が離れて少し強く抱きしめられる。
「やっぱり可愛い事言う。ナディアは僕がどれだけ君の事好きかわかってる。これ以上、好きにさせてどうする気なの?」
ノアのささやく声にドキッとして身を固くする。鼓動が大きく鳴ってノアに伝わってしまうぐらいドキドキしてる。全身が真っ赤になってると思うぐらい熱い。
「……ノア」
ノアの顔を見ようと顔を上げようとすると、もっと強く抱きしめられる。
「僕、顔赤くなってるからもう少しこのままで」
強く抱きしめられると、ノアの心臓の音が早く動いているのを感じた。ノアが私と同じ様に感じてくれている。
恥ずかしいのと嬉しいのが混ざって笑ってしまう。
「恥ずかしいね」
2人で見合わせて笑う。なんて幸せなんだとノアの笑顔を見て思う。
あれから1週間が過ぎ、ノアとの関係は良好で毎日会っている。
今日は珍しくお父様が早く帰ってきて、グイド・ソルテの処遇が決まったと言った。
「戦争を企てた事が国家反逆罪にあたり処刑が決まった。娘のフィリアもグイド・ソルテが主犯だと主張していて処刑が決まった」
誰が考えたってフィリアが主犯な訳がない。隣国の貴族を動かし武器を入手したのは、紛れもないグイド・ソルテのはず。
「しかも、呪いの力があるからフィリアからは話を聞かず処分を下すと」
「そんな」
ノアを毒で殺そうとしたのはフィリアだけど、納得はいかない。
私が何も出来ずに死んだからかもしれない。甘いと言われようと私は真実が知りたい。
「いつ死刑執行なの?」
「明後日だ」
私は急いでノアの所に行く事にした。部外者ではあるがある意味関係者だ。彼女のせいで3回死んで、彼女のおかげでノアと婚約者になれた。
王宮に許可を得て入り、ノアの宮殿へと向かう。宮殿ではアランが居て客人がいるので待ってほしいと言われ客室に通された。
アランは取り敢えず私が来た事をノアに伝えに行った。
「ナディア様、ノア様が部屋にお通ししろとの事です。こちらです」
アランに連れられ職務室に入る。
中には騎士団副団長の貴方が居た。
身構える私にノアは気付いて肩を抱いてくれる。
「ルードすまない少し離れてくれ。ナディアが怖がってる」
納得はいかない顔をしながらも離れてくれる。
「ナディア嬢。1つお聞きしたい。私は何か貴女にしましたか」
「……いいえ。何も」
「そうですか。では、なぜナディア嬢は私の名を呼んでくれないのですか?あの婚約発表の日から私は一度も名を呼ばれてはいない」
『もう、お前は俺の名を呼ぶな。反逆者め』
頭の中に聞こえてくる。幸せだから、過去に囚われないと思っていたけど簡単な事じゃなかった。
「やめろ。ルード」
「ゆ、夢で。殺される夢を見て。だから、あの」
本当の事を言っても信じてはもらえない。だから夢で通すしかない。だけど、言う事がまとまらなくてしどろもどろになる。
「ナディア大丈夫だから。ルードここに来たのは違う話だろう」
「……ナディア。悪かった。呼べる時が来たら名前で呼んで欲しい」
ノアは私を守るように後ろに隠しながら話す。
あの時の貴方じゃ無いのはわかってる。
(まだ、名で呼べそうにないわ)
「じゃ、話の続きだけど。ルードを呼んだのはフィリア・ソルテの話だよ」
「わ、私もフィリアの事でここに来たの」
「そうだったのか。フィリアの処遇については、皇帝陛下と公爵当主等と伯爵当主等で決まるんだが、怪しい書類が出てきて騎士団の方でもちょっと調べて欲しい。まだ、今回の事で全員捕まえられなかったのは少し分が悪いな」
「わかりました。こちらで調べておきます。明日の昼にフィリアの地下牢に行き処罰を伝えます。……ノア殿下は恨まれないんですか」
ノアは書類を渡し、問いに考えながら答える。
「まぁ、正直。命を狙われたのはこれが初めてでは無いし毒の耐性もついてる。恨むほどでは無い。ナディアとも婚約できたし」
私を見てにっこりと笑う。
「ナディアはどう思う?」
ノアに問われ考える。ノアが本当に居なくなってしまうのじゃないかって思ったし、過去の自分を考えると許せるわけでは無い。
「私は彼女のした事を許しはしません。ノアがもう少しで死んだかもしれない。私は苦しんでいるノアを忘れる事できません。だから、フィリアには簡単に死んでもらうわけには行きません。生きて罪を償って欲しいのです。もしかしたら、この国の為に呪いの力は必要かもしれません」
2人は腕を組みながら考える。今、どうすればいいのか。殺すのか。それとも生かすのか。
「隣国の貴族が相手となると気づかれないように情報を得る事が必要になり、呪いとやらがあれば少し安全に探れるかもしれない」
「……生きて罪を償うか。ナディアの気持ちはわかった。後1日で陛下を納得させるだけの根拠が必要だ。僕も出来る限りのことをしよう」
私たちがどうしようとも皇帝陛下の決定が絶対なのだ。それに、後1日でどうなるのか。
それは、誰にもわからなかった。
読んで頂きありがとうございます!
婚約してすぐのナディアの話です。




