大罪美食のレストランダンジョン☆☆☆「召しませ!美味魔物!」
サングリア王国の大広間。
他国との晩餐会にも使われる豪華な場所である。
現在、この場には王と重鎮たち、騎士団、それから招かれざる客である白銀の少女が座っていた。
「ダンジョンマスターである貴女の望みは『レストランを経営したい』ということ……ですか?」
王が慎重に尋ねる。
「その通りです」
少女は可愛らしくにこっと笑った。
15歳ほどのまだ成長途中の柔らかな体。白い肌に、艶めく白銀の髪をツインテールにしている。ワンピースドレスを着て、ルビーのような赤の瞳をパチリと瞬かせた。
王たちは緊張して硬くなった肩の力を意識して抜いた。
柔和な態度の相手に強く出ていいことはない。
王国側が圧倒的に弱者なのだから。
「質問をよろしいですか。なぜ、レストランなのですか?」
「趣味です」
「趣味」
思わずそのまま聞き返した。
ダンジョンマスターが趣味でレストランを経営する。
(意味がわからない)
沈黙がしばらく続いた。
少女はここで爆弾発言を繰り出す。
「ダンジョンマスター・ルナの大罪は【美食】ですから」
「……! なるほど」
ざわざわと空気が動く。
それならば納得できる、と呟いた重鎮もいた。
世界各地にはダンジョンが存在する。
【孤独】【遊楽】【残虐】など……ダンジョンマスターは大罪を背負い、攻撃手段とする。【孤独】ダンジョンならば空間隔離魔法、精神攻撃、幻覚、アンデッド魔物などが見られる。
しかし大罪は弱点でもある。
例えば【烈火】のダンジョンは水魔法が得意な冒険者パーティに制圧された。
なぜ、目の前の少女は自らの大罪を教えたのだろうか? と、王たちは彼女の発言を信じきれない。
実は嘘、という線もありえる。
「レストランを経営すれば、まっさきに美味しい新作料理を味見できるでしょう?」
「……ああ、えっと、まあ……そうですね……?」
(そうなのか? そんな理由?)王が悩む。
目を輝かせて唇を舐める様子は、ただただ無邪気。
魔術師が王に(嘘は見られません)と耳打ちした。
王の目から見ても、このダンジョンマスターはまるで子どもが夢を語っているように見える。
しかし子ども扱いは絶対にしない。
先ほど、少女は「国王に会わせて」と騎士団を壊滅させてここまでやってきたのだ。細腕で騎士を放り投げ大鎌で剣を受けて、押し入った。
門番がまともに取り合わなかったから仕方なく、という理由は理解はできるものの、ありえない非常識な絶対強者。
(慎重に扱わなければならない)
だから、ダンジョンマスターであるという世迷い事もいったん信じて話を進めた。
「あのね、ダンジョンが小さすぎて、誰にも気付いてもらえないんです。だから王国に広報してもらえたらなって」
「……レストランダンジョンがあると?」
「そうです! なんと! 大サービスで絶対死にませんよ!」
「……!? そんなことが」
「できます。ぶっちゃけダンジョン内で侵入者を倒した方が経験値が多いんですけど、死なないように魔物や罠を調整しましょう。メインはレストランですから」
「……ご配慮誠にありがとうございます。しかし返事には時間を頂きたく」
王が苦い声でそう伝えると、少女は眉をハの字にする。
「すごーく時間がかかるんじゃないですか?」
「うっ」
「正直、餓死寸前なんです。ダンジョンも私も。だから早く人に来て欲しくて、わざわざお願いに来ました」
赤い瞳からポロポロ涙が溢れる。大号泣である。
美食家が飢える、本当に辛いのだ。
王たちがどよめく。
(このままダンジョンマスターを飢えさせたら、ダンジョンを壊せるのでは……?)
そんな下心を一瞬抱いたが、
「かくなる上は、人々を攫ってダンジョンに押し込んで経験値にするしかないかなーとも」
「食事だ!! 食事を持ってこいッ!!」
王の一喝で、大急ぎで最高級の食事が揃う。
夜会のために準備していたものを全て放出した。コックたちは未だ嘗てない働きを見せた。
大テーブルにはずらりと大皿料理が並ぶ。
少女はぺろりと喰らい尽くした。
「なんて美味しい、罪の味♡」
ほうっと一息。
「それは良かったです……」
げっそり疲労した王が、引きつった声で返事をする。
(そうだ、ダンジョンが弱っているから、とこの少女は外に出てきたではないか。悠長に飢えを待っている場合ではない。機嫌を損ねないよう、とりあえず腹を満たすくらいしてやったほうがいい……)
少女は夢見るように頬を染めて後味を楽しみ、ナイフとフォークを置いた。
目の前には最後の一皿があるのだが。
「……召し上がらないのですか?」
「レストランを経営って言ってても、実力が分からないと不安でしょう? だから、見せてあげます。レストランダンジョンで提供するものを」
おお、と王の脇に控えていたコック長が興味を示したので、重鎮がゴホン! と咳をすると姿勢を正した。
「[大罪魔法]魔物創造」
「なんだと!?」
ガタッと騎士たちが立ち上がり、王を守るように動く。
……が、光った皿の上には可愛らしい「ピヨコ」が出現している。王国名産の地鶏・ココの子とそっくり。
「……は?」
「オムレツの魔物ですよ」
≪イートミィ!≫
ピヨコは少女に向かっていく。手のひらにえいえい! とふくよかボディを押し付けて、体当たりしているようだ。
コツンと指で弾かれて、ころころ転げてしまった。小さな星の実になる。
倒された、らしい。
「…………」
「これをこうして」
少女は星の実を皿において蓋をして、開くと、先ほどコック長が作ったオムレツが現れた。
「じゃーん!」
誰も反応してくれない沈黙の中……少女がいそいそとナイフとフォークを再び手に取り、丁寧に味わってオムレツを食べる。
「んー!」と幸せそうな笑顔。
コック長が思わずでれっとして宰相に肘打ちを食らった。
「このような美味魔物を創造して。ダンジョンで倒して星の実を採取、レストランスペースで食べてもらうんです。いかがですか!」
(頭が痛いぞ)
王がこめかみを強く押さえた。
しかもきらめく笑顔で返事を急かされているので、何か、言わなければならない。
「わざわざ一度魔物にしなければいけないのですか?」
「ダンジョンですから」
「そうですよね……」
王は疲れている。
「レストランダンジョンへの協力要請は窺いました。王国側としては、さらに保証がほしいところです。実際にダンジョンを訪問して安全の検証をしたい」
「いいですよ! たくさんの人が来てくれるのは大歓迎です」
快諾されてしまった。
動揺しながらも、王はまず一週間後に使者を送ると約束した。
「こちらが協力をお願いしてるので、王国にも良いことを対価として約束しますね。近隣で強大な魔物が暴れている場合、私が出向いて狩りましょう」
「なんですって!?」
「食材にしますから問題ありませんよ」
少女はなんでもないように朗らかに言ってのける。
王はこの話を聞いて、俄然前向きな気持ちになった。この国にはよく上位魔物がやってくる。
顎に手を置き、思案。
「貴女が討伐協力者となれば、頼もしい限りです」
「良かった! じゃあそうしましょう、頑張りますね。美味しい食事のためにっ」
「……国の安寧のために」
少女が近くまで歩んで来て、手を差し出したので、王は覚悟を決めて握手する。
ほっそりとした小さな手を、男性らしい手が包んだ。
なんと繊細な、と王は感嘆の息をそっと吐いた。
「ではまた! 一週間後を楽しみにしていますね。お料理ごちそうさまでした」
少女は手を振りにこやかに立ち去ろうとする。
「お待ち下さい! ダンジョンの場所は?」
「あっ、いけない。太陽竜の巣の跡地です」
「ーーーーッ!?」
「では!」
少女が向かうのはなぜか廊下ではなく大窓。
突如として窓から黄金の光が入り込んで来た。まぶしさに王たちが目を細めて、しかし必死で少女の行動を観察しようとする。
「お迎えご苦労さま。グレイビー」
さっそうとテラスから飛び降りる少女。
「大丈夫ですか!」と叫んで心配をアピールしながら王たちがテラスに押し寄せる。
ーー鮮やかな真紅の竜! 腹は黒い。太陽の光が当たった部分は黄金に輝く。
竜の背中で少女が手を振り、あっという間に小さくなって遠ざかっていった。
「……本当に竜の巣の方に飛んでいったな。なわばりに入ると攻撃してくる凶暴な太陽竜はどうしたというのだ? そういえばひと月ほど、竜の地鳴らしを聞いていない……」
「竜の従属なんてありえない。……いや、そもそも全身金色のはず。別種?」
皆が考え込む。そんな中、コック長がぽつりと一言。
「グレイビー? 太陽竜のステーキ・香味脂ソースかけ……の美味魔物とか?」
「狩られた……?」
「うそ……太陽竜死んでる……?」
王国陣は遠い目で、竜の巣”跡地”を眺めた。
地下にマグマを蓄えているため蒸気が昇っているが、今やそれさえ調理のための湯気かと錯覚する。
「今宵は会議に変更だ!」
王の声が大広間に響いた。
☆
「美味しい物でお腹が満たされて幸せ! お土産の食糧ももらったし、レストラン作り頑張ろうねグレイビー! ……まだ何もできてないけど」
『一週間あるでしょう? ルナ様』
「そうだね。なんとかなーる!」
美味しく平和な革命を、とダンジョンマスターは笑顔で語り、自らのダンジョンに帰還した。




