表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/32

俺の彼女は巨大ロボ

「この世界はぁー、罪を犯しすぎたのです! 彼等の出現はそれを示唆しており……!」




 駅前で、そんな男の声が響く。


 周囲ではビラを配っているが、あまり芳しくないようだ。


 ……まあ、あの連中の主張が主流派でない事の証明でもある。




 俺とて、此処が待ち合わせ場所でなければ長居するつもりもない、のだが。その待ち合わせ相手が現れない。


 おかしい、時間にキッチリしてるのが取り柄なはずなのに。


 時計を見てみると、もう四分四十秒を過ぎたといったところ。


 電車でも遅れているのかと駅の方を見ても、そんな様子もない。となると……。




「おまたせー!」


「キッチリ五分遅刻。今日は何吹き込まれたんだ?」




 現れた待ち合わせ相手である彼女に、俺は溜息をつきながらそう問いかける。


 サラサラのロングヘア―。ちょっと悪戯っぽい猫のような目。


 可愛らしい桜色の唇……と、これは俺ではなく悪友の言葉だが間違ってはいないと思う。


 まるでモデルか何かのように均整のとれたプロポーションも完璧であり、歩けば十人中九人は振り返る。


 名前は陽神(ひのかみ) (つるぎ)。俺のパートナーである。




「ごめんね。守の為に可愛くしてかなきゃ、って思ったら……つい、ね?」




 守。そう、御鎧(みがい) (まもる)。それが俺の名前だ。


 俺と剣の付き合いは今日で一週間程になるだろうか。いや、付き合いというより出会いから一週間というのが正しい。


 なし崩し的に今のようなパートナー関係になっているわけだが……まあ、ともかくだ。




「嘘つけ。いつもと変わってないぞ」


「えー? アンナはノリで押し切っちゃえば平気って言ってたのに」


「やっぱりあの人か……」




 犯人の顔を思い浮かべて、思わず眉間を抑える。




「でも、よく分かったね。研究所の皆は何処かしら当てずっぽうで言ってくるけど」


「当たり前だろ。常々「今の自分が最高比率」とか言ってるくせに変えるはずないじゃないか」




 俺がそう答えると、剣は明らかに気落ちしたように肩を落とす。




「ええー……そういうアレなの? つまんない……」


「つまらなくて結構。俺は現実的でありたいんだよ」


「守のは、逃避だと思うなあ。あそこで演説してる人だって、自分なりに現実を受け止めた上でやってるんでしょ?」




 言いながら剣が見ているのは、街宣車の上で演説を続けている男だ。


 何を言っているのかを半分以上聞き流して短くまとめると「この世界を侵略者に明け渡せ」みたいな内容だ。


 そう、この世界は今侵略されているのだ。


 メタルノイドと呼称された機械生命体。何処からやってくるのかも分からない彼等に、地球は狙われている。




「応援ありがとうございます! 若い皆さんの力を集める事が世界を変える第一歩です!」




 別に応援してない。適当に笑顔で手を振り返している剣の手を押さえると、俺はその手を引いて歩きだす。




「アレも逃避行動だよ。連中に世界を明け渡して幸せになれるもんか」


「そうだね。連中がそういう機微を理解する奴等だったら、キノサト大統領も評価されてたかもしれない」


「誰だよキノサト大統領って……」


「チョコナーク星の大統領。徹底抗戦派のタケヤマ将軍に対抗して融和政策を押し出したんだけど」


「いや、説明は要らない」




 そういう話は研究所でやってほしい。俺なんかより興味のある人が一杯いるはずだ。




「知っておくべきだと思うなあ。守も今じゃ当事者なんだし」




 ぶー、と可愛く唇を尖らせる剣。そういうところは、まるで普通の女の子みたいに見える。


 しかし言っておくと、俺は当事者になりたいだなんて願ってなかった。


 あの日、俺が流れ星に願ったのはただ一つ。


 そう、それは……。




「……ん?」




 胸ポケットの中のスマホが慌しく音を鳴らし、剣がムッとした顔をする。




「ちょっとごめんね?」




 剣は俺の胸ポケットにためらいなく手を突っ込むと、スマホを操作し通話モードにする。




「はーい、スーパー美少女の剣ちゃんでーす。デートの邪魔する不届き者は誰ですかー?」




 自分で言うのか。並の容姿であればそんなツッコミも出てくるだろうが、剣に関してだけは当てはまらない。


 何故なら、本気で美少女だからだ。ファッション雑誌の類を読み漁ってみたところで、剣程の美少女は居ないに違いない。


 それ程なのだ。ただ一点、髪と目が冗談みたいに真っ赤な色をしている事を除けば、剣は確かにスーパー美少女だ。本人に言うと調子に乗りすぎるから絶対に言わないけど。




「えー? もうちょい頑張れるでしょー? 何の為に防衛予算とか……嫌ですー。あのタコハゲには文句あるんだったら拳で来いって言っといてよ」




 なんとなく話の流れが想像ついてきたので、無言で剣からスマホを奪い返す。




「お電話変わりました。御鎧です」


―あ、御鎧君!? よかったー、このまま電話切られるかと!―




 予想通り、電話の相手は研究所……アダノイト研究所の所長、高梨さんだった。


 宇宙からの謎物質アダノイトの研究の為にどうこうとかいう由来の研究所が何故こんな事になっているのかは高梨さん自身が謎だろうが……まあ、さておこう。




「メタルノイドですね? 場所と状況は?」


―場所はそこから遠くない! 石川県西方沖10キロ地点にDF型が現れてる! 早ければ二十分後には上陸する!―




 二十分。それは防衛軍が全力で足止めしてその時間、ということだ。


 勿論全力といっても命までかけているわけじゃない。


 メタルノイド相手の無人兵器が主流となった今では単純に被害は金銭のみの話になるわけだが、それとて無制限に壊されていいわけでもない。




「分かりました、すぐに行きます。出撃地点については?」


―もう迎えを行かせてる! 安奈君が今……―




 所長の言葉が終わるより前に、ギャギャギャと物凄い音を立てて黒塗りの高級車が俺達の前に止まる。




「はーい、迎えに来たわよ二人とも!デートの邪魔のお詫びは所長の財布から出るから!」


「あー、来ました。所長が俺の新しいバイク買ってくれるって言ってます」


―バイクってアレだよね!? この前見てた200万とかするやつ!―


「期待してます、それじゃ」




 通話を切ると、俺は剣の手を引いて車に乗り込む。


 俺達が乗り込むと同時に安奈さん……所長の秘書の人の運転する車は猛スピードで走り出す。




「意外と御鎧君もイイ性格してるわよねー!」


「そうですか?」




 あはは、と笑う安奈さんに……しかし剣は不機嫌そうだ。




「折角のデートだったのにー」


「我慢なさいな。今度御鎧君がバイクでデートに連れてってくれるから!」


「え、ほんと!? 海行こうよ海!」


「これから行くじゃん……」




 ユサユサと揺すられながら俺は答えるが、どうもそうではないらしい。


 夕焼けがどうとかロマンチックがどうのと言っているが、半分以上は聞き流す。




「で、安奈さん。出撃地点は?」


「近くの小学校の校庭借りてるわ。派手にやっちゃっていいわよ!」




 安奈さんに「運転に集中してください」と苦言を呈すると気軽な返事が返ってくるが……問題は、俺に寄り掛かったまま不機嫌度が上がっていく剣だろう。




「いっつも守はそうよねー。好きって言ってるのは私ばっかりでさー」


「あちゃー、そりゃ駄目ねー。御鎧君さいてー」


「うっ……」




 仕方ない。仕方ないと思うんだ。


 剣は可愛い。確かに可愛い。凄く可愛い。


 でも、素直に好きと言うにはあまりにも大きい障害がある。


 剣という恋人を得ておきながらも素直に踏み出せないのには、相応の理由がある。




「到着ー!」




 そして辿り着いた小学校前。「頑張ってね!」と見送る安奈さんを置いて、俺達は校庭へと走り出していく。


 校舎の窓からは小学生や先生達までが顔を出していて、俺達を見ると歓声を送ってくる。


 ……どうにも慣れない。




「よし……剣、やるぞ!」


「……」




 校庭の真ん中まで辿り着いた俺がそう言うも、剣はぷいっと横を向いてしまう。




「お、おい。剣?」


「好きって言ってくんなきゃやだ」


「はあ!?」


「やーだー。守が大好きって言ってくれなきゃ手伝わないもん!」




 そんな事を大声で叫ぶ剣に、小学生達から歓声が上がる。




「そ、そんな事言ってる場合じゃ」


「ふーんだ」




 すっかり不貞腐れた様子の剣と校舎からの声に、俺は顔を赤くする。


 そんな場合じゃない。そんな場合じゃないんだ。


 剣の事だって、嫌いじゃない。




「後でってのは……」


「ふん、だ」




 ダメだ。言わねばならない。やらねばならない。


 でも、こんなのは。




「……剣」


「なに?」


「好きだ」




 俺は、望まれた通りにその台詞を口にする。でも、本当はそんなんじゃダメだ。




「大好きだ。俺は剣の事が世界一好きだ。でも、こんな風に言わされるのは違う。だから、これが終わったら剣がやめろって言うまで好きって言うから。それじゃダメか?」




 剣の肩を掴んで、俺は問いかける。俺に見せられる最大の誠意。その、答えは。




「むぐっ」




 俺の唇が、剣の唇で塞がれる。


 柔らかい唇。その本性を知っていれば信じられないくらいに。




「えへへ……約束したんだからね?」


「ああ」


「それじゃ、始めるわよ……サンライト・エボリューション!」




 そうして、変わっていく。換わっていく。


 俺の目の前に出現するのは、剣の真の姿。


 そう、そうなのだ。俺の彼女……陽神 剣の本名は「陽剣機サンセイバー」。


 全長50メートルの巨大ロボな彼女を見上げながら……俺は、出会った日の事を思い出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ