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星跳び少年とぼっちな惑星★

 星々が瞬く漆黒の世界、宇宙空間。


 とある小惑星帯に一隻の巨大な戦艦が停止していた。


 胴体に刻まれた紋章は、銀河の国々ならば誰もが知る大国『ロンホウ帝国』のモノだ。


 そしてその戦艦の発着口は開かれ、とある小惑星に空いた空洞へと繋がっていた。


 小惑星といっても、ほぼただの岩の塊、空気もなくすべての帝国兵はほのかな灯りを放つ防護服を身に纏っていた。


 その空洞の行き止まりには、まるで人目を忍ぶように小さな台座があった。


 侵しがたい神聖な白い台座には、青白く輝く『十字』が緩やかな回転を描きながら浮かんでいた。




「こ、これが、あの『四秘宝』の一つ……」




 帝国兵達は興奮していた。


 だから、背後の偉大な存在に気付くことができなかった。




「不遜の極み」




 帝国兵達が、拳の一撃に吹き飛ばされた。


 その顔は、もしも地球人が見たならば、龍と呼んだだろう。


 その巨体は帝国兵とは比べ物にならず、五メートルはある。


 精緻な彫り物が施された甲冑を身に纏い、金糸で帝国の紋章が刻まれた赤いマントを羽織っている。


 彼こそが、ロンホウ帝国の最強皇帝ドラクロウであった。


 宇宙? 真空? 知ったことかいわんばかりの威風堂々とした態度であった。




「貴様達のようなゴミが触れてよいモノではない……否、そもそも目にすることすらおこがましい。これこそ、皇が手にするに相応しい宝よ。すなわち我、ロンホウ帝国が皇帝ドラクロウの所有物である!」




 ドラクロウが指で摘める程度の大きさの『十字』は、彼の手の平の上に移動した。




「ふはははは、遂に手に入れたぞ『四秘宝』が一つ『十字(クロス)』!! さあ、取り戻そうではないか。我らが星! 我らが世界!! 今こそ、全宇宙を手中に収める時よ!!」




 ドラクロウは『十字(クロス)』を大きく頭上に掲げた。


 『十字(クロス)』もそれに呼応するように、青白い光を一際強く放ったのだった。








 日本はN県郊外。


 深夜の草原を、一台のワゴン車が走っていた。




「あらー……」




 助手席に座っている母親、小澄(こずみ)志織(しおり)が、糸目をさらに細め、夜空を見上げていた。


 長男である小澄(こずみ)久太郎(きゅうたろう)は、後ろの席から身を乗り出した。


 今年高校生になったばかり、父親譲りの赤毛が印象的な少年だ。


 しかし、志織の視線を追っても、そこには何の変哲もない冬の星空しかなかった。




「どうした、志織。また(・・)何か見えたか」




 ハンドルを握ったまま、父親である小澄(こずみ)英一郎(えいいちろう)が声を掛けた。


 短く刈り上げた赤毛に眼鏡、口髭でやや実年齢より高めに見えるが、これでまだ四十にも届いていない若さである。




「あの辺りの星が全部消えたのよ。一斉に」




 志織が、星空の一角を指差した。


 それまでスマートフォンを弄っていた姉の小澄(こずみ)藍那(あいな)が画面から顔を上げた。


 藍那は高校三年生、母親譲りの糸目をわずかに見開いていた。




「え、何ソレ世界終了の前触れ?」


「……そもそも、星が消えるって何さ」


「さあ?」




 久太郎の問いに、志織は可愛らしく首を傾げた。


 これで、アラフォーの人妻である。




「さあって……駄目だこりゃ。ねえ父さん、これ、どこまで進むのさ?」


「もうちょっとじゃない?」


「アイちゃんは一昨年(おととし)、来たものねえ」


「被害が抑えられそうな場所なら、割とどこでもいいんだわ。よし、この辺にしようか」




 何やら不穏なことを呟きながら、英一郎は車を停めた。


 原っぱのど真ん中に、最初に車から降りた藍那は、身体を震わせた。




「うわ、寒っ! 車に戻ってちゃ駄目?」


「駄目よ、アイちゃん。今日はキューちゃんの誕生日なんだから、みんなでお祝いしないと」


「うむ、誕生日おめでとう、久太郎!」


「はいはい、おめでとー」




 パチパチパチと拍手が響く。


 なるほど腕時計を確かめると、確かに日付が変わっている。




「えーと……ありがとう。でもこれ、本当に何なの? 何でこんなとこでお祝いなの?」


「ふむ、じゃあこれを見てもらおうか」




 英一郎は、クイ、と指を持ち上げた。


 すると、少し離れた所にあった巨岩が浮かび上がった。




「え……」


「ははは、トリックじゃないぞー。そーら」




 英一郎の指の動きに合わせ、巨岩が久太郎達の頭上を舞った。




「お父さん危ないー。調子に乗ってぶつかったら破片でも死んじゃうかもしれないんだよ?」




 アホみたいに口を開ける久太郎を尻目に、藍那が英一郎に抗議していた。




「ふっ、心配無用。これでもそれなりに微調整を心掛けているんだ。そんなヘマは……おおっと」


「ちょっ!」




 不意に岩がバランスを崩したかと思うと、藍那に迫った。


 藍那の目が緋色に輝いたかと思うと、岩は瞬時に炎に包まれ、焦げ臭い匂いと共に燃え尽きた。




「いやー、すまん。それにしても藍那、また火力が上がったんじゃないか?」


「誤魔化しても駄目よ、お父さん。お母さん、やっちゃって」


「ええ」




 志織が英一郎の後頭部をはたくと、スパーンッといい音が鳴った。


 英一郎の眼鏡が吹っ飛ぶレベルの威力である。




「って、普通に叩いた!?」


「それはそうよ、キューちゃん。私の能力は未来予知(・・・・)だもの。かといって、アイちゃんに任せると消し炭になっちゃうし」




 志織のおっとりした笑みに、藍那は肩を竦めた。




「さすがに、父親を焼き殺すつもりはないわよ。とにかく簡単に言えば、あたし達の一族は、成人を迎えると異能に目覚めるの。アンタもよく読んでるでしょ、そういうラノベ」




 ボウッと藍那が掲げた指先から巨大な炎の玉が出現する。




「いや、読んでるけど……成人って」


「この場合は昔の成人、一六歳。そんなことよりアンタの能力よ。それを検証する為に、こんな所まで来たんだから」


「そういうことだ。久太郎。お前の中にも力がある。それは間違いないんだよ」




 吹っ飛んだ眼鏡を回収した英一郎は、眼鏡拭きでレンズの汚れを払った。




「な、なんでそんなの……」


「分かるのよ。お母さん、一年前に『見た』もの。……ちょっと先とか数日後は駄目なのに、地味に使い勝手が悪いのよねえ」




 はぁ……と志織はため息をついた。




「どうもウチの家系の能力ってどれも強すぎて、潰しが利かないみたいなのよ」




 巨岩を持ち上げる、英一郎の念動力。ただし、小さなモノなら粉砕してしまうし、細かい作業はできない。


 数年先を見通せる、志織の千里眼。ただし、明日の天気は分からない。


 巨大な火を生み出す、藍那の発火能力。ただし、小さな火は生み出せず、肉や魚は大体消し炭。




「いいじゃないか。藍那のそれはオンオフが可能なんだ。消防隊からはもう、声が掛かってるんだろう?」




 そう、大きな火を消すことも藍那はできる。


 大火災なら、藍那の能力は引っ張りだこだろう。




「私、デザイン系の仕事に就くつもりなんだけど……」


「民間協力でも、謝礼はそれなりにもらえるわよ。お母さん、あなたの進路に反対はしてないでしょう?」


「う~~~~~」


「しかし志織、本当にいいのかね」




 新たな岩を地面から持ち上げ、妻である志織に視線をやる英一郎。




「心配だけどまあ……見えちゃったし。エネルギーは溜めとくと、暴走しちゃうでしょ?」




 志織はおっとりと笑いながら、ねえ? と同意を求めるように久太郎を見た。




「ね、ねえ、父さんも母さんも、さっきから何の話?」


「気をつけて行ってこいってことだ。どこに行くかは知らんけどな」




 英一郎が指先を動かすと、ヒュッと宙に浮いていた大岩が消えた。


 そして、ヒラヒラと手を振る志織。




「いってらっしゃい、キューちゃん。大丈夫よ、戻ってこれるのもお母さん、ちゃんと『見た』から」


「え」




 不意に影が差した。


 見上げると、いつの間にか久太郎の真上に移動していた大岩が、彼に向かって自然落下し――








 ――久太郎は青空を見上げていた。


 倒れているらしい。


 背中には草の感触。


 気絶していた? どれぐらい?




「…………」




 目をこすった。


 気のせいだろうか。


 太陽が、二つあるように見えるのだが……。




「……起きました?」




 ひょい、と唐突に、女の子が久太郎の顔を覗き込んできた。




「うわあぁぁっ!?」


「ひゃうっ!?」




 久太郎は、背泳ぎの要領で飛び退いた。


 そして可愛らしい少女の方も、久太郎の悲鳴にペタンと尻餅を突いていた。


 頭に輪があり、長い髪は水色で、背中には羽……いわゆる女神や天使と呼ばれる姿をしていた。


 そしてその身体は、半透明に透けていた。


 まるで霊体だ。




「え? え? 何だここ誰だ君、って人間じゃない!?」


「お、落ち着いて下さい」


「いや、落ち着けっていわれても何が何だか……」




 ただ、確実に分かることはある。


 久太郎の視界に入るのは、白い雲と同じように流れていく大きな岩、小島、大陸……。


 遠くに見えるのは、遠近感が狂っているんじゃないかと思えるような大樹。


 目の錯覚なんかじゃなく、太陽も二つある。


 頭によぎるのは、小澄家の――強すぎる異能(・・・・・・)


 すなわちここは。




「ようこそ、初めての来訪者さん。わたしは、この名もなき惑星の意識体です。どうぞよろしく」




 名もなき少女は微笑んだ。


 ……どうやら久太郎の能力は、いわゆる瞬間移動。


 そして――惑星間を跳躍してしまう異能らしかった。

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