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魔王女リュビの花婿探し(イケメンハンティング)〜私は理想の人と結ばれたいんです〜

 お父様から渡された十数枚の肖像画を前に、私は渋い顔でそれらを眺めていた。




「姫様、魔王陛下から最低限お一人とは見合いをするよう言い付けられております。ですからどうか、この中からお好きな殿方をお選び下さい」




 私、リュビ・ライゼ・シックザールは魔界の姫だ。


 もうじき十八歳を迎えようとしている私は、長命な魔族の中ではまだ若すぎる。


 けれども身体はもう立派な女性で、子供を産む準備が出来ていた。


 その為、そろそろ婚約者ぐらいは決めたらどうだと魔王軍の幹部や貴族達が(うるさ)いのだ。


 だから魔王であるお父様は、次期魔王となる私に相応(ふさわ)しい花婿候補に声を掛けた。


 つまり、今眺めている肖像画のモデルこそが私の未来の伴侶として検討されているのだけれど……。




「無理よ! どう見たって無理だわペルル!」


「そこを何とか……」


「貴女にも分かるはずだわ! 届いた肖像画のどれを見ても、納得のいく相手なんて誰も居ない……!」




 怒りで自分の魔力が乱れているのが分かる。


 額縁に入った絵が掛けられた壁を前に、私は魔王軍幹部の一人であるペルルに叫ぶように訴えた。




「だって……だってイケメンが誰一人居ないんだもの!!」




 魔界は今、深刻なイケメン不足に見舞われていた。


 千年前に起きた魔族と人類との大戦争。


 その戦争では、勇者達との闘いに敗れた者達があまりにも多かったという。


 長命であるが故に子供が産まれにくい性質を持つ私達は、千年の時を掛けて少しずつ当時の勢いを取り戻しつつある。


 けれども、魔族の中にも子供の出来やすさに違いがあった。


 豚型魔族のオークや竜型魔族リザードマンなんかが良い例だ。


 彼らの繁殖能力はゴブリンには劣るものの、肖像画の半数は腕っ節が評判のオークとリザードマンの戦士ばかりなんだもの。


 後は水中戦が得意なサハギンや、森に棲すむウェアウルフなんかが並んでいたけれど、彼らも当然論外だ。




「もっとこう、見目麗しい魔人や吸血鬼なんかは居ないの!? どうしてこんなにいかにも荒くれ者っぽい動物系ばかりが候補に上がるのよ!」


「そういった殿方は人類界に移住していたり、既にご結婚されていらっしゃる方が多いですから……仕方の無い事ではないかと」




 一国の姫である前に、私は一人の乙女でありたい。


 だってほら、私みたいな美しい黒髪に妖しく輝く真紅の瞳を持った美少女の隣に、丸々と太った不潔なオークが並んで画えになる?


 ならないでしょ、どう考えても!


 オークに恋する乙女なんて、同じオークの娘以外に居るの!?




「私は政略結婚なんて絶対に嫌。互いに惹かれて愛し合えるような人とでなければ、結婚なんて死んでもしたくないわ!」




 魔界のイケメンが他の女性達に狩り尽くされた後だというのなら、私は手付かずの人類界で運命の人をゲットしてやる。


 そうと決まれば即行動。


 私は部屋を飛び出した。




「お待ち下さい姫様! どちらに向かわれるというのです!」




 ペルルがついて来るのは分かっていたから、それは気にせず急ぎ足で目的地へと向かう。




「宝物庫よ。そこで武器を調達するわ」


「あの、何がどうなってそんな話になるのですか!?」


「決まっているでしょう? これから人類界に行くからよ」


「そのような事、陛下がお許しになるはずがありません!」


「だからお父様には黙って行くのよ。あ、そうだ。貴女も来てもらうわよペルル。私一人では何かと不便だもの。女の二人旅になるけれど、魔王軍幹部の貴女が一緒なら安心だものね」


「そんなぁ……」




 項垂(うなだ)れるペルルをよそに、私は上機嫌で地下への階段を降りていく。


 鍵番に一声掛ければ簡単に宝物庫へ入る事が出来た。


 何と言っても私は次期魔王だもの。それぐらい当然よね?


 広々とした魔王城の宝物庫には、この千年で世界各地から収集した様々な品が保管されている。


 その中から使えそうなものを選んでいく。




「前にお父様からここにある物の説明を受けておいて助かったわ。ええと、これは確か邪竜の炎を封じ込めた魔剣で、こっちが持ち主の体型に合わせて変化する鎧だったわね。よし、まずこの二つは持って行きましょう!」


「ひ、姫様……貴重な品を勝手に持ち出して良いのでしょうか……」


「良いに決まってるじゃない! お父様の物は私の物と言っても過言じゃないわ。どうせ誰にも使われずにお宝を眠らせたままでいるより、こうして有効活用した方が良いのよ!」


「何をどう有効活用するってんだ?」




 聞き慣れたガラガラ声。


 呆れを含んだその声に、私は恐る恐る振り返った。




「お、お父様……」


「急にリュビが宝物庫を開けさせたって報告を受けて来てみればこれだ。ペルル、お前が付いていながらこれはどういうこった?」




 魔王に相応しい威圧感と眼光が彼女に向けられる。


 白くてふわふわな髪と恐怖に震える姿が相まって、まるで捕食者に狙われる兎のようだ。


 確かにお父様は怖いかもしれない。


 でも部下は大切にしているし、一人娘の私にだって亡くなったお母様の分まで愛情を注いでくれる。


 だからお父様がペルルに危害を加える事はないだろうけれど、怯える彼女があまりにも不憫で居ても立っても居られなかった。




「待ってお父様。ペルルは何も悪くないわ。私のワガママに付き合わせてしまっただけなのよ」


「姫様……!」


「ほう? それじゃあ訳を聞かせてもらおうか。いったい何を企んでんだ、リュビ」




 こんな状況なのに心配そうに私を見詰めるペルル。


 いつも私の勝手に付き合わせてばかりだけれど、こんな私を見放さずにいてくれる彼女には感謝している。


 見上げなければ視線が合わないお父様とペルルの間に割って入り、私は言う。




「お見合いの件、全てお断りさせて頂きます」


「幹部や貴族連中はどう黙らせるつもりだ? いつまでも婚約を先延ばしには出来ねえぞ」


「だから私、花婿候補を探す旅に出ます。ペルルと一緒にね」


「婿探しだと?」


「ええ。私だって結婚するつもりはあるもの。ただ、自分の相手は自分で決めたいのよ。あの肖像画の中には私に相応しい人は居なかったから」




 するとお父様は腹を抱えて笑いだした。


 ついさっきまで仏頂面をしていたのに、お父様の大きな笑い声が宝物庫に響き渡っている。




「な、何よ! そんなに笑う事かしら!?」


「いやぁ、お前のそういう所は母さんソックリだな! いきなり魔王に求婚してきた女の娘が、今度は婿を探して旅に出るってか!」


「お母様ったらそんなアクティブな事を……!」




 まあ、私も似たようなものだから大笑いされてるんでしょうけど。




「良いぜ、気に入った! その行動力の高さは次期魔王に必要不可欠だ。魔王の夫として釣り合う男を探して来い!」


「良いの!? ありがとうお父様!」




 旅の許しが出た事があまりにも嬉しくて、思わずお父様に抱き着いた。


 お父様も私の頭を撫でてくれて、本当にこの人の娘に生まれて良かったと心から実感した。




「ペルル、リュビの世話は頼んだぞ」


「は、はい! この命にかえても姫様は自分がお護り致します!」




 こうして私とペルルは、お父様公認の花婿探しの旅に出る事になった。


 魔剣と鎧を身に付けて、他にも必要そうなものは一通り宝物庫から調達して準備万端。


 お父様が見送りをしてくれるというから、幹部達も集めてお城の前に集まった。




「気を付けて行って来いよ、リュビ」


「はい! 皆も元気でね!」


「行ってらっしゃいませ、リュビ王女!」


「姫様を任せたぞー、ペルル!」




 笑顔で手を振る彼らを目に焼き付ける。


 次にここへ帰って来る時は、愛する人を見付けた時だ。


 私は魔法陣を展開し、ペルルもそこへ足を踏み入れる。


 転移したい場所をイメージすれば、どこでも望む場所へと飛ぶ事が出来る。


 私が行くのは、イケメン渦巻く人類界。




「いざ、花婿探し(イケメンハンティング)の旅へ!」












 私は今、どこに居るでしょうか?


 暗く湿った地下。


 目の前には鉄格子。


 首には魔法の発動を封じるチョーカーが付けられて、ペルルとは離ればなれ。


 そう、ここは地下牢。


 私達は何と、美男美女だらけのエルフの国──その地下牢に来ているのです。


 何で地下牢なんかに居るのかですって?


 そんなの私が知りたいわよ!




「私はただ、理想の男性と結ばれたいだけなのに……!」




 それなのに、どうしてこんな所でしょぼくれなくちゃならないのかしら。


 ──その時だった。


 地下牢への階段を降りて来る足音がした。


 その足音は徐々にこちらへとやって来る。




「この者達が侵入者です」




 私の牢の前で足を止めたのは、看守の男と仕立ての良い服を着たイケメンエルフだった。


 陽の光の下で拝めば神々しさすら感じるであろうサラサラとした金髪に、エルフの特徴である長い耳。


 落ち着いた色合いの緑の瞳からは、彼の優しさと冷静さが見て取れた。


 これぞまさしく正統派エルフ。


 こんな状況で無ければ今すぐにでもお茶をご一緒したい──そう思わせるだけの気品と美しさを兼ね備えた理想的な男性が今、私の目の前に現れたのだ。




「黒髪の少女……貴女の名前は?」




 あふん。


 声までカッコいいとか恵まれすぎじゃないの?


 不審者扱いされている私に対して、そんなに優しく声を掛けるなんて……貴方は神か?




「……わ、私はリュビです」


「リュビさん。詳しくお話を聞きたいので、別室へ同行して頂きます。宜しいですね?」




 決めたわお父様。


 私、このエルフのイケメンを落とそうと思います!

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