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月花の君 ~月明かりに、君を待つ~  作者: suimya
第2章 嘘つきの夜が、来るまでに
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第52話 呪力と蜉蝣



「修練場?好きに使っていいわよ」



 そう言われて来たわけだけど。

 さすがは白峰家と言うべきか、修練場は想像を遥かに超えた大きさだった。



 屋敷の広さも然る事ながら、修練場の大きさ1つでも白峰家が秘める力が良く分かる。

 多くの家は存続する過程で、大なり小なり盛衰を繰り返すもの。



 けれど、白峰家の歴史にはそれが無い。

 例外中の例外として、今に至るまで衰退した時期が存在しないのだ。



 白峰家は祭事を司る神官の家系であり、女系でありながら代々が要職に就任。

 凪様も例に漏れず上軍の将、すなわち第3位の卿として廟堂の高みに在る。



 剣姫としての盛名と権柄に手が届く地位、そして常に盛んな状況下で蓄えられた白峰家の財力。

 その権勢の凄まじさは、次卿として上位に座る天宮家を軽く凌ぐ。



 伯雷様率いる染雪家には及ばずとも白峰家が怒らせれば手が付けられない、国内有数の家柄なのは間違いない。

 そんな家の修練場を借りる事に今更ながら迂闊だったか――そんな思いが過る。



「ふっふ〜ん、また坊っちゃんに勝つ時が来ちゃいましたね!」


「それは⋯⋯どうだろね。そもそも立ち会いでも無いし」



 ――呪力は形を成したから、後は自然と理解出来るようになる。

 あの時、霞から言われた言葉。



 その言葉通り、今は体の奥底に居座る霊力とは違う何かを知覚出来る。

 黒く澱んだような、それでいて凄烈な気配を漂わせる何か。



 といっても、知覚出来ただけでは何の意味も無い。

 そこから先で実際に使う為にはどうすれば良いのか。



 僕には何が出来て、何が出来ないのか。

 迂闊だったとしても、今はそれを知る必要がある。



「それじゃあ、小雪。お願い」


「はーい!」



 何の気負いも感じさせない小雪の返事、それと同時にかかる凄まじい重圧。

 前回は為す術も無かった小雪の重力陣。



 その圧力の凄まじさは相変わらず。

 少しでも気を抜けばあっという間に地面に縫い付けられてしまう。



 けれど、前とは違う事もある。

 霞は、呪力の正体は人の想いだと。



 法でも術でも無い、純粋な力の結晶だと言った。

 本当に呪力が人の想いを源泉としているのなら。



 想いは想像力を生み、想像力は形を生む。

 ならば、この重力陣だって――。



「⋯⋯止まれ!」


「うそっ!?」



 いつも使う短い言葉。

 それだけで前回と異なり、小雪の重力陣に亀裂が走る。



 小雪も陣を維持しようと力を加えているのか。

 足元で力が啀み合い、干渉し合い、大きく渦巻いている。



 主導権を奪い合う状況。

 浮かべるのは重力陣に触れる足裏から地割れを起こす想像。



「ぐっ、ぅぅぅ!!」


「!坊っちゃん、ちょっと待っ――」



 小雪の焦った声と、何かが割れる乾いた音。

 次の瞬間、重力陣だった物の破片が宙に舞い、圧力から解放される。



「⋯⋯よし!!」


「こ、小雪の⋯⋯」



 思った通り、呪力の根幹を成すのは想像力と認識力。

 想いと言うと漠然として分かりづらいが、要は物事や現象を適切に見定め、見極める力が必要という事。



 磨けば磨いた分だけ威力を増していく。

 思い描いた事、強く望んだ事を現実と化す。



 それが呪力という力の正体。

 想像力が尽きない限り、何でも出来そうな気さえする。



 もっとも、気さえするだけで実際はそうでは無いのだろう。

 例えば、死者を生き返らせたいと強く望んだとするならば。



 もし仮に朽ちた肉片に呪力で魂を入れる事が出来たとして、それは生き返ったと言えるのか。

 それは本当にその人の全てを再現出来ているのか。



 それはどこか良く似た、生き返らせた人間の願望が詰まっただけの別人でしかない。

 無限の可能性を秘めていそうな呪力にだって、必ず限界は存在する。



 ただ、それがどこに存在するのか。

 それを知るためには他に出来る事をもっと調べないと。



「小雪の、小雪の重力陣がぁ〜」



 重力陣を破られた事が余程悔しかったのか。

 僕の首元を両手で掴んで、それはもう凄い勢いで揺らしくる小雪。



 そんな状態の中、揺れに揺れる脳内で閃いた事がある。

 霊術の元となる霊力、そこに存在する7つの属性。



 【火】【水】【土】【風】の基本属性と【くう】【地】【央】の特殊属性。

 多くの人間は基本属性に適正を持っていて、特殊属性に関しては1つでも適正を持っていれば天才と呼ばれる程。



 そんな中、小雪はまさかの【空】と【地】の2つに適正を持つ。

 そんな小雪が前に見せてくれた、あの技はどうだろう。



「小雪、蜉蝣かげろうについて教えてくれる?」


「うぅ、もうそんな気分じゃありません⋯⋯」


「ならこの後、小雪の行きたい所に付き合うから!」


「⋯⋯ほんとですか?」


「うん!何時間でも付き合うよ!」


「そういう事なら⋯⋯」



 若干しょぼくれ気味のまま、目の前に居た小雪が消える。

 空間の揺らぎからして空蝉による加速だろう。



 数秒後、遥か先で姿を現した小雪。

 目測で⋯⋯大体50mくらいか。



「坊っちゃん?」


「えっ⋯⋯」



 いきなり目の前に現れた小雪。

 空間の揺らぎや気配は一切しなかった。



「これが蜉蝣ですね」


「⋯⋯やっぱり凄い技だね」



 空蝉で数秒かかった距離を1秒にも満たない時間で詰めてくる。

 これが前に見せてくれた小雪が編み出し、小雪にしか使えない技――蜉蝣か。



「どういう原理なの?」


「【空】の特性である圧縮と拡張、それを空間に使って移動してるんです」


「空間そのものを圧縮しているって事?」


「そうですね。例えば、重力陣の中でも空間そのものを圧縮しちゃえば影響は受けません。離脱する時は逆に拡張の特性を使えば⋯⋯こんな感じです!」



 目の前にいた小雪が先程と同じ離れた位置に立つ。

 小雪の重力陣は【地】の特性である圧力を駆使して生み出された物。



 指定された範囲内にある物を無差別に飲み込む巨大な力場でもある。

 当然、その中では術者本人も他人事では済まされない。



 小雪の場合、【空】の特性で【地】の特性を相殺する事で影響を回避しているという事だろうか。

 でも、空間そのものを圧縮・拡張しているのであれば、相殺できるのは重力陣だけじゃ無いのでは?



 気配も無く空蝉以上の速度で移動し、且つあらゆる力場に囚われない蜉蝣。

 初見殺しも良い所だけれど、おおまかな理屈は分かった。



 どうすれば呪力で似たような事が出来るだろう。

 ⋯⋯とりあえず、やってみるか。










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