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月花の君 ~月明かりに、君を待つ~  作者: suimya
第2章 嘘つきの夜が、来るまでに
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第46話 誘われた茶会、示されたのは逃れられない血の宿命



「⋯⋯呪王だったんだね」


「あまり驚かないのは悠雲と同じだね。これも血が成せる業かな?」



 霞が呪王――。

 普通なら驚くところだろうけれど、不思議と驚きは無い。



 寧ろそう言われた時に、すとん――と腑に落ちる物があった。

 僕の意志とは関係無く、自然とそれを理解する事が出来たのは多分――。



「霞も天宮?」


「天宮家はボクから始まった家だからね。玄悠も悠雲も、そして悠月くんも⋯⋯皆ボクの可愛い子達さ」



 天宮家の血筋は相当に古い。

 800年前の黎明期には既に国を形成し、その中心地である臨祠にて中京王室として存在していた。



 天宮家が霞の血筋というのならば、別に不自然な事では無い。

 氏雅様が講義で触れたように、臨祠は呪王が暮らしたとされる宮殿跡地に建てられた王都。



 呪王の末裔が同じ地に居を構えるのはごく自然な事と言えるだろう。

 寧ろ臨祠そのものが呪王の宮殿という可能性も。



 史書や歴史書では霞は呪王とのみ記され、その本当の名を知る人間は殆ど居ない。

 それは天宮家と呪王の関係を知る人間も殆ど居ないという事であり、臨祠と宮殿の関係も憶測の域を出ない。



 でも、それで良かったというべき。

 もしも天宮家が呪王の末裔だと知れ渡れば、天宮の血筋に連なる人間は酷い迫害に曝される。



「さて⋯⋯君を此処に呼んだのは他でもない。そろそろ呪力の扱いを覚えてもらおうと思ってね」


「呪力?」


「君が尾張で使い、玄悠も使っていたあれさ。呪力は天宮の血に溶け込んだ力ではあるけれど、扱える人間は多くない。強すぎる力というのは人を選ぶのさ」



 天宮の人間全てを危険に曝しかねない張本人。

 その霞が口にする呪力という言葉。



 ⋯⋯心当たりはある。

 それどころか、ついこの前も小雪との修練で使ったわけで。



 尾張で、修練で、僕の意にそぐわない現象を無理矢理にでも留める力。

 手合わせの時に玄悠様が見せた、全てを無かった事にする力。



 あの光景全てが呪力に依るものだと。

 であれば、尾張で僕が最後に見た光景も。



「悠月くんの場合、まだ形とも言えない。一度だけ形には成ったけどね」


「⋯⋯どうすればいい?」


「現状を理解して余計な事を言わない。話が早い子は嫌いじゃないよ。全ての物事は積み重ねさ。君が今まで何を見て、何を感じて、何を考えて生きて来たのか。綺麗事だけでは済まない、慈悲の欠片すら与えない人の悪意や欲望。それらを知ってこそ呪力の本質と形は決まる。玄悠は決して君を甘やかさなかっただろう?あれは、そういう事だったのさ」



 甘ったれた人間というのは物事の見切りが甘い。

 早い話が楽観主義と言うべきで、良く言えば善人。



 悪く言えば物事への理解を浅い段階で切り上げる傾向が強く、決してその深奥を覗こうとしない。

 自分の頭で考える事をせず、現状を有りのままに受け止める。



 その人にとっての基準は今しか無く、いつか誰かが変えてくれると信じられる。

 深奥を覗いたり物事の裏を読み取ったりしなければ、理不尽な暴力に曝されてもきっと⋯⋯。



 僕の場合、今まで過ごした環境が決してそれを許さなかった。

 武力で決する荒事に関しては小雪に頼りきりだったとしても、相手の思惑を掻い潜っての駆け引き等は日常茶飯事。



 霞の口振りだと、それら全ては意図的に用意された物だと聞こえる。

 今までの全てが呪力の形成の為にあったと言われても、いまいちぴんと来ない。



「言うよりも見せた方が良さそうだね」



 笑いながら雪のように白い掌を向けてくる霞。

 その表情と仕草に嫌な予感を覚える。



「ねぇ、今から死ぬよ」



 霞が掌を閉じた瞬間、体の中心に鈍い衝撃が走る。

 それはまるで、心臓を握り潰されたかのような痛み。



「綺麗な色だね」



 あまりの痛みに視界が点滅している。

 全身から汗が一斉に噴き出し、口から吐き出されるのは真っ赤な血。



 痛みで微動だに出来ず、喋ろうと口を動かしても言葉が出て来ない。

 食道を上ってきた血が肺に入ったのか、呼吸をする度にごろごろ言っているのが聞こえる。



 ただでさえ痛いのに、呼吸する度に違った痛みが全身を貫く。

 助けを求めるように痛みに歪んだ表情で霞を見れば、赤く染まった自身の指に見惚れている。



 霞の指からテーブルへと滴り落ちる、その赤い物の正体は何なのか。

 テーブル上を赤く染め上げる物、それは⋯⋯僕の血。



 僕が吐き出したのとは別の血が、霞の指を赤く染め上げている。

 それは決して乾く事は無く、絶えずテーブルへと新しい血を滴らせ続ける。



 それもその筈。

 霞む視界で捉えたのは、霞の掌に乗る小さな心臓。



 その心臓が鼓動を刻む度に新たな鮮血が噴き出し、汚れきったテーブルの上を更に汚していく。

 その心臓が誰の物なのか、痛みに抗いながら自分の胸に手を当ててみれば⋯⋯そこには大きな穴が。



 心に穴が空いた⋯⋯なんて事を考えてる場合じゃない。

 そんな風に現実逃避している間にも僕の体に供給されるべき血液が、無意味に垂れ流され続けているのだから。



「そろそろ理解出来たかい?」



 霞が再び強く手を握り締めれば掌にあった心臓が一層派手に血を撒き散らし、潰れて消え去る。

 それと同時にテーブルを激しく汚していた鮮血も消え、後に残ったのは何事も無かったかのような⋯⋯此処へ来た時と同じ光景だけ。



 まるで夢幻であったかのように消えた心臓と鮮血。

 僕が口から吐いた血すらも消えて、気付けば肺もごろごろ言わなくなっている。



 有り得ない、非常識な現象。

 そして、それら全てを無かった事にする力。

 


「⋯⋯。今のが⋯⋯」


「そう、これが呪力さ」












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