表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月花の君 ~月明かりに、君を待つ~  作者: suimya
第1章 月浮かぶ静寂に、始まりを告げる
30/73

第30話 主従の誓い - 2



 耳まで真っ赤になった小雪。

 その小雪が布団に潜り込みながら、頭と目だけをちょこんと出している。



 照れているのか、恥ずかしがっているのか、明らかに動揺している小雪と目が合う。

 その合った目も忙しなく左右に動いていて、表情もころころ変わる。



 その原因は、分かっている。

 そして、小雪が躊躇いながらも何を言おうとしているかも――



「⋯⋯坊っちゃん、本気なんですか?」



 重臣が去り際に残した一言。

 狸寝入りをしていた小雪の演技を見透かして放たれた、鋭利な言葉。



 それは小雪に刺さると同時に、僕にも思い切り刺さった。

 いきなり「本気ですか?」と聞かれても、今まで考えた事すら無いし⋯⋯。



「さっき剣聖の系譜というのを聞いたんだけど、小雪は凪様と姉妹弟子になるの?」



 答えられない事というのは、どんなに頑張っても答えられない。

 理由は言えないけれど答えられない事が、世の中にはある。



 僕だって平静を装っているだけで、内心ではかなり動揺しているのだ。

 勢いで決めて良い事柄では無い以上、ここは誤魔化しておいた方がお互いの為だろう。



「もう、誤魔化さないでください!」



 眉を寄せ、頬を膨らませる小雪。

 たったそれだけの表情の変化で、不満極まりない事が伝わってくる。



 それにしても⋯⋯これ以上無いほど見事にむくれたな。

 むくれた小雪をあまり見た事が無かったせいか、思わず苦笑いが零れる。



 ⋯⋯いや、ここは誤魔化さなくても良いか。

 本心を言えば、思わず可愛いと思ってしまったのだ。



 ただそれを表情に出す事に躊躇いがあっただけ。

 だから咄嗟に緩んだ頬を引き上げ、苦笑している風を装った。



「⋯⋯で、どうなんですか?」


「うーん⋯⋯」



 小雪を娶るかどうか――

 包み隠さずに言って、それは僕の独断では決められない。



 天宮家の後嗣たる僕の嫁取りは、絶好の政治材料だからだ。

 これを機に、今まで繋がりが希薄だった有力家と繋がる事だって出来る。



 先程お祖父様が決めると言ったのは、当然その辺りの意味が含まれている。

 当主の婚姻は一族の今後を決める重大事である以上、気持ち云々では決まらない。



 それに、今すぐどうこうなる問題でも無い。

 婚姻を結ぶ為には成人している必要があり、僕はまだ11歳。



 まだ1年近くは子供のままだ。

 だから別にこの場で何を言おうと、それは空虚な言葉の羅列に過ぎないわけで――



「坊っちゃん!」



 理由は言えなくても、答えられない事はあるのだ。

 とはいえ、このままでは小雪が納得しそうに無いな。



 じっと見つめてくる目は真剣そのもの。

 小雪は既に成人している以上、当たり前か。



 ⋯⋯僕にとって、小雪はどういった存在なのか。

 その答えは、誰に聞くまでも無く分かっている。



 それは――

 絶対に失いたくない存在。



 昨晩のように一度戦いが起これば、小雪と言えども命の保証は無い。

 たとえ死んだとしても、それは小雪が自ら選択したことによる結果。



 立派に戦い抜き、主を守りきった名誉ある死だった。

 きっと多くの人間は憐れみと慰めを込めて、僕に対してそう言うだろう。



 でも、僕はそれで納得なんて出来ない。

 僕のせいで小雪が居なくなってしまうなんて、僕は嫌だ。


 

 だから今かけるべき言葉は、これだけだろう。

 小雪としっかりと目を合わせ、そして伝える。



「生きててくれて、ありがとう」



 束の間の、沈黙。

 その間も目を逸したりはしない。



 これが今の僕に言えることであり、そして僕の気持ちでもある。

 小雪の求める答えになっていないとしても、ちゃんと伝えるべきだろう。



「⋯⋯ずるいです。もう、寝ますっ!」



 茹で蛸、という表現がしっくり来るだろうか。

 元々赤かった小雪の顔が、真っ赤に染まる。



 その状態のまま話を続けるのは、さすがに恥ずかしかったのか。

 最後にもう一度だけむくれて反対側を向いてしまった。



 顔は見えなくなっても、同じくらい真っ赤に染まった耳は見えている。

 寝息を立て始めた小雪の髪に触れ、その頭を優しく撫でる。



 いつもは逆だけれど、こんな時くらいは良いだろう。

 部屋の隅という事もあって、別に誰が見ているわけでもない。



「今度は僕が小雪を守るから。絶対に小雪を失わないよう、強くなってみせる」



 今回の一件で僕はどれだけ甘えていたのか、それを身を以て思い知らされた。

 もう二度と、僕が弱いせいで小雪に無理はさせない。



 絶対に失いたくない存在――

 自分の身だけじゃなく、小雪の事も守れるくらいに強くなってみせる。



 本当はこれもちゃんと言うべき事なんだろうけれど、さすがにこれは恥ずかしい。

 だから多少卑怯だとしても、今は小雪に聞かれないようにこっそり誓おう。



「坊っちゃん」


「⋯⋯ん?」



 気のせいか?

 いま、小雪の声がしたような⋯⋯



「やっぱり坊っちゃんはずるいです!」



 髪に触れる手の下、そこでは小雪の顔に喜色が浮かび、やがて満面の笑みへと変わっていく。 

 それを見た瞬間、自分の顔が急激に熱くなるのを感じる。



 きっと僕の顔は真っ赤になっているに違いない。

 それこそ、先程の小雪と同じくらいには――



「小雪、寝てたんじゃ⋯⋯」


「はぁ~、坊っちゃんがそんなに小雪を大事に思ってくれてたなんて。小雪は幸せですよぅ」


「いや、えっと⋯⋯あの⋯⋯」


「こういう事ほど、ちゃんと言って欲しいんですよ?まぁ、嬉しかったからいいですけど」



 ⋯⋯もう駄目だ、死にたい。

 きっともう何を言ったところで、舞い上がっている小雪には届かないのだろう。



 どんなに手で扇いでも顔の熱が引かない。

 際限なく熱くなっていて、まさか僕も茹で蛸状態になるとは⋯⋯



 そもそも小雪は一度狸寝入りしてたじゃないか。

 さっきの軽率極まりない自分を、思いっきりぶん殴ってやりたい。



「忘れてもらったりは⋯⋯?」


「さっきのお返しですからねー!それに⋯⋯」


「それに?」


「嬉しかったから、忘れるなんて嫌です」



 ⋯⋯何これ、可愛いんですけど。

 思わず僕の方が両手で顔を覆ってしまう。



 指の隙間からこっそり見れば、そこには満面の笑みを浮かべつつ、少し首を傾けながら僕を見ている小雪。

 少し意地悪そうな笑みも混ざっているけれど――

 


 この嬉しそうな笑顔と優しい眼差しを、僕は失いたくない。

 ずっと僕の側に、僕の隣にいて欲しい。



 ⋯⋯そう思ってしまった時点で、僕の負けか。

 もう一度、今度はちゃんと聞こえるように伝えよう。



「小雪、僕は小雪よりも強くなるから。僕が小雪を守ってみせる」



 目を合わせて、はっきりと小雪へ伝える。

 小雪へと伝える為だけに、小雪の為だけに紡いだ言葉。



 それは小雪へちゃんと届き、小雪の目に涙が溜まっていく。

 やがて溜まった涙は零れ落ちて――



「⋯⋯はい、守ってくださいね!」


 

 涙を流しながら笑う小雪の笑顔は、とても眩しかった。

 僕は、これからも小雪と共に生きていく事。



 小雪を守っていけるだけ強くなる事を、その笑顔に誓った――。








 第一章、完結です!

 最後くらいは甘口に⋯⋯と思ったら、作者的には激甘な展開になりました(笑)


 ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます!

 今後の予定としては、幕間の話を幾つか挟んで第二章に行こうかと思います。


 勝手なお願いなのは重々承知の上で、お願いです!

 第一章完結を一つの区切りとして、評価してもらえると大変嬉しいです。


 評価してもらえれば、作者は真夜中に踊り狂ってタンスの角に小指をぶつけ、それでも踊り狂うでしょう(笑)

 作者のモチベーションアップの為にも、どうかお願い致します!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ