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演目『帝都怪奇物語』  作者: 浪花 夕方
第1話「怪奇探偵社」
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「堕落のもの」8

貞香ちゃんを追って現れた安齋睦の手には確かに『妖魔』が握られていた。


より正確に言えばそれは『妖刀』。


この場合刀の妖魔。

妖魔召喚で呼ばれて出てくるものは生物型だけではない。


わたしにはあの小刀から黒い瘴気が立ち昇っているように見える。

そしてそれを目印に引き寄せられた力の小さい別の妖魔が集まって来ていた。


悪戯好きな、蝉のような羽の生えた一尺ほどの人型の妖魔、真っ黒い毬栗のようなものの群れ、意思のある動くヘドロなどが、あの小刀に触ろうと羽付き小人は手を伸ばし、ヘドロは安齋の足を伝い、毬栗の群れは浮遊して、刃に触り、そして当然触ったところから切れていった。


切れた体は液状化し、刃に吸収されていく。

その度に小刀は不気味さを増し、どんどん瘴気を濃くしていく。


引き寄せられたヘドロが足に絡みついて登ってくるおかげで、安齋は走れず歩いて追ってきたようだ。


しかしここは行き止まり。安齋は走れないが歩いてはきているので距離も近い。


貞香ちゃんが怯えてわたしの服を掴む。


「大丈夫、あいつの相手はこちらでするから。」


安齋の後ろからは京極さんが来ていた。

京極さんは何処から入手したのか鉄パイプを持っている。


結論から言えば、たった数日妖魔契約したばかりの男に京極さんが負けるはずがない。


大振りな攻撃を躱し、原因である小刀、それを持つ手を叩き落とし、安齋本人を蹴り飛ばして無力化した。


小刀が地面に落ち、あたりの妖魔が群がって消えていく。新しく妖魔を呼ばれないうちに京極さんは着ていた外套で小刀を包んで持っていく。


「もう大丈夫だ」


わたし達は妖魔の集まってきている空き地から離れるためにすぐに路地裏を移動する。


路地裏は人はいないが、呼び寄せられた妖魔や元々生息していたであろう妖魔が視界を埋めていた。主に外套で包んでいるが、微量に瘴気が漏れている小刀のせいである。


今も羽付き小人が小刀を盗もうと包みを腕から引っこ抜こうとあちこち引っ張って格闘している。


わたしと貞香ちゃんの前を歩く京極さんは前の警護を、わたしは背後に警戒して足早に通る。まだ日が昇っているのもあるが、力の小さい妖魔は基本的に無害だ。態々祓う必要はない。


ふと、隣を歩く貞香ちゃんが不安げな声を出す。


「さっきは助けてくれてありがとう、けど、あそこまで叩きのめして大丈夫なの?巡査に捕まったりしない?」


「まあなんとかなる。それにあれは……」


一度言葉を詰まらせる。まあいきなり『あれはあの小刀によって堕落した人間だから原因を離せば正気に返るよ』なんて言っても訳がわからないだろう。


「詳しい話は後日纏めて話そう。とにかく、君は巡査から執拗な取り調べを受けるだろうから、それに備えて休んで頭を整理したほうがいい。降神こうがみ、彼女の家まで送っておいてくれ。また狙われるかもしれない。」


「分かりました。」


「私はこっちを片付けてから事務所に戻る。」


それだけ言うと、いい加減抱えた小刀に飛びついて盗もうとする羽付き小人を振り払って京極さんは町の雑踏に紛れていく。


「さあ、送りますから帰りましょう。三門家は……円タク使うべきかしら」


貞香ちゃんはこれで元の日常に戻れる筈。

少なくとも妖魔事件は解決したから、後は警察の仕事である。


「ねえ、あなたたちって、助けてくれたけど、一体何者なの?」


その言葉に一瞬だけ頭が冷えた。

そう言えば、名乗るのを忘れていた。


「失礼、名乗ってなかったね。わたしは降神 美緒。あのお兄さんは京極悠之介。わたしたちは……探偵みたいなもの、だよ。」


探偵、ではなく探偵みたいなもの。

あくまでも、開木探偵社は妖魔の関わる怪異事件専門の解決屋でしかない。


貞香ちゃんにも分かるように噛み砕いて、謝罪する。


「お嬢ちゃんは事件に関わってしまった。その関係で住所や名前は知ってるの。ごめんね、本当は追いかけっこさせる前にどうにかするつもりだったけど、取り逃がしてしまった。こちらの失敗です。」


「結果的に助けてくれたのはいいけれど、何で私が狙われているの?あの不審者は?事前に言ってもらえれば……少なくともこんな大騒ぎすることも無かったのに!」


警告はした。

それを聞き入れなかったのはそちらの責任だろう。


そう言いたくなったのをぐっと堪えて、ただ謝罪する。


そう、まだ子供なのだ。きっと大人が警告を読んだ上で悪戯だと思って、良かれと思って貞香ちゃんの耳には入れなかったのだろう。


「……ごめんね。」


その後はずっと無言だった。

気不味い沈黙が続く中、円タクを捕まえる。

住所を運転手に知らせ、わたし達を乗せた円タクは走り出した。


もう二度と、わたしと関わる様なことがない様に、そう思いつつも、万が一のことを考えて、わたしの名刺を貞香ちゃんに渡す。


「これ、わたしの連絡先だから。何かあったら連絡してね」


貞香ちゃんは、渋々受け取る。

こんな散々な目にあうのは、こちら側の住民だけでいい。


また暫く書き溜めてきます。


※「一尺」…だいたい30cmくらい。(正確には30.3cm)

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