「破邪の太刀」律子捜査
「もう一度、現場に行ってみましょう」
好実たちが相互助成協会に出かけた後、荒れた部屋を片付けていると銀が言う。
「依頼人が見たものを見ないことには進展は無いでしょう。この時間だと帰りは電車は無さそうですね……車を使ってもいいですか?」
「それは構わない、がどうする?ここを開けておくのは流石にできない。いつ連珠が来るか、好実たちからの緊急連絡が入るかわからない。」
「伊呂波以外も手駒はいるんですよ」
インバネスの中から取り出した札は2枚。それに口を寄せて、息を吹きかけ手を離す。
「ようやく出番ですね!」
「待ちくたびれたぞ」
影から飛び出したのは子供のような姿をした妖魔だ。
一人は赤い髪の利発そうな少女、もう一人は白髪の少年。
幼子と違うのは、額から伸びる一対の角と、口から覗く鋭い牙。
「いいですか?私が帰ってくるまでこの拠点を防衛するんです。できますね?」
「わかりました!」
「了解した」
「相手は手練です。あなたたちが遅れを取ることは無いとは思いますが気をつけて。」
銀は初めて会った時のような弱々しさが失せていた。
半ば引き摺られる様にして外に出る。
今にも雨が降りそうな空模様だった。
「ずっと話を聞いて思っていたことがあります」
車の後部座席、周囲を警戒しつつ銀が話し出す。
「噂の女の幽霊さん、溺死した巫女なら、なんで流血してる状態で現れるのか。いえ、死ぬ前に流血していたのかもしれませんが、そこが違和感を感じるんです」
「違和感。そういえば、実際幽霊を見たのも1人だけなんですよね。他にも見た人間が居てもおかしくないのに。」
「まさか、依頼人が嘘をついているとでも?」
「嘘ではなく、例えばこれは__誰かが脚色を加えているのかもしれない。それが依頼人か、あるいは関わった全員かもしれない。人の記憶は都合のいいように改ざんされる。依頼人が見たものは本当でも、語る時は誰でも多少、表現に癖がある、そんな曖昧さでしょうか。」
「噂に尾ひれがついていく、その過程」
「この事件は生きてる怪異か、あるいは全て架空なのやもしれないですね」