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演目『帝都怪奇物語』  作者: 浪花 夕方
第3話「正義のみかた」
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「破邪の太刀」好実と相互助成組合

 今回、師匠であるあの爺が太刀を奪わなければ二度とこんなところには来なかった。


 立派な門構えの武家屋敷。帝都の五本を争う資産家の別荘で、帝都の郊外の山道の中にある。山一つを私有地としていて、普段人は立ち入らない。相互助成組合のある日にのみ貸し出していると聞いた。

 ここに来るだけでも一苦労だ。今日一日でだいぶ消耗している身としてはうざったいことこの上ない。


 僕が行く、なんて啖呵きったものの、昼寝から目が覚めてもまだ体は痺れていたし、動かそうとすると震えが止まらない。黙って刀を持っていかれた手前、格好つけてみたもののやはりそう簡単に治るものでは無かった。爺は今晩取り返しに来ることも見越して毒を盛ったのだろう。


「簡易的な毒消しです。」

 そう言って律子は赤いカプセルを押し付けた。正直動くのもやっとだったから有難い話だ、と思いつつ服用した。嚥下したのを認めると鬼がニヤニヤ笑って肩に腕を回す。馴れ馴れしい。


「今代の律子は毒のエキスパートですからネエ、効果は覿面デスヨ!覿面過ぎて、この薬が効いてイルと他の薬も効かナいデスし、副作用で次の日は一日中『あれ?もしかしてこいつ死んでる?』と言わレル位眠ってしまいマスが!効果はばっつぐんデェス!」

「飲む前に言えよ」


 悲しいことに鬼の方が戦闘の実力は上だ。いつの間にか片腕だけになっていても、その妙に愛嬌ある顔を殴る前に片手でやんわり止められた。

 確かに薬は効果覿面だった。足のふらつきも腕の震えもない。呼吸も楽になっている。数時間不自由していたからか体が軽くなったように思う。でも副作用くらいは先に言ってほしかった。


 こんな京極さん以上に厄介なやつと向かう先は相互助成組合。それは元々半魔の祓い屋同士の情報交換の場所。そして賞金稼ぎの仕事の斡旋の場。ここではどこの誰でもない。

 立場は皆平等、ということになっている。表向きでは。


 昔、一度だけ社長に連れられてここに来たことがある。

 帝都での怪異関係の情報収集の方法の1つとして社長自らが手解きしたものだ。結局、僕はここのいけ好かない狸爺どもより子分たちに聞いた方が手っ取り早く正確な情報収集ができるので、今日までここに来ることは無かった。


 正体を隠すための術式が使われた面布を着け、そ知らぬ顔して中に入る。普段なら身分の違いやその他もろもろで追い返されるだろうな。

 同じように面布を着けたさまざまな者たちが立ち話をしていたり、依頼交渉をしている中を縫うように進んでいく。まだ爺の気配はしない。半人半魔が多く区別がつきにくいというのもある。


「連珠の気配は……ありまセンね。」


 行く前に聞いたが、連珠兄弟もどうやら刀を狙っていて、僕が爺を相手にしているときにこの鬼と一戦交え、そして片腕を落としたらしい。

 会ったことはないが、『連珠』の生き残りがなぜあの刀を探しているのか。狗吼丸は降神さんが神社(実家)から持ってきた御神刀のはず。まあ、そんなことは後から本人に聞けばいい。しかし当の本人が見計らったかのように行方不明なのも気になるが……


 依頼書が並んで貼り出されている一角、そこに『狗吼丸の奪取』がないか探す。


「見当たりませんネエ?」

「……。」


 面布の下は見えないが、こいつは恐らく楽しがっている。

 こいつは連珠兄弟と再戦するために着いてきたようなものだからか、刀が誰のものになろうと気に留めない。と、いうよりも、使われる立場だからとやかく外部のことに口を出すことはできないのだろう。命令に背くことはできない、首輪をつけられた犬。京極さんと同じように。そう考えるとこの恐ろしい鬼が、少しだけ哀れに思える。主人が側に居ない今、自由になりたいと思わないのだろうか。

 そんなことを考えながらも、依頼書の古いものを順繰りに眺める。せめて、依頼主さえ分かれば。


 視界の隅で新しい依頼が追加される。新人の賞金稼ぎだと思われたのだろうか?依頼書を貼り付けている役員は僕の視界に入りやすいような高さに調整して貼り付けていた。意を決して横から話しかける。


「すみません、ちょっと前に刀を取ってくる依頼があったと思うんですけど、何か知りませんか?」

「それは、もう解決済みになったか、依頼取り下げのどっちかだろう。」


 背後から声がかかる。こちらが本物の賞金稼ぎだろう。役員はなにも言わず、一礼して去っていった。


「誰がやったかは知らないがね。その刀、あの連珠兄弟も狙っていると聞く。本当に刀を持ってこれたのなら相当腕がたつのだろうな。」

「誰が依頼したとか、わかりますか?」

「『降神(こうがみ) (よう)』。どこの誰かは知らないさ。この業界に名乗る以上、本名で無いことは確かだからな。」

「降神……、ですか。」

「左様。それにしても、最近は連珠兄弟が出張るせいで稼ぎにならない。その上妖魔の動きもどうも焦臭い。妖怪大戦争にならなければよいのだが。」

「ありがとうございます。」


 連珠兄弟に加えて降神さんまで絡んでいるのか。

 早急に降神さんを見つけないと、ややこしくなる。

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