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演目『帝都怪奇物語』  作者: 浪花 夕方
第2話「探偵社式悪魔祓い」
33/62

「悪魔の住む屋敷」17

京極の持っている太刀を見るなり二人の好実は顔を顰める。刃の纏う気配は強い破邪の力。妖魔の力を持つ二人にとって致命傷たり得る傷を付けることが出来る武器の登場であった。


「好実は二人を連れて逃げろ。余計にややこしくなる。」

「しょうがないですね、早くそいつをやっつけて来てくださいよ。」


そう言って好実は後ろの貞香の手を掴み、その部屋から立ち去る。

好実の姿をした悪魔はその身を歪ませ、だんだんと成人男性の姿に変わっていく。それがおそらく石川成実の姿なのだろう。


「お前が石川成実か。」

「ええ、ですがそれは仮の名。あえて名乗るとしたら、超越者……『与える悪魔』ナル。」


ナルが指を鳴らすと、部屋の床に映された青い円が回転し始める。その中央、京極とナルの間に割って入るように虫の羽の生えた青い肌の小人の集団が飛び出してくる。

京極は太刀を振り、横凪ぎに斬れば当たったものもそうでないものも、近くにいた小人たちは熔けるように霧散していく。

しかし数の多い小人たちは部屋中を飛び回り、京極の太刀筋から逃れようとしながらも、背後や頭上から小さな剣で攻撃してきている。無論小さすぎて大した攻撃ではないが数が多く、隙を見せれば傷口は広がっていく。さらに悪いことに斬られる毎に体力が吸われたかのごとく体が重く動かしにくくなっていく。尚も吹き出し続ける小人の群れに苦戦していた。それを見てナルは笑いながら、その場からうっすらと透けていく。

「知っての通り、私は弱小ですからあ、この世に留まるためには魂が必要なんですよう、より多くの魂を集めなきゃ、私を構成する命が消えてしまいますからあ。」


京極の前から消えたナルは屋敷の中を進んでいく好実と貞香の目の前に現れた。

「私から逃げられるとお思いで?」

玄関扉までもうすぐの所で現れたナルに貞香は絶望した顔つきになる。彼がここにいると言うことは京極が負けたということに他ならず、負けていなくとも苦戦していることが明らかだ。

既に手傷を負わされここにきて逃げる意欲を失わせるような事が起きればそんな顔つきになっても仕様がないだろう。好実はまだ半人前で純粋な力比べでは間違いなく弱小とはいえ完全な妖魔たるナルに敗北するということが判っていた。足手まといになる一般人も連れている以上戦わずに逃げることを優先しなければならない。


「いいですか、道は作りますから真っ直ぐ逃げてください。あなたがいたら邪魔です。」


好実は立ち塞がるナルに向かって突進する。確実に避けられることも折り込み済みで、兎に角相手を動かすことに意義があった。

「あなたくらいなら動く必要もありませんかねえ。」

例えその場に立ったまま突進を受け止められたとしても。

「子供の姿って、油断を誘いやすい所が便利ですよね。」

好実の手に収まっていたのは既に死んでいる短剣。この悪魔の眷属であり命を集める手下の骸であった。順手から逆手に持ちかえり体重をかけてナルの胸に突き立てる。死んで錆び、朽ちかけた短剣では切れ味が悪く刺さりも悪いが好実はそれを力任せに無理矢理押し込む。そして足を蹴ってバランスの崩れた隙をついてナルをその場に押し倒し、馬乗りになって拘束した。


「早く行け!」


貞香はその一連の行動を見て、呆然としていたがその切羽詰まった一言に我に返り、一目散に駆け出した。扉をくぐり、外に出たのを見送る。

「ふふっ、着いていかなくていいんですかあ?」

ナルは胸に短剣が刺さっていても、好実に押さえ付けられていても平気な顔をしている。むしろにやにやと嗤っているくらいだ。

「それにしてもさっきの一撃はつい喰らってしまいましたよ、半人間とはいえ半悪魔、そのことをつい忘れていました。」

胸に刺さった短剣を引っこ抜き、好実を振り落とす。上半身のみ起こし、短剣で開いた穴に手を当てる。穴はどんどん肉で塞がっていき、最終的には完治する。そこまでに時間は一分もかからない。

「悪魔の力の一つ、変身能力の応用。形態変化が使える人間は珍しい。その眷属を体内に隠して近付き、射程内で取り出す。まず初見なら見抜けない攻撃です。」

再び立ち上がった好実にナルはやれやれと肩をすくめ、立ち上がる。

「私に一撃を入れた点を評価して一つだけ言っておきましょう。あなた方は帝都を守る仕事をしているというのなら、真の敵は私ではない。本当に今のうちに殺しておくべきなのは三門家、特に優先するべきは三門作太郎。しかもこの屋敷には今その血族が一人いる。この好機を私が逃がすと思いますかあ?」

あと3話くらいで第二話は終わります。

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