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演目『帝都怪奇物語』  作者: 浪花 夕方
第2話「探偵社式悪魔祓い」
31/62

幕間・劇場公演中止

ふと、劇場全体が明るくなり耳障りな警告音が鳴り響く。

客席からはどよめきが起こり不安が蔓延る。


『この物語に重度の改変及び看過できない世界線同一現象の徴候が見られました。お客様は係員の指示に従って避難して下さい。繰り返します……』


放送スピーカーから響く女の声と合わせて劇場の係員たちが次々と客席の客を避難させていく。

その中で目立つのは中性的な容姿をした若い人物で、まだ少年のようにも、男装の麗人のようにも見えた。彼は係員とも違い、警官の制服を着こなし、腰に特殊な拳銃を下げている。腕には警部補であることを示す袖章がありその他に劇場に乗り込んだ警官隊たちとは違う立場にあるのが理解できた。

彼は語り手の元に一直線に走ってくる。


彼らは物語警察(ロマンス・ポリス)。物語……正確には物語として保存された世界線を守る者たちであり、立場は違えど語り手と志同じくする者たちだ。


「聞いての通りだ。劇場の公演は中止、貴様も署で事情聴取。いいな?」

「これはこれは警部補殿。嗚呼、ワタクシ無念です。最後まで語る事が出来なかったのはこれが初めての事で……なんたる屈辱か!」

「いいから、さっさと行くぞ」

「それでは皆様、今回の物語はこれでお開きに……」



語り手の言葉は途切れる。

スピーカーからの避難勧告からノイズが混じり、だんだん別の言葉に変化しているのを察知したためだった。

聞き覚えのない男の声。聞き取れた言葉は、その場にいる全員を更に混乱させるに十分だった。


『否、物語はまだ終わっていません。我々の物語は、まだ始まってすらいないのですから。【語り手】が語らないのならば、私がかたりましょう。【語り手】が語った物語の続きを、もう一人との出会いに至る物語を!』


呆然と立ち尽くす人の中、警部補は語り手の襟元に手をかける。


「どういう事だ!」

「いや、ワタクシに言われましても知りませんよ……それより放送室が何者かに乗っ取られたのですが」

ぱ、と警部補は語り手の襟元から手を離す。

胸元のポケットから無線を取り出し部下に連絡を始めた。

「放送室を抑えろ!」


「警部、放送室にはだれもいません」

「そんな……ならば今語っているのは一体誰なんだ?」


「語り手以外で、物語を語ることは出来ません。」


上層部(うえ)はお前が世界線同一化現象の犯人だと疑っている。あまり疑われるような言動は控えるんだな。」


今はその役割を降ろされた語り手……劇場主は持っていた本のページを静かにめくる。


「語り手を名乗る条件。その中でその世界線の人物が語り手として資格を得る時。その世界線を最後まで閲覧・記憶していること。そしてそれを語ることができる場所にいること。つまりこれは物語を語る事を諦めた私に対しての反逆です。」

「登場人物が語り手として本の中から語りかけているとでも?」

「エエ。」


めくるページはある部分で止まる。

本の三分の一、二章の最後。

それ以降のページからは文字が消去されていた。


世界線同一化現象による世界線崩壊。

文字の消滅は目に見える症状の一つ。

語り手は語る事でいくつも重なった世界線を一つにして安定させる。

ただ合わせるのではなく、平行に分岐した世界でもっとも安全で安定する結末に向かえるよう分岐を取捨選択し語る事で完結させる。

ところが世界線同一化現象は分岐点全てが一つに融合した状態になるために、起こり得るはずのない矛盾が重なることになる。結果物語は破綻して世界線は崩壊してしまう。


ましてそれが人為的に引き起こされているとしたら、物語文化そのものが消えてしまうかもしれない。


「今の語り手……この物語の内側での問題点を知る彼ならば、内側から世界線崩壊の危機を救うかもしれません。」

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