「悪魔の棲む屋敷」12
付喪神。
それは物に取り付いた妖魔である。
『九十九神』とも書かれ、古い物に持ち主の思い入れなどの残留思念が混ざり、そこに妖魔が取り付くことで擬似的に『意識を持った物』として存在する。
多くは元の持ち主に似た性質を持ち、時に人に悪戯を仕掛けることもあるという。
ものたちは好実の一言を聞いたとたん一気に静まり返った。
この一部始終を聞かれていたことに気付き、すこし気まずい。
ものたちはもっと人間と話がしたいがどう接したらいいのかわからないのだ。基本的に客自体は多いが自分たちと見たり話したりできる店主以外の人物は珍しい。
結局誰が何から話すか相談するためにものたち同士でひそひそ話を始めた。
二人も前に向き直りものに聞かれないように小声で会話する。
「付喪神を売買しているから『九十九殿』。確かにあの眷属も一種の付喪神と言えなくもない。だからあの部下はここに連れてきたんですかね。」
「いずれにせよ、今までここが見つからなかったのが不思議ね。それこそうちみたいに特高警察が潜入捜査しに来そうなタイプの店なのに。」
「基本的に妖魔を感じ取れる人間は僅かですから。ただの骨董店としか危険度が認識されていないんでしょう。」
その異様な雰囲気の中、店主が戻ってくる。
店の中は一気に静まり返った。
「調べて見ましたけど、やはり該当するのはありませんでした。」
「わざわざすみません。ありがとうございます。それともう一つ聞きたい事があるんですが、『悲願倶楽部』をご存知ですか?」
悲願倶楽部の名前を出した時、店主の顔つきが一瞬だけ変わったように二人は感じた。
店主は申し訳なさそうに苦笑している。
「ああ、ごめんなさい。最近のことは疎くて……外にはあまり出ないものですから。そうですね、代わりと言ってはなんですが最新の流行のことをよく知ってそうな人を紹介しましょう。」
「ありがとうございます。」
降神は手帳とペンを取り出してメモを取る。
「銀座の『クレド銀座二号館』ってビルの地下一階、バー『鶯』、そこで働いている佐伯姉弟ならもしかしたら知っているかもしれません。あそこは人との関わりが激しいらしいですから。」