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演目『帝都怪奇物語』  作者: 浪花 夕方
第2話「探偵社式悪魔祓い」
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「悪魔の棲む屋敷」7

「裏門にのこのこ現れた僕を待って居たのは数学の助教授でした。あの人は僕に目隠しをして、車に乗せてクラブハウスに連れて行きました。」


「その場所に心当たりは?」


「よく分かりません。多分遠回りしていたんだと思います。一時間くらい車に乗っていた気がしますから」



目隠しを外したのはクラブハウスに入ってからだった。

薄暗く、まだ太陽が出ているのに分厚いカーテンで徹底的に外を遮断している。

部屋は甘い匂いのする白い煙が充満していた。

半円状に並んだ椅子には大学生以外にも中年男性や老婦人までそれぞれが座っていた。

その誰もが瞑想でもしているかのように口や目を閉じている。


「皆さん、今日から我が彼岸苦楽部に入会する三門作太郎君です。是非仲良くしてあげて下さいね」


おざなりな拍手。あまり歓迎されていないようだ。


この時点で僕はもう馴染めなさそうと思っていた。思っていたのと違う。


「そこの空いている席に座って。そろそろ始めるから」


言われるがまま椅子に腰掛ける。

願いを叶える、とは何か。


椅子に座るとさっきまで立っていた場所に台車が運ばれてくる。赤い布の上には怪しく煌めく短剣や紙でできた箱が置かれている。


来た時には気付かなかったが、天井に埋め込まれていたプロジェクターが作動して床に何か模様を写していた。それは部屋の床全体を覆うような大きな二重円で、中に複雑な模様が描かれている。直線と曲線でできた模様に洋語で何か言葉らしいものがある。青白く床に映るその円に意味があるのだろうか。


恭しく口を開く先生。


「これから願いを叶えるために儀式を執り行います」


ずっと頭に浮かんでいた構想。

嫌な雰囲気。台の上の短剣。


「貴方達は選ばれた人間だ。叶えたい願いを持ち、そしてその為ならばどんなことも出来る可能性を秘めた人間」


手足が震える。考えるのがこわい。

俯きがちになる。床の模様。


「願いには対価が必要だ。」


床の模様。……魔法陣。悪魔主義者。


「そう、悲願を叶える為ならば……


人を殺すことも出来るでしょう?」


結局、入っただけで願いが叶うなんて碌なものではない。


手足の震えは胴体を駆け上がる。全身の痺れ。


「さあカードを引いて、次に願いが叶う幸運な方は誰でしょう?」


僕の座る反対側から箱が差し出される。

みな虚ろな目で穴の空いた箱に手を入れてカードを一枚取っていく。

そして訪れる僕の番。痙攣が治らないからまだ動けない。僕は先生をじっと見ることしか出来ない。


「おや、体調が悪そうですね。では代わりに私が引いてあげましょう」


箱に手を入れて出て来たのは、トランプのカード……スペードのエース。これに何の意味があると言うのか。


「これで全員引き終わりましたね、それではカードを裏返してこの台に並べて混ぜて下さい。私がその中から選んだ方が今回の願いが叶う方です。」


先生はカードをそのまま台の上に置く。

それに続いて他の参加者が我先にとカードを置きに行った。

好きなだけ混ぜられた後、先生が一枚を摘まみ上げる。


全員に見えるように公開された絵柄は


「おめでとう、スペードのエースです。さぁ、君の願いはようやく叶う」


他の人の隠しもしない嫉妬のこもった眼差しを受ける。

なぜ人を殺めなければ願いが叶わないのか、疑問に思わないのか。


「さあ、これを。」


台の上の短剣を差し出す先生。

心が冷える思い。不思議と体は落ち着いて来た。

ゆっくりと椅子から立ち上がる。

体はまだ痺れているけれど動かすのに問題はない。


「要りません。僕は人を殺してまで叶えたい願いなんてない」


「では、この苦楽部を抜けると?もう願いが叶わなくなっても良いのか。」


「構いません。」


そこで、今まで不気味に微笑んでいた先生から笑みが消える。無表情の顔は蔑みの色を帯びる。


「今すぐここから出て行きなさい。貴方は私に必要ない。」


僕はそのまま走って逃げ出した。部屋を出てからの記憶は曖昧で、どこを走っていたのかさえ忘れてしまった。

気が付いたら大学の救護室で眠っていた。

養護教諭の話を聞くと僕は廊下で倒れていたらしい。


夢だと思って帰り支度を始めると、鞄の中にあの短剣が抜き身のまま転がっていた。

今回で一旦連続投稿を切ります。

近いうちにまた投稿すると思いますのでちょっぴりお待ちください。

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