「悪魔の棲む屋敷」6
作太郎の過去回想回
遡ること数刻前。
貞香が探偵社を出て行った後のこと。
「それでは、何があったか聞かせてもらえますか」
「まず、これを見てもらいたいんです」
作太郎はおどおどと、少し危なっかしい手つきで鞄の中から布の塊と封筒、そして手紙を取り出す。
厳重に布で包まれたそれを机の上に広げて見ると、京極としては驚かざるを得ない既に錆び朽ちてボロボロになり所々が風化した短剣だ。
「これは」
「あれ、もうこんなに錆びてる……」
作太郎も驚いてまじまじと短剣を眺め、困惑し始める。
「こ、これはですね、ちょっと話すと気味悪いかもしれないですけど、三日前までは新品そのものだったんです。この三日間布越しでしか触ってないんです、本当に!」
京極の目から見てもこれは怪異で既に死んだ状態だ。生きていないのだから死んで錆びたのだろうが、それにしても少し早いような気がする。
「……これをどこで拾ってきたんです?」
「上手く言えるか分からないですけど、三日前の事です。」
◆ 三日前 甘利中央大学内
「悲願倶楽部って知ってるか?」
「ああ、選ばれし者のみが参加できる、願いが叶うっていう伝説の倶楽部だろ?」
「前佐々木クンが言ってたんだが石川はそれで願いが叶って来なくなったんじゃないかってさ」
「あの石川が悲願倶楽部にねぇ」
「まあ来なくても良いんだけどな」
前を行く二人組の会話に聞き耳を立てながら、僕は少し考えていた。
次の授業の教科書とノートの間には、「悲願倶楽部」の招待状が挟まっている。
『拝啓 三門 作太郎様
貴方ハ我ガ“ヒガンクラブ”ヘノ入会ニ足ル資格ガアルト認定サレマシタ。ツキマシテ本日放課後裏門デオ待チシテオリマス。』
その時の僕は浮かれていたのは間違いなく、自分が大学内の大多数の中から選ばれたという事に酔っていたんだろうと思う。
興味が無かった訳でも無かったから、自然と軽い気持ちで放課後に裏門に向かっていた。
大学は大正六年からの長い歴史の中での変遷の中で大きく姿を変えた。
土地は増え、校舎は増築改修を繰り返して複雑になり、そして無くなり忘れ去られる場所がある。
裏門はそうした変遷の中でできた場所の一つで、校舎から離れたところにある人が一人通れるかどうかの幅の小さい小さな鉄格子の扉の異名だ。門というより通用口が近い。
普段は雑草で覆われた、旧校舎があった空き地にポツンと取り残されている赤錆塗れた鉄の扉は丁度学生がこっそり抜け出すのに都合が良くて、生徒の間で裏口・裏門と呼んでいた。
誰も手入れをしていないから、自分の胸ほどの高さもある雑草が生い茂る空き地に初めて足を踏み入れる。
小さな羽虫や草が顔や足元を掠めて不愉快だったけれど、悲願倶楽部が気になっていた僕はそのまま足を運んだ。
やがて見つけた古い鉄の門の前で、僕を待っていた人がいた。
◇
「悲願倶楽部……なんとも胡散臭い集まりだな」
「仰る通りです。この時にもっと冷静になれれば良かったんですけどね。」
作太郎の回想は暫く続きます