表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
演目『帝都怪奇物語』  作者: 浪花 夕方
第1話「怪奇探偵社」
2/62

「堕落のもの」1

授業も終わり、掃除をして、あとは帰るだけとなった夕方。


私は急いで帰り支度を済ませて、教室のドアをくぐる。

学友や先生がそんな私を見て苦笑いしていた。


廊下を通るときに学友たちや先生とすれ違う。


「御機嫌よう、貞香さん」

「御機嫌よう、七佳さん」


「気を付けて帰れよ、三門」

「はい先生、さようなら」


靴箱で靴を履き替えて校門を出る。

学校のセーラー服は校外に出るとよく目立った。


門の外は迎えの車の人たちでごった返している。私はその中にある一つの車に向かった。


「ただいまお咲!早く車出して!お店閉まっちゃう!」

「貞香様、焦らなくてもお店が閉まる時刻まで充分時間はございます。」


私とお咲の乗った車はゆっくりと移動し始めた。


最近の帝都女学生の間ではモダニズムが流行している。

服装から髪型、持ち物、小説まであらゆる面で。

やたら洋装に和装を取り入れて見たり、髪を切ろうものなら、その日はその人は一躍人気者だ。


もっとも、モダンガールは若者の間では人気だが、大多数の大人たちには受け入れがたいらしい。

私の家でもそうだ。

女子は髪を伸ばすもの、という理不尽なしきたりで、勝手に髪を切ろうものならお父様から拳骨が飛んで来そうだ。


幸いなことに持ち物までは口出ししてこないから、好きな小説や文房具は買えるんだけどね。


今日は前々から女中のお咲と約束していた人気の雑貨屋に行く日なのだ。

新しい手袋やペンが私を待っている。


「早く行かないと、店内を物色するだけで帰りの時間になっちゃうじゃん。この後は作太郎兄様の大学にも行くんでしょ?」


作太郎兄様は私の二番目の兄だ。

名門の一つ、甘利中央大学に通っている。

成績優秀で優しくて顔もいいが、体が弱く、病気がちで、体調を崩しては誰かに迎えにきてもらうのが常である。もうすぐ徴兵令がくる年頃になるのだが、虫も殺せない性格の体の弱い兄様は後備軍にも受からないだろう。


「作太郎様は午前中の時点で戻られました。」

「なら、いいか。ついでに作太郎兄様のお土産も買っていこう。何がいいかな?」


その時だった。

後ろから何かがぶつかったようで、前に勢いよく体が揺れた。


「どこ見て運転してるんでしょう、後ろの車は……」


しかし、そうやってのんびりとこれからのことを打算する暇もなく、次の衝撃が来た。


「あっ、また!」


今度は横からぶつけてきたのである。

後ろからの衝突事故は決して多くはないが、かといって立て続けにぶつけることはない。

誰かが悪意を持ってやっているとしか思えなかった。


私たちの車は道路の脇に駐車し、ぶつけてきた相手の車もそのまま停まった。


お咲が文句を言いに席を立つと、向こうも出てきたのがわかった。

スーツを着た、いやに目付きの悪い、男。

その手は懐に入っていて、何かを取り出そうともたついているように見える。


「貴方、人の車に何度ぶつかれば気が済むんですか!もう車がボロボロです!」


しかし男はお咲を無視して、何故か車に乗っていた私の方にやってきていた。

__その手には小刀を持って。


違和感に気付いたお咲は、一目散に駆け出した。


「貞香様、お逃げください!」


流石に刃物を持った男をすり抜けて車に乗り込む勇気は無かったらしい。

走っていった方向から察すると警察だろう。


私は中の荷物を置いて車を降り、全速力で走った。

※「徴兵令」……満20歳男子を想定。作太郎は19歳。


※「後備軍」……軍隊の予備役のこと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ