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演目『帝都怪奇物語』  作者: 浪花 夕方
第1話「怪奇探偵社」
11/62

「堕落のもの」10

昨日のこともあり、外に出る用事には家族全員送り迎えがつくようになった。


家にいる親兄弟の中でも私の場合、被害者であるということで、また残党に襲われるかもしれないという名目で、暫く私服警官が近くを警護するらしい。


昨日の事件の顛末は家族全員知っている。それでも外に出ない、学校を休む選択肢が無いのは醜聞を避けるためだと、お父様が言っていた。


それが周りに見栄を張るための建前かそうでないかはさておき、学校に行ってからもおかしい事は続いた。


車から降りて校門をくぐった時も、今まで見たことのない、膝下までの大きさの黒い蜘蛛が、日向から木陰に向かって走っていた。その木陰には、よく見ると蜘蛛の巣があり、そこには丸々太ったネズミが首を括っていた。


思わず声に出しそうになったのを慌てて飲み込んだ。


それだけでも声を出して驚く光景なのに、その光景が他の人には見えていないようだった。

他の生徒はみな、学友と楽しそうにお喋りしながら、その蜘蛛の横を通り過ぎていく。

その蜘蛛の巨体を蹴り飛ばしそうなほど近くにいるのに、誰も見えていないのだ。


私はそっと、見なかったことにして靴箱に向かった。


次に遭遇したのはそれからすぐ、教室に入ったあとだった。


二階にある教室に入ってすぐ、北方向に窓があるのだが、そこを逆さまにぶら下がる掌くらいの大きさの小人が居た。五人ほどいる小人は、服を着ておらず、空いた窓の外からその指程の大きさの足を引っ掛け、楽しそうにゆらゆら揺れて居た。


あきらかにおかしいのに、周りはそれが当たり前のように、気にもとめずに過ごしている。


「ご機嫌よう、三門さん。窓の外を熱心に見ていらっしゃるけれども、何か興味深いものでもあるんです?」


背後から同級生の挨拶が聞こえた。

少し寝惚けていたのだろうか、窓に引っ掛かった小人なんて居るわけがないのに。


「あ、その、ご機嫌よう、別に何もないですよ」


「まあ、おかしい。何もないのにそんなに真剣に窓を見つめるなんて。それに驚きすぎですよ。」


そんな事が一日中続いて、ようやく学校が終わる。


校門を出て、家の車を探す。

昨日の車はぶつけられてひどい目に遭ったので、今は修理に出している頃だろう。

そのために今日は別の車だ。


「あれ、今日はお咲じゃないんだ」


運転席に座っていたのはお咲ではなく、普段あまり見ない顔の男性だった。件の私服警官かもしれない。


「すみません、三門の家に帰る前に寄り道をするように言われまして。時間は大丈夫ですか?」


そう言って彼は此方を振り替える。その時見えた彼の前のフロントガラスには、謎の透明な粘液が張り付いて、不規則に脈動していた。


「それならいいよ、早く行こう。」


車の窓から外を眺めると、流れる景色は夕焼けが街を照らしている。

ビルや民家は赤黒く夕陽を反射し、朝から続く得体の知れない薄気味悪さを加速させる。


むしろ、時間が流れるほどその得体の知れないものは視界に写る事が増えたような気がしていた。


「到着しました」


車を降りると、そこは帝都の、比較的新しく整備されたビル街だった。

ぐるりと見渡して、そしてある一角で視線は止まった。


五階建ての、季節外れで枯れた蔦の張った赤煉瓦の、周りのビルに埋もれてしまいそうな悪目立ちしそうな簡素な商業ビル、その三階。窓ガラスにはこう書かれてあった。


『開木探偵事務所』

一話ラスト分まで予約投稿してあります。

明日の16:00予定です。

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