第七話 宿泊と外食
「どうしてこうなった……」
タイガは頭を抱えていた。
「女の子と同部屋ってどんなギャルゲーだよ……」
「あの、やっぱり私と一緒の部屋なんて嫌でしたよね……」
「いや、違うんだ! 俺は全然嫌じゃないよ!」
何故こうなったのか。全ては三〇分前に遡る――。
カリンの案内によって、宿屋『ペガック』に着いたタイガ。店の名前に苦笑いしながら中に入り、フロントに行った。
「あの、男一人で一泊したいんですけど」
「申し訳ございません。本日は予約がいっぱいでして……」
タイガはフロントの人に声を掛け、空き部屋があるか確認するが、部屋に空きがないため泊まれそうになかった。カリンに事情を話し、この宿屋を出ようとする。
カリンが爆弾発言をする前までは……
「でしたら、私の部屋ダブルなので、彼をそこに泊めてもよろしいですか?」
突然カリンがそんなことを言い出し、タイガは外に出ようとした足を止め、フロントに戻った。
「あ、あのカリンさん? 何を仰てるのでしょうか?」
あまりもの出来事にタイガは敬語になってしまった。
「あ、また『さん』付けした! 罰として、私と一泊! 良いですね?」
「いや、でも……」
「いや、ですか?」
「喜んで泊まらせて頂きます!」
タイガはカリンの涙目+上目使いに完敗し、カリンの申し出を受け入れてしまった。
フロントの人もそれで承諾し、タイガはチェックインを済ませ、二人は同じ部屋に泊まることになり、冒頭に戻る。
因みに、支払いは全てカリン宛になった。タイガは断ったが――
「タイガは命の恩人ですから」
と言って話を聞いてくれなかった。タイガとしては宿泊費が浮くのは願ったり叶ったりだが、流石に女の子に払わせるのは男としてどうかと思う。
「なぁ、ホントに良いのか?」
「しつこい男は嫌われますよ? タイガ。私が良いって言ったら良いんです!」
「分かった。じゃあ代わりと言ったらなんだが、何か飯でも奢らせてくれ。じゃないと俺の気が収まらん」
どうしても彼女に何かしたいタイガは、ダメ下でご飯を提案する。それでもカリンは眉間にしわを寄せ、タイガを見る。
「良いんじゃない? カリンちゃん。タイガがここまで言っているんだからお言葉に甘えようよ」
「……はぁ。分かりました。それで手を打ちます。これで良いですか?」
「おう!」
タイガは笑顔で、右手でサムズアップし、ペルの言葉で、少々不満ながらもタイガの言葉に甘えたカリン。少し休養を取った後に行くことになった。
一〇分後、二人は支度して宿屋を出た。タイガは如月中のジャージ、カリンは白いワンピースに胸元に彼女の髪と同じ色のリボンがついていて、フレームが青のメガネを掛けていた。
タイガはそのメガネを見た時、一つ疑問に思った。
――あれ? さっきあんなメガネしてたか?
先程まで掛けていなかったため、とても不思議に思った。最初はコンタクトでもしているのかと思った。だが、タイガはカリンがコンタクトを外した行動は見ていないし、それに関係する物も見当たらないとタイガは周りを見た。もしかしたら、洗面所で外したのかと思い、カリンが準備中にトイレに行くふりをして洗面所を見に行った。洗面所でもコンタクトケースなるものは見当たらなかった。
――じゃあ、あのメガネは伊達メガネということになる。でも何で伊達メガネをする? お洒落か?
タイガの疑問は膨らむばかりであった。
「タイガ~! 準備出来ましたよ~!」
「お~う! 今行く~」
タイガは考えることを止めたわけではないが、今はご飯を楽しまないといけないと思いながら、カリンと二人で部屋を出た。
人や獣人が賑わう大通り。時間は分からないがだいぶ日が暮れてきた。タイガとカリンは繁華街らしき場所を歩き、店を探す。
「トカゲ料理『アジル』、オオカミ料理『ガオン』……碌な店無いな……」
御飯処らしき所を見て回るが、どれも独特な雰囲気のお店だった。
「どれもこの街の郷土料理ですよ? それを知らないなんてタイガは今まで何を食べてきたんですか?」
「なかなか棘のあるお言葉で……」
カリンの少しきつい言葉を貰ったタイガは、どういう料理を言おうか迷っていた。
――日本の郷土料理ってなんだ……あ。
「そうだな。郷土料理って言えるか分からないけど、『肉ジャガ』だな」
「ニクジャガ、ですか?」
初めて聞く単語にカリンは首を傾げる。このドルメサ王国には無い様だ。
「あぁ。肉ジャガはお袋の味代表だな」
「オフクロ……? タイガ、私の知らない言葉を知っているなんて、凄いですね!!」
――え? お袋も分かんないの?
この世界には存在しない言葉なのか、それとも、ただカリンが知らないだけなのか。聞こうとはしたが――
「タイガ! ここにしましょう!」
と言われ、結局聞けなかった。
カリンが見つけた店『ジャギー』。中に入ると、何となく雰囲気が日本に似ていた。店員に席に案内され、座ると机の上に広がっているメニュー表を見る。写真は張っていなくて、文字だけのメニュー表だ。
――『バータジャギー』に『照りマコジャギー』か。ジャギーばっかだな。
タイガはメニュー表を見ながら考えていた。もしかしてここは、『ジャギー』専門店なのではないかと。すると、カリンは『竜ジャギー』を注文した。タイガも真似して竜ジャギーを注文するが、来たのは日本でお馴染みの――
「これ、あれだよな……」
肉ジャガだった。