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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
幕間 タイガの過去
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第七五話 限界と自分の居場所

 始まりは唐突だった。中学に入学して最初に行われる、学力統一テスト。そこで俺は全教科満点をたたき出した。みんなはそれを褒めた。小学校から人付き合いの悪い俺だったが、何だか悪い気はしなかった。


『凄いな! 大和。お前今回の統一テスト一〇〇点かよ!』

『あ、あぁ……』

『お前頭良かったんだな! 今度勉強教えてくれよ!』


 だがそれも束の間。クラスの人の目は次第に不快な目へと変わっていった。


『おい。あいつまた小テストで一〇〇点取ったらしいぞ』

『マジかよ。マジで気持ち悪いな』

『カンニングでもしてるんじゃね?』

『確かに、最近授業受けてねぇもんな、アイツ』


 そしてクラスの人は、毎回学年二位の明日香を哀れむようになった。


『あんな奴のせいで、兵藤さん、一位取れないなんて……可哀想……』

『カンニング野郎が学年一位なんてやってんじゃねぇよ』


 俺も、俺自身が嫌いだった。そして、自分のこの頭脳が妬ましかった。問題を見るだけで何故か答えが分かってしまう。すると自然にペンを取り、気付いたら答えを書いていた。俺は恐怖を覚えた。だから俺は授業を受けなくなった。少しでもこの一〇〇点を取る現象(能力)を抑えたかった。けど、その期待は裏切られた。

 そして周りは俺の影口を言うどころか、遂に表にまで出してきた。

 まずは靴箱にゴミや虫を入れられた。毎度開ける靴箱から異臭が放たれる。周りの人はそれを見て俺を避けた。

 次は机の落書き。油性マジックで『カンニング野郎』とデカデカと書かれていた。それを見た担任は注意するだけで終わった。これで少しは緩和される。俺はそう思った。だが俺への攻撃は、緩和されるどころか、過激さを増した。

 俺を人気のない所に呼び出し、暴力を振るようになった。『毎回一〇〇点を取るカンニング野郎』というだけでクラスの底辺カーストに成り下がった俺に対し、周りは手段を選ばなくなった。


「――お前がっ! 一〇〇点なんてっ! 取ってんじゃねぇ!」


 俺は抵抗することなく蹴られ続ける。しかも上手いことに、外から見えない部分を攻撃してくるのだ。


「――お前達には分からねぇよ。問題の答えが分かってしまう俺の気持ちが」


 その言葉に相手の火が付いたのか、力が強くなった。そして、予鈴のチャイムが鳴る。それが唯一の合図。これで終わる。疲れ果てた相手は肩で息をしながら教室へ行く。学校が終わると、傷口を隠して家に帰る。そしてPCと向き合って、夜遅くまでゲームする。

 それが俺の日常だった。

 だがもう、こんな生活は懲り懲りだ――。


「――イガ、大河」


 誰かが俺を呼ぶ声がする。俺はゆっくりと、その瞼を開けた。するとそこには、俺の事を心配そうに見ている明日香の姿があった。


「明日香――」


 俺は身体を起こそうとする。だがそれは痛みで遮られた。


「今は動かないで。かなり酷い傷だから」


 そう言って明日香は俺の背中を支える。

 ここは何処かと辺りを見渡すと、薬品の臭いが鼻腔をくすぐった。


 ――ここ、保健室か……?


「そう。ここは保健室よ。校舎裏で倒れているあなたを先生が見つけてくれて、ここまで運んでくれたの。着替えも全部先生がしてくれたわ」


 顔に出ていたのか、俺が考えていた事を教えてくれた。確かに、雨で濡れた筈の服が乾いていた。

 そしてその事を知った明日香は授業を休んで、放課後まで俺の傍にいたらしい。

 俺は疑問に思った。どうして授業を休んでまで俺の傍にいたのか。どうして俺なんかの為に、そんな辛そうな顔をしているのか。


「――何で、授業サボってまで俺の傍にいたんだよ」


 俺は思わず聞いてしまった。

 そんな質問に驚いたのか、明日香は目を見開く。


「お前は学年二位だぞ。みんなから慕われてるんだぞ。なのに、何で俺なんかの為に……」

「何でって、それは――」


 そして微笑みながら、こう言った。


「幼馴染を心配する事なんて、当たり前でしょ?」


 俺にはよく分からなかった。幼馴染というだけで、普通はこんなに心配するものだろうか。なぜ顔を赤くしているのか。

 そんな考えが俺の脳を巡らせる。


「とりあえず、今日はもう遅いから帰りましょ。大河、立てる?」


 明日香はそう言って、俺に手を差し伸べる。だが、俺はその手を掴む事はなかった。それ所か、逆に明日香の手を払ってしまった。

 自分でも何が起きているのか分からなかった。掴もうとしていた筈なのに、気がついたら明日香の手を払っていた。


 ――ああ、そうか……


 その時、俺は確信した。


 ――俺は限界なんだ。クラスの奴にとやかく言われるのも。校舎裏に呼び出され、殴られるのも。そして――


 俺は明日香の事を見る。明日香は驚いて固まってしまっていた。


 ――明日香(コイツ)に優しくされるのも。全部全部、俺に起こりうる現実に限界なんだ……


 そう思った俺はベッドを立ち上がり、明日香の横を素通りする。


「ちょっ、大河!」


 明日香の呼び声に反応することもなく、俺は前を歩き続ける。


 ――ごめん、明日香……


 心の中でそう思いつつ、俺は家路についた。

 一人歩く帰り道。俺の横を通るのは一組の少年少女。幼馴染なのか、二人は笑顔で手を繋いでいた。恐らく小学校低学年くらいだろう。その時、俺の過去を思い出していた。


『ダメだよ大河。ちゃんとみんなの輪に入らないと』

『うるさいな。良いだろ? 俺にはゲームと本があれば良いの』


 そんなやりとりをしていたのを、今でも鮮明に覚えている。

 登下校は明日香と一緒で、家に帰ればすぐにPCを起動。ゲームを始める。学校へは本を持っていき、読書三昧。

 そんな俺に呆れながらも、明日香は俺の側にいた。

 そんな明日香に、俺は甘えていたのだろう。

 隣に明日香がいるのを当たり前に感じていたのだろう。それが今までの結果を生んだ。


 ――情けねぇな、俺……


 そう思っていると、気がつけば玄関前まで来ていた。

 この時間はまだ誰もいない。

 俺は鍵を開け、中に入る。


「――ただいま」


 そう言っても、帰ってくるのは静寂のみ。

 俺は靴を脱ぎ、重い足取りで階段を上がる。

 自分の部屋に入ると、バッグを適当に放り投げ、ベッドに横たわる。その瞬間、スリープ状態にしていたPCが起動する。チーム戦で行われるオンラインゲームの世界大会のお知らせが届いていた。

 それと同時に、沢山のメッセージが届く。


『Tigerさん! 是非私と組みませんか?』

『一緒に世界目指しましょう!』

『Tigerさんがいるだけでも心強いです!』


 そのメッセを見たとき、俺はニヤリと笑っていた。


 ――そうか……そうだったのか……


 気付くと俺はヘッドフォンを装着し、親父から買ってもらったブルーライトカット眼鏡をかけ、キーボードに手を伸ばし、返信を打っていた。


 ――俺の居場所は、ここしかないんだ……


 次の日から俺は学校に行かなくなった。

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