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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
幕間 タイガの過去
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第七四話 白紙のテストと幼馴染

 これは、今から三年前の出来事。


「たいがー! 早く起きなさい! 遅刻するわよ!」


 母さんの声で、俺は目覚める。小学校を卒業した俺は、近くにある市立如月中学校に入学した。小学校では友達がいなかった。基本一人で過ごしてきたし、休みの日も家でずっとネットゲーム(ネトゲ)ばかりやっていた。そして中学に上がり、入学式から一ヶ月経った今でもそれは変わらなかった。休み時間は読書、昼食は常に一人で食べていた。


「ふぁあ~……おはよ、母さん」


 俺が階段を下りてリビングに行くと、朝飯を作っている母さんの後姿があった。


「おはよう大河。早く顔を洗ってきなさい」


 そう言われ、俺は洗面所へと行く。中に入ると、既に顔を洗っていた親父に会った。


「お、漸く起きたか。どうせ夜遅くまでゲームしてたんだろ?」

「まぁな。結構いい所まで行ったんだけどよ、仲間が最後ヘマしてさ」


 俺と親父はゲームが好きだ。俺がネトゲを始めたのも親父が切欠だし、たまに一緒にやる。


「それはいいが、程々にしとけよ。身体壊すぞ」

「分かってるよ。そんなことより時間いいのか? もう八時だぞ?」

「まじ? んじゃ行って来るわ」

「いってらー」


 そう言って洗面所を出た親父。俺は親父の背中を見送ると、歯ブラシを手に持ち、歯を磨く。歯を磨き終えると再二階に上がり、制服に着替える。スクールバックに今日の授業で使う教科書を入れ、一階に下りる。そしてリビングには俺の朝食が並べられていた。


「いただきます」


 俺は母さんの作った朝食に手を伸ばし、食べ始めた。美味い。

 食べ初めて二〇分。俺は朝食を済まし、玄関を出た。ここから学校まで一〇分。HR(ホームルーム)が始まるのが八時四〇分。時間に余裕がある。俺はのんびりと、その足を学校に向かわせた。

 学校に着くと、殆どの人が教室にいた。教室の真ん中の方で喋っている人、後ろでじゃれあってる人。本を読んでいる人。様々だ。俺は窓際の一番後ろにある席に座ると、すぐさま本を出し、読書を始める。


「おい、始業の鐘が鳴ったぞ。席に着け」


 暫くすると、担任が入ってきてHRを始める。俺の担任は、体育教師であり、あれ程『熱血』という言葉が似合う先生は、現実であの人くらいだろう。


「今日は三限目の数学に小テストあるから、そのつもりでな。今日も一日ハッスルだぞ!」


 そう言って担任は教室を出て行く。俺は先生の言葉に、顔を引きつるしかなかった。


 ――何だよ、今時『ハッスル』って……


 だが、それと同時にひそひそと会話が聞こえる。周りを見ると、殆どがチラチラと俺を見ていた。どうせ俺の悪口を言っているに違いない。何故悪口を言われるのか。その理由は至極簡単なことだ。


「大和のやつ、どうせ今回も一〇〇点なんだろうな」

「カンニングだろ? まともに授業聞いてないやつが一〇〇点なんて、カンニングしかありえねぇよ」


 原因はテストだ。俺は入学してすぐのテストで、全教科一〇〇点を叩き出した。最初はクラスの人達からの賛嘆の声が大きかった。だが、次第にそれは減っていき、憎しみの声へと変わっていった。何故なら、俺はテストで一〇〇点しか取ってないから。自分でも怖くなった。だから、授業をちゃんと受けなくなった。居眠りは普通だし、名指しされても『わかりません』の一点張り。それでも俺は一〇〇点しか取れなかった。


 ――そうだ。今日のテスト白紙で出そう。そうすれば、俺が一〇〇点を取る事なんてありえない。


 俺はそう意気込み、三限目の数学のテストに挑んだ。

 始業の鐘がなり、数学の先生が入って来た。手にはテスト用紙を持っており、自身の荷物を教卓に置くと、すぐさまテストを配り始めた。


「え~、いつものことながら、カンニングした人は零点にします。不正行為等、行わない様にして下さい」


 そう言って、テスト用紙が俺まで回ってくる。俺は受け取ろうとするも、前の人が手に力を入れており、紙が取れない。


「おい。今回一〇〇点取ったらどうなるか、分かってるよな」


 するといきなり俺を睨み、顔を近づけていった。


「兵藤より高い点数取ったら、覚えとけよ」


 兵藤(ひょうどう)明日香(あすか)。このクラスでアイドル的存在。彼女は文字通り『スポーツ万能』『成績優秀』の才色兼備だ。そんな兵藤でも、勝てない奴がいた。

 そう、俺だ。

 俺が毎回満点を取るせいで、彼女が一位になる事は無かった。だから彼女を慕っているクラスの人間は、俺が邪魔だった。


「……安心しろ、今回は白紙で出す。これで満点どころか零点だよ」


 俺の言葉に、前の奴はニヤリと笑って、前を向く。そして先生の合図により、テストは開始される。だが俺はテストを開くどころか、ペンすら持たなかった。約束通り白紙で出す為、テストと開始直後に机に顔を伏せ、寝た。

 暫くしてからだろうか。先生がテスト終了の合図を出した。後ろから回ってくる答案に、俺の答案を重ね、前の奴に渡す。前の奴が、俺の答案が白紙だと確認すると俺に拳を向けてきて『流石』と言ってきた。俺も嫌々拳を出し、その拳と合わせた。

 昼休み。昼食を済ました俺は本を持ってある場所に向かった。


「やっぱここは風が気持ちいいな」


 俺の昼休みは基本、本を持って屋上で読むことだ。生憎今日は曇り空だが、五月という事もあって、過ごしやすかった。

 俺は一人のんびり本を読もうとすると、誰かが屋上に出てきた。


「やっぱり、ここにいた」


 その人物は、クラスで大人気、兵藤明日香だ。


「全く、隙あらばいっつもここにいるんだから」

「別に、俺が何処にいようが、お前には関係ねぇだろ」


 何故クラスの人気者であるこいつと親しげに話しているのか。


「って言うかお前。学校では話さない約束だろ。何普通に約束破ってんだ。こんなのクラスの誰かに見られたら、何か言われるぞ」

「別に、私が誰と話していようが関係ないじゃない。それに、私がいないと、大河一人ぼっちでしょ?」

「余計なお世話だ。兵藤は兵藤で――」

「ねぇ、その『兵藤』って言うの止めてって言ったでしょ? 私達、幼馴染なんだから」


 そう。俺と明日香は生まれたころからの幼馴染だ。なんでも、親が学生の頃からの知り合いらしく、俺と明日香が生まれてから殆ど一緒に過ごしてきた。そんな俺と明日香が幼馴染だという事は、誰も知らない。


「別に幼馴染でも、苗字で呼ぶ奴もいるだろ」

「私が嫌なの。それより大河。あんたテストの時寝てたでしょ」

「まぁな。お前の信者に言われたんだよ。今回テストで満点取ったら覚えとけよって。あれは脅迫だな」

「まさか、白紙で出したなんて言うんじゃないでしょうね」

「そのまさかだよ」


 幼馴染は時に怖い。何故なら、互いの行動が長年の勘で分かってしまうから。


「ホント、あんたって救われないわよね。ただ頭が良いだけで、周りから白い目を向けられる」

「それに比べ、お前はスポーツ万能、成績優秀の才色兼備。おまけにクラスのみんなにモテモテ。そんな俺とお前じゃ、水と油だよ」


 俺は開いた本を閉じ、立ち上がってケツをはたく。


「お前は遅れてこい。取り敢えず、もう学校では関わんなよ。お前が何言われるか分かんないからな」


 そう言って俺は校内に入った。


「……バカ」


 最後にあいつが何かを言ってたが、俺は聞えなかった。


『一年、大和大河。大和大河。至急職員室へ。大和大河。職員室へ』


 教室に帰ろうとした時、ふと、校内放送が流れる。恐らく、テストの事がバレたんだろう。


 ――めんどくせぇ。だから白紙で出したくなかったんだよ。


 そう思いつつ、俺は教室に本を置き、職員室へと向かった。

 職員室に入ると、数学の先生が俺を生徒指導室に連れて行った。そこには学年主任が座っており、机には先程のテストの答案用紙が置いてあった。


「座りなさい」

「は、はぁ」


 俺が中に入ると、学年主任がそう言う。それは指示に従って、向かい合わせに座った。


「で、これはどういうことだ?」


 早速、学年主任は机に置いてあったテストを持ち上げ、俺に見せてきた。


「別に。授業をまともに受けてないんで、テストが分かりませんでした。なので白紙で出しました」


 半分本当で、半分嘘。こんな言い訳が通用できるかと言われたら、答えは否だ。何故なら、相手は学年主任だから。


「確かに、お前の授業態度は目に余るものがある。だが、それでも君は全教科満点ではないか。今回の中間が、それを物語っている」


 そう言って、主任は先週行われた中間テストの結果を見せてきた。俺が授業をサボり始めたのは四月後半。テストは五月半ばに行われていた為、授業をちゃんと受けていないと、まず満点はあり得ないのだ。


「こういっては何だが、君は授業を受けていなくても、点数は取れる。なのに、分からないから白紙というのは、嘘にしては(いささ)かきつくないか?」


 こういう時、教師は知ったような口を利くから嫌いだ。俺の何が分かるってんだ。

 イラついた俺は、少し強い口調で話す。


「先生は俺の事、期待しすぎじゃないですか? 俺だって人間です。間違いがあれば、分からない事だってある。俺は物知り博士じゃないんですよ? なのにテストで満点取ったからと言って、今回のテスト白紙だからといちいち呼び出すなんて、勝手にも程がありますよ」


 おれの言葉に、教師陣は目を見開く。まさかここまで反抗するとは思ってなかったのだろう。だが、正直迷惑だ。俺は好きで満点を取ったり、学年一位になってるわけじゃない。

 俺は言いたいことだけを言い、失礼しますと言って生徒指導室を出た。これで一段落、と思ったが、そうはいかなかった。


「よぉ、大和」


 テストの時、俺に話しかけてきた奴を筆頭に、四、五人連れて生徒指導室の前に立ってた。


「俺達、ちょっとお前に話があって待ってたんだ。来てくれるよな?」


 その表情に、俺は反吐が出そうだった。外から見ればただのお誘い。だが俺からしてみればただの脅迫。正直行きたくないが、ここでいかなかったらもっと面倒くさい事に巻き込まれるに違いない。そう思った俺は渋々付いて行った。

 連れていかれたのは体育倉庫の裏。ここは人目に付かない場所であり、大方何をされるかは明白だった。


「うぉら!」

「ぐは――っ!」


 するといきなり、取り巻きの一人が俺の鳩尾を殴った。いきなりの出来事で俺は付いて行けず、肺の中の空気が一気に出て行くのを感じた。


「何で! てめぇが! 兵藤さんと! 親しげに! 喋ってんだよ!」


 言葉の一つ一つに力を入れながら、俺を殴る。どうやら俺と明日香が喋っているのを誰かが見てたようだ。俺を殴っている男を見て、他の奴らも殴る。いわゆるリンチだ。


「知るか……よ。あいつが勝手に……」

「んな訳ねぇだろクソが!」

「――っ!」


 俺が喋ろうとすると、さっきより重い拳を、鳩尾に決めてきた。俺は立ってるのもやっとだったが、今まで黙ってみてた、リーダー格の男――俺を誘った男――が止めを刺すかの様に、俺の左頬を殴った。俺はその衝撃に耐えられず、その場に倒れこむ。


「二度と、兵藤に近付くな」


 そう吐き捨てると、俺を置いて教室に戻って行った。意識が朦朧とする中、昼休みの終わりを知らせる鐘が聞こえる。動くことも出来なくなった俺は、突然降り出した雨に打たれながらそのまま気を失った。


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