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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第四章 厄災の神殿
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第七二話 真実と休業

「んじゃ、本題に入りますか。あの神殿の、本当の事を」


 タイガは真剣は顔になり、今回の事をゆっくり話し始めた。


「カリン。お前は俺に行く前、神殿はどんな所って言ってたか覚えているか?」

「覚えているもなにも、忘れる訳ありません。あそこは別名終焉の地。中に入れば二度と外には出れず、知らぬ間に命を落とす。そしてその神殿の中に眠るイージェの箱。それを開けてしまえば、この世界は滅びる」


 カリンはタイガの出発前と同じ事を口にした。そして何かに気付いたのか、ミルミアが口を開いた。


「あれ? その話って確か、デマなんじゃなかったっけ?」

「え?」


 そのミルミアの発言に、カリンは首を傾げてしまう。


「そう。今話したカリンの内容。あれは半分デマだ」

「デマって、どういう事です?」

「まず、中に入ってしまえば外には出れない。それは本当だ。実際、俺らが外を出ようとしても出れなかったからな。それ以外全部嘘なんだ。あそこは終焉の地なんて呼ばれてないし、イージェの箱なんて物も存在しない」


 タイガの言葉に、カリンは信じられないような顔で聞いていた。


「だが、別の問題が発生した」

「別の問題ですか?」


 カリンの言葉にタイガは頷く。


「あの神殿の本当の名前はバルティアス神殿。そこに封印されていた邪神が復活した」

「な――っ!」


 タイガ以外、絶句した。ミルミア達も驚いているのは、ただ単にタイガが話していなかったからである。


「ま、待てよタイガ! 一体いつ、その邪神の封印が解けたんだよ!?」


 声をあげたのはレーラ。彼女が一番驚いていた。


「落ち着けレーラ。俺達がガモ村付近に着いた時、村長の偽物が来たよな」

「あ、あぁ」

「その村長が、邪神オーバだ」


 タイガの言葉に、レーラは口を開いて固まってしまった。


「あの時、その場にいたレーラとロートンさんは気付いてないかもしれないが、あのニセ村長、俺にだけもの凄い殺気を放ってきたんだ。その日の夜、俺はジュピターに呼ばれ、その村長と神殿について聞いた。あの村長は、村長の姿をした邪神オーバであり、神殿は終焉の地でもなければ、イージェの箱なんて箱もない。そう言われたんだ」

「タイガ。そのジュピターって言うのは、誰なんです?」


 何も知らないカリンが、タイガに聞く。この中でジュピターの事を知らないのはカリンとペルだけである。


「ジュピターって言うのは、俺が使っている申鎮の剣の名前だ。以前カリンが、俺の使っている剣について話したろ? その日の夜に出会った。まぁジュピター自身、本当にその人が信用できるのか、その人の心に悪意は無いのかで、使用者を選んでいるみたいだけどな」

「だから悪意を持って使用していた人達は、ジュピターさんにガリルを吸い取られて亡くなっていったのですね」

「正確には、使用者の魂を斬り、ガリルだけを抜き取っているらしいがな」


 カリンは言い伝えの真実に納得したのか、うんうんと頷く。


「それでは、ミルミアさん達もジュピターさんに会われたんですか?」

「えぇ。神殿に向かう日の朝にね」

「さて、話が反れたな。俺達は次の日、依頼にあった神殿に向かった。ジュピターの話によると、神殿に入るとその侵入者のガリルの属性、情報を抜き取り偽者を生成する。そして生成された偽者は神殿の外に出ようと、神殿に入ってきた者……つまりオリジナルを殺す。オリジナルを殺した後、石像に封印し、見事偽者は外に出られる」


 カリンはタイガの話を真剣に聞いていた。ミルミア、リンナ、レーラも口を挟まず、ここはタイガに任せて話を聞いていた。


「俺達は神殿に入ると、案の定外には出られないようになっていた。外からの光を完全にシャットアウトして、見えない壁みたいなものに阻まれたんだ。ここまでは想定内だったから、俺達は気にせず前に進んだ。暫くすると、石像が沢山置かれた大広間に着いた。その石像はただの石像じゃなかった。石像を見ると、異様に黒いオーラが出ていたんだ。俺がそれを見た瞬間、石像達が一斉に動き出したんだ。そして俺達を襲ってきた。逃げていた俺達に待っていたのは、分かれ道。俺はミルミア達と別れ、石像が誰を狙っているのか確認した。石像の狙いは俺だったんだ」

「どうして、タイガなんです?」


 不思議に思ったカリンは、タイガに聞く。ミルミア達は、どこか思い当たる節があるようだ。だが、タイガはすぐに答えようとはしなかった。タイガの行動に、ミルミア達は疑問を持った。そして漸くタイガの口が開いたが、答えはミルミア達も驚く結果だった。


「……さぁな。そこは俺にも分からん」


 ミルミア達は知っている。狙われた理由は恐らく、タイガの中に眠る魂が関係しているのだと。だが、タイガはそれを話さなかった。何故そんな事を言わなかったのか、理解ができなかった。

 その後もタイガの口から神殿での出来事と、村の出来事が語られた。ここでもタイガは一つ嘘をついた。神殿での激闘のことを話さなかったのだ。ミルミア達は気になるも、何故か聞けないでいた。

 そしてタイガは、この三日間の出来事を話し終えた。


「お疲れ様でした。今日は一日ゆっくりしてください」

「そうしたいのは山々なんだが、これからギルドに行かなきゃいけない。依頼完了の報告と、少し聞きたい事があるからな。ミルミア、リンナ、レーラ、行くぞ」


 いきなり呼ばれた三人は少し驚いた顔をした。呼ばれた理由が分からなかったからだ。


「どうしてウチ達まで?」

「バカ野郎。ギルドカードにスタンプしてもらわなきゃいかんだろ。あれ程の闘いがあったから、ランク上がると思うぞ」


 そう言ってタイガは、ジャージのポケットからカードを出す。三人は思い出したのか、一旦部屋に戻り、カードを取りに行った。

 全員揃い、タイガ達が出かけようとした時、メイドのシェスカが話しかけてきた。


「タイガ様。今晩のお夕飯はいかがいたしましょう」

「だから様は止めて下さいって。そうですね。三日ぶりなので、シェスカさんの得意料理をお願いします」

「畏まりました。腕によりをかけて作らせていただきます。それから、私の事をハニーと呼んでいただければ様付けは――」

「結構です」


 そう言ってタイガは王宮を出発した。


「ねぇタイガ」

「どうした?」


 道中、ミルミアが先頭を歩いているタイガに声を掛ける。


「何で、カリンに本当の事を言わなかったの?」


 その質問に、タイガは黙る。


「タイガが石像に狙われた理由、影との闘い……どれも大事な事じゃない。なのに何で……」

「……」


 それでも、タイガは答えなかった。だが、歩いていた足を止めると、ゆっくりとその口は開かれた。


「分からねぇ。ホントは俺だって言うつもりだった。だけど、何故か言えなかった。直前になって、『言ってはいけない』と、そんな衝動に駆られたんだ」

「言ってはいけない?」


 隣にいたリンナが口を開く。それにタイガは振り返り、ミルミア達を見る。


「ここで言ったら何かが壊れる、そう感じたんだ。だから、言いたくても言えなかった」

「それは、タイガの中にいる奴と何か関係があるのか?」

「正直、それが関係しているのか分からない。だけどあの闘いで、俺の中にいる魂がカリンを守ろうとしているという事だけは分かった」

「どうやってです?」

「影が言ってたんだ。俺がカリンを守るのは、俺の意志じゃない。俺の中にいる魂が意識的に、俺がカリンを守らせようとしてるんだって。その為の、俺は単なる器だって」


 神殿での闘いで、ミルミア達がタイガと合流する前に影が言っていた事を、タイガは話す。


「けど俺自身も、カリンを守りたいと思ってる。その気持ちは変わらない」


 そう言うとタイガは再び歩き始めた。その姿を見て、ミルミア達は頬笑み、タイガの後ろを付いて行った。

 暫く歩いたタイガ達は、ギルドに到着すると、入り口で足を止めていた。中に入らないのには、理由があった。


『都合により、本日休業します』


 ギルドのギルドの入り口にシャッターが下りており、そのシャッターに張り紙がしてあったのだ。


「都合って……何の都合だ?」

「そもそも、ギルド全体が休むことなんてあるんですかね?」


 疑問に思ったレーラ、リンナが言う。この時、タイガは何か違和感を抱いた。


 ――リンナの言う通り、セリウドさん一人で経営してない限り、ギルド自体休むことはない。なのにシャッターを下ろし、張り紙までして休むなんて……


 そしてタイガは、ギルドの周辺を見渡し、周りをうろつき始めた。何かを調べているようだ。


「どうしたの? タイガ」

「いや、勝手口とかないかなって……」


 その時、タイガの視界にギルドの二階が映った。すぐ上はベランダの様になっているが、かなり高い場所にあり、簡単に登れそうになかった。


「た、タイガ? アンタまさか……」


 タイガの視線に気づいたミルミアは、震える声でタイガに聞く。そんな言葉を無視し、タイガは建物より少し遠い場所に移動した。そして助走をつけると、足に目一杯ガリルを溜め、一気に解き放った。それにより高く跳躍したタイガは、ベランダの足場に手を掛け、鉄格子を掴みよじ登る。そして無事、ベランダに入る事に成功した。


「俺はこっから中に入る。どうにも嫌な感じがするんだ。お前らは、俺から連絡があるまでここにいてくれ。後でペルを向かわせる」

「どうしてペルを?」


 ペルを呼ぶ理由が分からないミルミア。だがタイガに『今の恰好を見ろ』と言われると、気が付いたようだ。


「はっきり言って、俺達は丸腰だ。俺は何とか魔法が使えるから良いけど、ミルミアとレーラは武器を、リンナは杖を置いてきている。だから、俺の剣だけでもペルに持ってこさせようと思ってな」

「分かりました。何かあれば、直ぐに呼んで下さい。この窓から突入します」


 何とも男らしいセリフを放つリンナに、タイガは苦笑いした。


「じゃあ、頼んだぞ」


 タイガはそう言って、ベランダの戸をゆっくりを開け、中に入って行った。


「ペル、聞こえるか?」

『タイガ? どうしたの?』


 タイガがマグナラを起動させると、ペルに繋いだ。


「俺の部屋に、申鎮の剣が置いてある。それをギルドにいるミルミア達に渡してくれないか?」

『何かあったのかい?』

「あぁ。ギルドが休業しているという事件が発生した。なんか嫌な予感するから、俺だけベランダから侵入したんだ」

『カリンちゃんに何言われても知らないよ』

「その時はその時だ。それより、頼んだぞ」

『分かった。タイガも無理しないでね。おいらもすぐに向かうから』


 そう言ってペルとの通信を切り、薄暗い部屋の中を歩いていく。


 ――一階を職場とすると、ここは従業員の休憩スペースか? キッチンとかあるし、冷蔵庫も。それに……ん?


 辺りを見ながら歩いていると、男の声らしきものが聞えた。


 ――こんな所で何やってんだ? ここの住人……ではなさそうだな。


 タイガは声のする方にゆっくりと近付く。すると声の主が見えた。どうやら二人いるらしく、タイガは物陰に隠れると、そこからゆっくりと顔を出し、二人の会話に聞き耳を立てる。


「それにしても、あの女はバカだよな。自分で消していけばいいものを」

「何でも、魔剣士もいるらしいぞ? 上からの命令とは言え、魔剣士は相手に出来ないだろ」


 ――こいつ等、俺の話をしているのか? あの女って、もしかしてセリウドさんの事か? それに『上からの命令』とか『消す』って……


 そう思っていると、再び会話が聞こえてきた。


「それにどうやら、その魔剣士をリーダーにしたパーティーを組んだらしい。そいつ以外、全員女だってよ」

「マジかよ。冒険者じゃなかったら俺の女にしてたのに」


 ――この会話を聞くに、明らかに俺を殺しに来てる。って事は、あの女をセリウドさんと仮定すると、セリウドさんは俺を何らかの形で殺そうとした。だけど俺が魔剣士だから殺せなかった。


「まぁ、今回はかなりきついクエストを出したってメリアが言ってたから、今頃死んでんじゃねぇか?」

「ちげぇねぇや」

「「ハハハ!!」」


 今の会話に、タイガは一つ引っかかった。


 ――メリア? もしかして、俺達にクエストを渡していたのはそのメリアって人なのか?


 その時、下から別の男の声が聞こえた。その内容は、タイガが予想だにもしない内容だった。


「おい! ギルドの入り口で女三人捕まえたぞ! しかもあの魔剣士のメンバーらしい!」


 ――ミルミア達が、捕まった……?


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