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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第四章 厄災の神殿
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第七一話 帰還と竜

「本当にありがとうございました」


 夜が明け、タイガ達は王宮に帰る日が来た。あの後、ムナウドの首の後ろを確認するとジュドラは施されていなかった。つまり、昨日のタイガの行動により解印出来たのだ。村人が村の入り口に集まる中、村長であるムナウドと、その息子であるロートンが代表してお礼を言った。


「本来ならこちらも村の復興をお手伝いをしたかったのですが……」

「タイガ様達は元は別の任務で来ていたので、これ以上お手を煩わせる訳にはいきません」


 タイガ達も手伝いしたかったのだが、ロートンがこれ以上迷惑はかけられないと、拒否したのだ。


「では、俺達はこれで。皆さん、お世話になりました」

「こちらこそ。道中お気をつけて」

「今度は最高のもてなしをしよう。いつでも来てくれ」


 タイガ達はムナウド達と握手を交わし、竜車に乗って帰路についた。そんなタイガ達の姿を、村の人々は見えなくなるまで見送った。


「ふぅ、ようやく終わったな……」


 タイガは背にもたれ、一息つく。


「改めて、みんなお疲れ様。今までで過酷な依頼だったんじゃないか?」

「えぇ、そうね。もうこんな依頼懲り懲りだわ」


 タイガの言葉にミルミアが呆れながら言う。その姿に微笑み、タイガは窓に肘をかけると、その手に頬を置き、外の様子を見る。そしてミルミアとレーラの話に耳を傾けつつ、昨夜の出来事を思い出していた。

 これは、村に帰ってきてタイガ達が寝床についた時の話。


「ふぅ……。さて、寝るか」


 タイガが目を瞑り、寝床に意識を手放した時だった。


『マスター』

「なんだよジュピター、今日は疲れたんだ。寝かしてくれよ」


 タイガの愛刀である申鎮の剣こと、ジュピターが話しかけて来た。


『疲れている所悪いんだけど、どうしても話しておかないといけない事があるの』

「話さなきゃいけない事?」


 タイガがムクリと起き上がると、ジュピターは真剣な顔をして話し始めた。


『私とマスターが初めて会った時、最後に言ったこと覚えてる?』

「最後って、あれだろ? 俺の中に別の者の邪を感じるって言う……」


 タイガが言うと、ジュピターはコクリとだけ頷き、肯定した。


『今回の戦いで、その魂がどんなものか、身にしみて分かったと思う』


 タイガは俯き、先の闘いを思い出す。


『実はその魂について話をしに来たの』

「邪について……?」


 ジュピターはコクリと頷き、話を続けた。


『今日の闘いで、マスターの中の魂が目覚めかけてる』

「目覚めかけてる!?」

『理由は二つ。一つは影の存在。今回の闘いで、マスターの影に魂の存在もコピーされてしまったこと。二つ目はその影との闘い。マスターは気づいてないかもしれないけど、あの時のマスターは完全に覚醒してた』

「覚醒……?」

『今まで対応出来なかった影の動きが、急に対応できたと思う?』


 ――確かに、あの時は何故か影の動きが見えるようになった。なんかスローモーションじゃないけど、動きが予測できたっつーか……


 タイが自身、あの闘いでは気にしていなかった事だが、いざ言われてみると不思議に思った。


『それはね、マスターの……ううん。魂の能力の一つ、魔眼だよ』

「マガン……?」

『今までもマスターは使っているはず。無意識だけど』


 そこでタイガは再び考え込んでしまった。だが、どうしても答えが出ない。


 ――俺がいつ魔眼を使った……? 無意識に使ってた? ……まさか。


「なぁ、それって一ヶ月以上前の事か?」

『うん。初めて使ったのはミルミアとリンナにかな』


 ここでタイガははっきりと答えを出した。


「もしかして、オーラの奴か……?」

『正解。影自身が言ってたでしょ? その能力自体が奴の能力だって。そしてその使用回数が増えてきているって事は――』

「眠っていた奴の力が、目覚めかけてる。だからその力を持つ魂自身も目覚めかけてるって事か」


 タイガの言葉に、ジュピターは頷く。


『気をつけてマスター。いつ目覚めるかわからないから』

「了解。肝に銘じておく」


 そういってタイガは今度こそ意識を手放し、今に至る。


 ――俺の中に眠っている魂。こいつは一体何者なんだ……? 何故、俺の中に眠っている?


 今回の闘いで、タイガ自身の謎が深まっていく。タイガに取り憑いているのは何者なのか。何故カリンを守ろうとするのか。何故、タイガに取り憑くのか。答えは未だ、見つからない。


「ここの河原に来るの、久々だな」

「あれから二日しか経ってないけどな。あれほどの闘いをしたら、ホントに懐かしく感じるよ」


 ミルミアの言葉に、タイガは隣に立って言う。王都まではもう少しだが、竜の事を考えてここで休憩を挟むことにした。

 行きと同様、女子組は水を堪能し、タイガと竜は木陰で休む。


「お前も、お疲れ様」


 タイガは隣ですやすや眠る竜の頭を撫で、呟く。そこで、タイガはある事に気が付いた。


「そう言えば、こいつの名前って何?」


 それに反応して、女子組がやって来た。


「そう言えば、まだ決めていませんね」

「でもこの竜って、確かレンタルだったよな」


 リンナ、レーラが続けざまに言う。


「って事は、名前を決めたとしても、常に一緒に入れる訳じゃないのよね……」


 竜は目を覚まし、タイガ達を見る。タイガに頭を撫でられて、気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らす。


「タイガさんに凄く懐いていますね」


 タイガは頭を撫でながら、考えていた。タイガ自身、今の竜と離れたくないのだろう。


「……俺に一つ、考えがある。まずは、王宮に帰ってからだな」


 そう言って、竜を車に付け、リンナは再び操縦席へ、残りの三人は車に乗って、再び竜車は走り出した。

 走り出して数時間。遂に、王都が見えてきた。


「帰って来たな……」

「えぇ……」


 検問所を通り、竜車は真っ直ぐ王宮へと向かった。

 王宮が見えてきた時、門前で何やらうろうろしている人物がいた。門番はいるが、それを止めようとはしなかった。

 タイガはその光景を見て、笑ってしまった。


「あいつ、何やってんだか……」


 門にいる人物がタイガ達の竜車に気付くと、足を止め、竜車を見つめていた。

 竜車が門前に止まると、門番が来た。だが、その門番は笑っている。アリマゲイル・オトランシス……アイルだった。


「何用だ。ここはドルメサ王国国王のお屋敷。要件を言え」


 門前の人物は固まってしまい、動こうとはしない。

 扉が開き、タイガがマントを(なび)かせ降りてきた。


「――名は」


 アイルが聞く。


「ヤマト・タイガ。ドルメサ王国国王直轄の冒険者。職業、魔剣士(ミスティックナイト)。ただいま帰還して参りました」


 タイガが言うと、先程まで固まっていた人物が目に涙を溜め、漸く口を開いた。


「タイガ……」

「ただいま、カリン」


 優しく微笑みながら言うと、タイガに駆けつけて抱き締めた。タイガも優しく抱きしめ返す。


「お帰りなさい、タイガ」

「お帰り、タイガ」


 アイルも近付き、タイガに声を掛ける。その後、ミルミア達も降りてきて、お帰りと迎えてくれた。


「皆さん、その服……」


 カリンが離れると、タイガ達の服がボロボロな事に気づく。


「今回はかなりきつかったよ。正直、死ぬかと思った」

「本当に、ごめんなさい。私が行かせなければ……」

「その話は中でやろう。取り敢えず、着替えてシェスカさんに服直して貰わないとな」


 タイガの指示により、門番のアイルを除く全員が王宮の中に入っていった。その間、竜は王宮の庭で待機することになった。

 タイガはジャージに着替え、任務服をシェスカに預けると、カリン達の待つ王室へと向かった。

 中に入ると、既に全員集まっていた。そしてカリンの肩には使い魔のペルもいる。


「お帰り、タイガ」

「あぁ、ただいまペル」


 タイガが席に座ると、新しく入って来たメイドが紅茶を入れ、タイガの目の前に置いた。


「さて、この三日間の話をお聞かせください」

「その前に、お願いがあるんだけど、良いかな」


 タイガが本題に入る前に、どうしてもカリンにお願いしたいことがあった。


「今回使った竜、ウチ専用の竜に出来ないかな」


 タイガが話に切り出したのは、タイガ達と行動した竜の事だった。


「と、言いますと?」

「行動しているうちに愛着が湧いちゃって……ちょっと寂しいって言うか」


 タイガの考えている事は、ミルミア達も同じだった。短い期間だったが共に過ごした為、ミルミア達も離れるのが嫌だった。


「あの子自身もタイガにもの凄く懐いているみたいだし……ダメかな?」


 ミルミアも話に入り、お願いする。


「良いんじゃない? カリンちゃん。タイガ達が依頼とかで遠出するときは、別に予約とかしなくて済むし。何より懐いちゃったら、引き剥がすのは可哀想だよ」


 最後はペルの一言で、カリンは口を開いた。


「分かりました。お店には私から連絡しておきます。その代わり、しっかりお世話するのですよ?」

「あぁ。分かってる。ありがとな、カリン。我儘言って」

「いえ、無事に帰って来たのですから、それぐらいはどうにでもなりますよ」


 こうして、タイガ達は王宮にて竜を飼う事となった。その竜は『マドレーヌ』という名前が付けられ、王宮の人々に可愛がられているが、それは後のお話。


「んじゃ、本題に入りますか。あの神殿の、本当の事を」


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