第七〇話 祭壇と解印
「タイガさん。頼まれたものを持ってきました」
数十分後。リンナがタイガに頼まれたものを抱えて持ってきた。
「サンキューリンナ」
タイガはそれを受け取る。
「あれ? それって村長の家にあった宝箱じゃない。どうしてそれを?」
「まぁ見てろって」
リンナがタイガに頼まれて持ってきたのは、偽の村長が村に持って帰ってきた宝箱だった。
タイガはその宝箱を、先程の窪みに入れる。すると――
「ぴったりだ……」
宝箱は窪みにきれいに嵌り、そしてスイッチが作動して先程の扉が開く。
「どうして宝箱が重石って分かったんだ?」
不思議に思ったレーラは、タイガに聞く。
「簡単な事だよ。恐らく村長が言っていた通路はここの事だと思う。そうすれば俺達が通ってきた通路は塞がれていて、実際通れるのはここだけだ。そしてその時はここにこれが置かれていた。だが村長が偽者と入れ替わったとき、偽者がこの箱を持って外に出てきたら、スイッチが作動し、村長が通った道は塞がれ、俺達の知っている道が開く。つまり偽者はこの道を知られたくなかったんだ。だから宝箱を見つけたと嘘をつき、ここの重石を持ち帰ってきたんだよ」
「お前、この短時間でよくそこまで考えられるな。正直少し気持ち悪いぜ」
レーラは呆れるように言った。
「頭が冴えると言ってくれ。とりあえず、新たな道が開かれたんだ。先に進むぞ」
こうしてタイガを筆頭に、再び進み始めた。
「そう言えば、お前ら祭壇の場所知ってるとか言ってたな。何処で見つけたんだ?」
「確か、タイガさんを助けに行こうとした時、偶然見つけたんですよ。そこに村長さんを隠していたんです」
リンナが話している時、タイガは異変を感じたのか、辺りを見回す。そんなタイガを不審に思ってか、レーラが声を掛ける。
「どうしたんだよタイガ。さっきからきょろきょろして」
「いや、おかしいと思わないか?」
「何が?」
タイガの疑問に、ミルミアが問う。
「あれ程の闘いがあったのに、どうしてここだけこんなに綺麗なんだ? せめてヒビは入っててもおかしくないのに。傷一つないんだ」
タイガがそう言うと、三人も辺りを見回す。
「ホントだ……」
「まるで、何らかの力で守られてるみたいだ……」
そんな事を疑問に抱きながらも、タイガ達は前に進んでいく。すると下る階段が見えてきた。
タイガ達は下っていくと、突き当りを右に曲がる道に出る。所々にヒビが入っており、砂利も落ちている中、リンナはある事に気付く。
「あれ。ここって私達が通って来た道じゃ……」
「確かに……でも、こんな道なんてあったかしら」
リンナはここが、タイガを助けに行く道と、脱出した時に通った道だと語る。
「もしかしたら、これもあの重石のせいだろう。重石が外されたせいで、ルートが変更されたんんだ。つまり、ミルミア達が通った道は、この道が隠され、閉ざされているここが開いていたって事だろう。多分、ここをまっすぐ行けば村長の言っていた教会らしき所だな」
「はい。その近くに祭壇のある部屋があると思うのですが……」
リンナの案内で先を進むタイガ達。そしてついに、その部屋は見つかった。
「ここが祭壇のある部屋よ」
「よし、入るぞ」
タイガはそっと、その扉を開ける。そこにあった光景は、先程の通路同様、傷一つない綺麗な部屋だった。
目の前には、消えそうにもない蝋燭を端に立て、その中心に大盃を乗せた祭壇と、その目の前に人一人入る魔法陣が描かれていた。
「これがお前達の言っていた祭壇か」
「え、えぇ。でも……」
「あれ程の衝撃があったのに、傷一つないなんて……」
「やっぱり、何かしらの力で守られてるんだな」
ミルミア、リンナ、レーラが驚いている中、タイガは一人あたりを捜索する。
――この大きな盃……。多分ここに、壁に刻まれていた『首』を捧げるんだろう。それともう一つ。この魔法陣は誰かの首と『同等な力』を持つ者を立たせるモノだろう。だけどそれだけじゃ分からない。問題は『誰の首』なのか。『それと同等な力』とは何なのか。そして解印の方法も分からなければ、いくら祭壇を見つけても意味がない。くそっ! あと一歩だってのに……!
目の前に封印が解けるモノがあるにも関わらず、その方法と捧げるモノの詳細が分からない事に、タイガはイラついていた。
そして不意にタイガは、その魔法陣の中に入ってしまう。すると魔法陣は光り出し、タイガを包み込んだ。
「タイガ!」
「な、何だこれは……」
タイガは自分に何が起きているのか理解できず、混乱していた。
「く――っ!」
「タイガさん!?」
突然タイガは頭を抱え、苦しみだした。
――やばい……これはやばい……! 頭が焼ける!
そんな時、タイガにある声が聞こえた。
『貴様はあの――に匹敵する力を持っているな……。力を……力を授けよ……』
するとタイガを襲っていた頭痛は治まり、正常に戻った。
――肝心な部分が聞えなかったが、俺が捧げるべき首と同等な力を持ってるって事か……?
『盃に貴様の血を授けよ……さすればジュドラは解印する……』
――盃に、俺の血を……
「タイガさん! 大丈夫ですか!?」
心配したリンナが、涙目で言ってくる。他の二人も、同じ表情だった。
「俺は大丈夫だ。それより、ジュドラが解印できるかもしれない」
「ほ、本当か!?」
タイガの発言に、レーラは声を上げる。
タイガは魔法陣から離れ、目の前にある大盃に手を伸ばし、自身の刀の先で手の平を切る。
手の平から出た血は次第に下に垂れていき、終には盃に零れた。その瞬間、またも魔法陣が光り出す。すると今度は、部屋に響く先程の声が全員に聞こえた。
『血を授けし者、中に入れ。解印させまほしき者、その者の名を呼ばいたまえ』
指示通り、タイガは先程の魔法陣の中に再び入る。そして、ジュドラを解印したい人の名前を言った。
「ヤマト・タイガ、ミルミア・ガーネ、リンナ、レーラ、ムナウド・ヴァンガレア。以上五名。ジュドラ解印せよ」
タイガがそう言うと、ミルミア、リンナ、レーラの三人の足元に魔法陣が現れ、光の放ち包み込む。
「――っ!」
すると首の後ろが一瞬、焼ける様に熱くなり、収まると同時に、魔法陣の光も消えて、普通の祭壇が祀られている部屋に戻った。
「終わった――のか?」
「さぁ……。ミルミア、後ろ向いてくれ」
タイガがそう言うと、ミルミアはタイガに背を向ける。タイガはミルミアの長い髪を持ち上げ、首の後ろを見ると、先程まで会ったジュドラが無くなっていた。
「な、無くなってる……」
「え!?」
すると自分達も気になったのか、リンナとレーラも互いに首の後ろを見せ合い、無いことが確認できると、もの凄く喜んだ。タイガも一応確認してもらい、ジュドラが消えていると言われ、内心ホッとした。
「よし、これで俺達の任務は終了だ。さっさと村に帰って寝るぞ」
タイガの言葉で、全員が部屋を出ようとする。タイガが部屋を出ようとした時、突然マグナラが光り出した。
「な、何だ!?」
全員が驚く中、マグナラは勝手にタイガの首から離れ、一人で浮きながら部屋の外側に行く。そして部屋の入り口付近に止まると、壁に近付き、壁にマグナラの光を反射させる。すると壁にマグナラと同じ大きさの穴が出来ると、光が収まり、タイガの手の平に落ちた。
そして、タイガにしか聞こえない声が聞こえる。
『次に部屋に入るときは、それが鍵となる。その時まで、この部屋を他の者に驚かれざるように封印す。部屋に入らまおかりせば、それを穴にはめろ』
そう言って、部屋の入り口がなくなり、他の壁と同化した。
「か、壁がなくなったわよ!」
いきなりの出来事に、ミルミアは驚いてしまう。
「安心しろ。俺達以外にバレない様封印しただけだ。俺のマグナラを使って開けることが出来る」
「つまり、この神殿の所有者はタイガさんになったという事ですね」
「いや、飛躍しすぎ……」
リンナの発言に呆れるタイガ。そして今度こそ帰ろうと、タイガ達は神殿を出て、村へと帰った。




