第六九話 大広間と呪印の秘密
竜車を走らせて数十分。神殿に到着したタイガ達。その神殿は今朝とは違い、ひび割れが目立っていた。
「俺達の影は一度倒しているから大丈夫だとは思うが、一応警戒はしておけ」
タイガの言葉に、三人はコクリと頷く。
タイガは近くに落ちていた木の棒を四本拾うと、一つ深い深呼吸をしてゆっくりと神殿の中へと入って行く。今朝は見えなかった外の光は、機能しなくなったのか、ばっちり見える様になっていた。
「どうやら、外には出られそうだ。大広間に行こう」
外に出られるか確認したタイガは、階段を下る足を進める。そしてタイガ達は無事、大広間に着くことが出来た。
先の闘いのせいか、ひび割れが酷く、上から小石がパラパラと落ちてくる。
「リンナ。もっと明るくすることは出来るか?」
「ごめんなさい。私のガリルだとこれが精一杯です」
リンナの魔法フラッシュは現在、大広間を照らしているが、所々薄暗くて見えない。それにフラッシュはリンナが近くにいないと使えない為、リンナが離れてしまうと見えなくなってしまうのだ。
「了解。予め木の棒を拾っといて良かったぜ」
タイガは先程拾った木の棒の先端に、指先で優しくペトラ・ビーストを唱え、火をつけた。
「アンタの身体、ホント便利よね」
「身体から魔法を発動できるなんて、あり得ませんよ普通」
「こいつ、本当は機械かなんかじゃね?」
「酷い言われようだな……」
三人に好き勝手言われたタイガだが、苦笑いで軽く流し、火のついた木の棒を渡す。
「こっから別れて行動しよう。些細な事でもいい。何かあったらすぐに呼んでくれ。良いな」
「「「了解!」」」
タイガの言葉に三人は頷いて言う。そしてタイガが振り向いた時、ミルミアがある事に気が付いた。
「タイガ。アンタ首の後ろに何か付いてるわよ?」
「え? 首?」
そう言われ首を触るが、特別な感触は無かった。リンナ、レーラもタイガの首を確認すべく、覗く。
「確かにありますね。何かの模様でしょうか……」
「何か薄気味悪いな」
リンナは興味深そうに、レーラは嫌悪な顔つきで見る。だが、二人の後ろにいるミルミアは、二人にも指摘する。
「アンタ達にも付いてるわよ? タイガと同じもの」
「「え?」」
そう言ってリンナはレーラを、レーラはリンナの首を交互に見る。タイガも二人の首をチラッと見る。そこには全く同じ模様のようなものが施されていた。ミルミアも確認すると、同じ模様が付いている。
――ん? この模様って確か……
タイガは大広間の天井を見る。そこにあったのは今朝見た、全員の首の後ろに付いている模様と全く同じだった。
その時、タイガの脳内に今までの会話が再生される。
『お前達はこの神殿の事が喋れない様になっている』
『私達はカリン様の事について、先代から口封じをされていまして』
――二人の言っている事、内容は違えど共通点がある。それは喋れない事だ。確かあの時、モナローゼさんは俺に何かを見せてきたような……。
『これは、先代が我々騎士団に施した『ジュドラ』という呪印です』
「ジュドラ……喋れない……思い出したぞ!」
タイガが突然叫ぶと、三人がビクッとしてしまった。
「ど、どうしたのよタイガ。行きなり大きな声を出して」
「思い出したんだ。俺達に付いているこの模様。これは『ジュドラ』という呪印だ」
「じゅどら……ですか?」
聞きなれない単語に、リンナは首を傾げてしまう。ミルミアとレーラも顔を合わせて、二人も首を傾げる。
「俺達がコナッチ王国に行く途中、モナローゼさんに見せて貰ったんだ。俺はモナローゼさんに聞きたいことがあって聞いたんだが、あの人は『口封じされている』って言われてた。その時に見せて貰ってたのが、今俺達に施してある呪印『ジュドラ』なんだよ」
「それで? そのじゅどらってのと神殿について何の関係があるんだ?」
「ありもあり、大ありだよ。影は『神殿について喋れない様になっている』と言った。そしてモナローゼさんは『口封じされている』と言った。言い方は違えど、言っている内容は全く一緒だ。そして極めつけはこの模様だ。俺達は今、モナローゼさんと全く一緒の模様を施している。という事は、この模様は呪印って事になる。そうすると、俺達が神殿について話せない事に納得なんだよ」
タイガは自分の考察をすらすらと言い続ける。
「もし、この呪印が施されている状態で喋ってしまったら、どうなるんです?」
疑問に思ったリンナがタイガに聞いて来た。
「モナローゼさん曰く、発動すると呪印がある場所から焼けるような痛みが生まれ、最悪死に至る事もって……」
すると何かに気付いたのか、レーラが声を上げる。
「じゃあ、もしかして村長にも……」
「あぁ。間違いなく、施してあるだろうな。あの場所には村長もいたんだ。施してあってもおかしくはない」
厄介なことになった――とタイガは呟く。
「村長には予め喋らない様言ってあるから大丈夫だとは思うけど……。取り敢えず、このまま捜索を続けよう。さっきも言ったが、何かあればすぐに言ってくれ」
そして四人は四方にばらけ、辺りを捜索し始めた。その時タイガは、昼間ムナウドが言っていた事を思いだす。
――確か村長は部屋の右側に下る階段があったって言ってたよな。今俺がいる場所がそうか。だがぱっと見、階段がありそうな壁じゃねぇぞ。綺麗に塞がっている。本当にこんな所に階段なんてあったのか?
タイガは松明を照らしながら、壁を触って確認してく。だが触っているのは、何の変哲もない、ただの壁。階段がある形跡なんてどこにもなかった。
「タイガさん。ちょっと良いですか?」
完全に手詰まり状態だったタイガに、リンナが声を掛ける。何かを見つけたようだ。
因みにリンナの捜索していた所は、タイガの正面の壁だった。
リンナの一声で、三人が集まる。
「どうした?」
「ここ、何か不自然な窪みがあるのですが……」
リンナがその場所を指さす。そこにはもの一つ置けそうな壁の窪みがあった。
「確かに、何か置けそうね」
「一体何が置いてあったんだ?」
タイガはその窪みを見て、何か不振に思った。
――おかしい。この神殿は昔からある建物。汚れていてもおかしくない。なのに、なのに何で……
「この窪みだけ、綺麗なんだ……」
他の場所はコケやらヒビがあるのにも関わらず、リンナが見つけたその窪みだけ、新築同様に綺麗だったのだ。
更に探索を進めていくと、正面入り口の右側に、ある文が途切れ途切れにこう刻まれていた。
『この神……はゆめゆめ……べからず。話さば必ず――らむ。それ――、ここにジュド……施す。解印さま……、この部屋の――祭壇――首、もしくは同等の力を……来べし。魔王……捧げよ。ここに力を授けよ』
「これ、どういう意味でしょう……」
この文を読んだリンナは首を傾げる。ミルミアとレーラも頭を抱えて悩み、タイガは顎に手を添えていた。
――文字は読めるが、書き方的にかなり昔に書かれたものだな。日本で言う古文だ。
「タイガ、何か分かったか?」
レーラはタイガに声を掛け、タイガはゆっくりと口を開く。
「あくまで推測だが、ここに書かれていることは、『この神殿の事を話すな』と言いたいんだろう。この神殿の事を話せば何かが起こる。だからこの神殿自体にジュドラを施すって言ってんだろう。言ってしまえばジュドラが発動して最悪死に至るからな」
「じゃあウチ達が何も知らずにこの神殿の事を話していたら――」
「間違いなく死んでたな」
タイガの言葉に、ミルミアは顔を青くして身体を震わせていた。
「でも、それを解印する方法がこの部屋の何処かにある祭壇で出来るらしい。そして誰かの首か、それに匹敵する力を授ければ、解印できる。恐らくそう書いてある」
「祭壇……?」
祭壇という言葉に、ミルミアは反応した。
「ねぇ。祭壇って、まさかあそこの事じゃないわよね?」
「だとしたら、運が良いかもしれませんね」
「お前ら、もしかして祭壇の場所知ってんのか?」
二人の会話に、タイガが質問する。
「えぇ。ですが、崩れていないかどうか……」
「先の戦いで、崩れてしまった可能性はあるわね」
リンナとミルミアは浮かない顔をする。だが、タイガはその僅かな可能性に賭けた。
そのとき、タイガ達の目の前の壁が急に開き、謎の通路が出てきて、タイガ達が通った通路が塞がれた。
「な、何よ一体!」
タイガは周りを見る。すると先程の窪みの部分に手を入れているレーラの姿があった。
「レーラ。どうした?」
「いや、この窪みが気になって手を入れて底を触ったんだ。そしたら底がスイッチになってて、押してみたらこうなった」
「つまりあの窪みは、隠し通路のスイッチだったって事か」
「そういうことだな」
そういってレーラが手を離すと、再び扉が閉まり、タイガ達が通ってきた通路が開かれた。
「成程。今までここに何かがおいてあり、隠し通路が開かれていたんだ。だがその重石となるものがなくなり、扉が閉まってたんだな」
「どうするんだ? ここに重石となるものがないと中に入れないぜ」
タイガは目を瞑り、何かを考え始めた。そして何か思いついたのか、にやりと笑って目を開く。
「俺の推測が正しければ、ここに置いてあった物は多分アレだ」
三人は首を傾げ、互いを見る。
「リンナ。村に戻って、持ってきて貰いたい物がある」
こうしてタイガはリンナにお使いを頼み、帰ってくるのを待った。




