第六七話 脱出と己との決着
神殿が崩れかけている時、タイガの指示によりムナウドの迎えに行こうとしたミルミア達。ミルミア達が部屋を出ると、突然落石してきて、先程の出入り口を塞がれてしまった。
「タイガ!」
ミルミアが大声で叫ぶも、返事が聞えない。ミルミアは絶望の顔色を浮かべていた。
「ミルちゃん! タイガさんを信じよう! タイガさんなら絶対、帰ってくるから」
リンナの凛とした顔付きでの発言により、ミルミアは気持ちを入れ替え、三人はムナウドの下へと向かった。
タイガと別れて数分。ミルミア達が一つの部屋に辿り着いた。
「まさか、こんな部屋に祭壇があったとはな……」
「足場には何か魔法陣が描かれていましたし……。ここで何かが行われてたって事ですかね?」
「取り敢えず、村長をこの部屋から出すわよ。瓦礫の下敷きになっちゃったら元も子もないんだから」
三人はそれぞれ言葉を残し、ムナウドのいる部屋に入った。
「村長さん、無事ですか?!」
「お、おぉ。俺は大丈夫だ。それにしても、そのタイガ君とやらは?」
中には揺れの衝撃に耐えられるよう、祭壇に捕まっていたムナウドがいた。ここにムナウドを置いていく時、タイガの事を話してきたのだ。
「タイガならまだ戦っている。それよりも、あたい達はここから脱出するんだ!」
「でもどうやって? ウチ達はここに閉じ込められているのよ?!」
ミルミアの発言に、レーラは黙ってしまう。何故なら、ミルミア達はこの神殿に入った時から、既に閉じ込められているのだ。それを知っててここから脱出するのは不可能に近いと、ミルミアはそう言った。
だが、レーラは違った。何かしらの策がある。そのような顔をしていた。
「あたい達がタイガに連絡しても繋がらなかった。それは多分、この神殿の結界か何かだと思うんだ。でも、ミルミア達が激闘した部屋があっただろ? 思ったんだ。ミルミアがあそこでタイガに連絡して、微妙だが繋がったって事は、あそこは結界が緩くなっているという事になる。という事は――」
「もしかしたら、外に近い可能性がある、と?」
リンナの発言に、レーラはコクリと頷く。でも、ミルミアはそれを反論した。
「でもあそこは地下よ? 地下にあるのに外に近いなんて、そんな事――」
「ないって、本当に言える?」
だが、リンナも負けずに反論した。
実は、リンナも一つあの部屋で気がかりな事があった。
「私ね。あの部屋に入った時、不思議に思ったの。どうして地下なのに窓ガラスがあるんだろうって」
あの部屋に入る正面天井付近に、十字型を半円で囲まれている窓ガラスを、リンナは見ていたのだ。
「恐らくここは、半分地上だった筈。それが何かの理由で埋まったんだと、私は思う。だから、レーラさんの言っている事に少し納得してるの」
ミルミアはそう言われると黙ってしまった。だが、二人の観察力と考察力は的を得ている。これ以上は反論できないと思ったミルミアは、二人の意見を聞き入れる事にした。
ミルミア、リンナ、レーラ、ムナウドの四人は、先程の協会らしき部屋に着く。
揺れが先程より激しい。タイガの事が心配な三人だったが、タイガを信じ、今自分が出来ることをやるべきだと、心に言い聞かせた。
「確かに窓ガラスがあるわね……。それで? どうするの?」
自分の目で窓ガラスがある事を確認したミルミアは、発言者のレーラの方を見る。
「あそこに向かって、あたいがエクスプロージョン・ディフュージョンを撃つ。揺れがさっきより酷くなってきているから、簡単に壊せるはずだ。まずはそこからだな」
そう言うと、レーラはホルスターから愛用しているリボルバーを出し、銃口を窓ガラスに向けて、エクスプロージョン・ディフュージョンを撃った。すると瓦礫は激しく落下してくる。それと同時に、土らしきものも落ちてきて、砂埃がミルミア達を襲う。
「ゴホッゴホッ。みんな、大丈夫?」
「私は何とか」
「あたいも大丈夫だぜ」
「俺もだ」
四人共安否が確認取れた所で、先程破壊した所を見る。するとそこからは一筋の光が入って来た。
「ねぇ、あの光って……」
「うん。間違いないね……」
その光を見た瞬間、三人の顔が笑顔に変わる。
「「「外の光だ!!」」」
僅かながら、天井から日の光が入って来たのだ。そしてもう一発、今度はエクスプロージョン・ブレットを撃つと、完全に外が見えた。
「よし! 脱出だ!」
「でもどうやって?」
「リンナ! アイスウォールを階段状に作れるか?」
「はい、出来ると思います」
「なら、頼む! さっきの衝撃で、他の所も崩れそうだ。早くここから脱出して、村長を無事安全な所に待機させて、タイガの所に行くんだ!」
ここでは全てレーラが仕切り、リンナは素早くアイスウォールを階段状に作る。ミルミア達はそれを上り、無事、脱出することに成功した。
「リンナ。ここで村長と待機しててくれ。あたいとミルミアで、タイガの様子を見てくる」
「分かった。二人共、気を付けてね」
リンナはそう言い残すと、二人の背を見送った。
「……良い、パーティーだな」
ボソッと、ムナウドは呟く。
「――はい。自慢のパーティーです!」
その言葉に、リンナは一番の笑顔で答えた。
×××××××××××××
一方タイガは、完全に自我を失った影と対立していた。
「クソがぁあああああああ!!」
影の咆哮だけで、辺りの岩が砕け散る。するとタイガの頭上に、崩れた天井が落ちてきた。だがタイガは怯むことなく、冷静に岩を見つめる。そしてタイガの上に落下する直前、タイガは岩に潰されず、頭上で砕けた。タイガが岩を斬ったのだ。
それを見た影は更に吠え、タイガの下へ急発進する。周りから見ると、影がタイガの目の前に来るのは一瞬だった。だが、タイガは焦る様子もなく、殴りかかって来た影の拳を掴む。
「――っ!?」
影が距離を置き、今度は剣を抜いてタイガに襲い掛かる。それでもタイガは微動だにせず、影の攻撃を淡々と防ぐ。
――見える、見えるぞ。今なら明確に、影の動きが見える。
タイガの右目――魔眼が光って、その存在を知らせる。
二人の攻防は止まらない。攻撃をしては防がれの繰り返しだった。だが、タイガも負けてはいない。影のスピードに、ついて行っているのだ。体術を含みながらの戦いは、両者一歩も譲らない。そして、遂にタイガに好機が訪れた。影の懐ががら空きになったのだ。そんな影に、タイガは一蹴り喰らわす。先程とは違い、かなりの威力で飛んで行った。
再び影の上に瓦礫が落ちる。その時、一筋の光がタイガを浴びせていた。
――外の光か……
「ふざけるな……俺の方が強いんだ……俺がカリンの傍にいないといけないんだ……」
そう思っていると、影から野太く低い声が聞こえた。
「俺が本物なんだぁああああああ!!」
「いや、お前は本物なんかじゃねぇよ。今のお前は力に呑まれた、ただの駄々っ子だ」
「うるせぇえええ!!」
タイガの発言に、影は更に吠える。
そんなタイガはゆっくりと剣を鞘に収め、言った。
「今度はこっちから行くぜ――」
刹那、タイガの姿が消えた。影は辺りを見渡すが、タイガの姿はどこにもない。
「そこじゃねぇよ」
すると影の背後から、タイガの声が聞こえる。そして影の身体には剣が貫かれていた。
「今のお前では、俺は見えねぇよ」
タイガが剣を抜くと、影はゆっくりと前のめりに倒れた。タイガは鞘をゆっくりと収め、その場を離れようとする。
「どうして……」
すると、今にも消えそうな声で影は喋って来た。
「どうしてそこまでして、カリンを助けようとする……」
タイガはその場に留まり、影の話を聞く。
「お前はカリンを助ける義理も理由もない筈だ。それなのに、どうして……」
そしてタイガはゆっくりと口を開き、影の質問に答えた。
「確かに俺自身、どうしてカリンを守っているのか分からない。本当ならあの日、カリンと別れる筈だったんだ」
あの日というのは、タイガとカリンが初めて会った日の事だ。
「でも、カリンが死ぬ夢を見た。俺はどうしてだか、彼女を死なせてはいけない。そう思ったんだ。もしかしたら影の言う通り、俺の中にいる何かのせいかもしれない。でもそれとは別に、俺の本心でもあった」
「何で……」
するとタイガは振り返り、影の事を見て言った。
「あいつに、命の恩人って言われたからだよ」
その言葉に、影の目が思いっきり見開いた。
「確かに、俺は智紀と明日香を殺した。あの日の俺の勘違いのせいで、二人は死んでいった。そんな友二人殺した俺に、彼女は命の恩人って言ってくれたんだ。そして俺は思った。あの日はもう二度と戻ってこない。でも、俺なんかの力でみんなを救えるなら、これで少しは、アイツらに近付けたのかなって。あの日、二人が俺を救ってくれたみたいに。だがら俺は知らないうちに、カリンを……みんなを守っているんだと思う」
タイガが淡々と話すと、影の表情が少しずつ優しくなっているのが分かるにつれ、次第に薄くなっていくのが分かった。どうやら、火の光を浴びているのと、影自身の限界が近いのだろう。
「ヤマト・タイガ。この先の事を、お前に任せる。お前ならカリンを、この世界を救えそうな気がする」
「そりゃどーも」
「だが、気を付けろ。お前達はこの神殿の事が喋れない様になっている。この神殿に入った時からな。終焉の地やイージェの箱が訂正されなかったのはそのせいだ」
喋れない。その言葉にタイガはピクリと反応した。前にも、どこか似たような事を聞いた事があるからだ。
「それを解除する方法は、俺にも分からない。だが、ヒントはある。お前達が最初に辿り着いた、大広間だ」
「大広間……」
どんどん影が薄くなり、影の姿が透けてきた。
「どうやら時間の様だ……。タイガ。頑張れよ……
そう言うと、影は完全に光と化して、タイガの目の前からいなくなった。そして日の光はタイガを照らす。それはまるで、タイガの勝利を祝っているかのようだった。




