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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第四章 厄災の神殿
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第六六話 共闘と最終局面

 タイガの下に辿り着いたミルミア、リンナ、レーラを含め、四人はタイガの影に挑む。レーラの魔法で氷漬けになった影に、四人は一斉に攻撃を仕掛ける。


「どんなに足掻いても、結果は変わらない。お前達が死ぬだけだぁ!」


 自力で氷漬けから脱出し、もの凄い速さでタイガ達を攻撃していく。

 ミルミアは剣を弾かれ、溝尾を殴られてその場に蹲る。後方から攻めようとしたリンナとレーラは、気付けば互いの頭を打ち付けられていた。


 ――なんつー速さだ……。ミルミア達が来た事によって、影自身のリミッターを外したのか?


「そんな事考えている暇はないと思うぞ?」


 一瞬の隙に背後を取られ振り向く瞬間、刃が目の前で光っているのを見たタイガは思いっきり身体を仰け反らせ、刃を躱した。そして仰け反った反動を利用して後方回転(バク転)をし、影の顎下に蹴りを決めようとする。だがその攻撃は空しく防がれてしまう。影はタイガの足をそのまま掴み、一本背負いの要領でタイガを地面に叩きつける。当然、仰向けだったタイガはうつ伏せの状態になり、顔から地面を打った。


「タイガぁ!」


 顔面から思いっきり打ったせいか、ピクリとも動かない。


「く――っ! アクアカッター!」


 刹那、頭から血を流しているリンナは直ぐに起き上がり魔法を唱える。どうやらレーラとの頭突きの際、当たり所が悪かったようだ。レーラもまだ倒れている。

 そしてリンナの魔法も容易く躱されてしまう。


「ミルミア流・剣波!」


 ミルミアは自身の剣を拾い、新たに習得した技を、リンナの攻撃を躱した影の背後から放つ。だが、それも影の後方宙返り(バク宙)によって躱されてしまう。


「何よアイツ! (ことごと)くウチ達の攻撃を躱すなんて」

「伊達にタイガさんの身体能力を読み取ってないですね……。どうする? ミルちゃん」

「どうするも何も、ウチ達でやるしかないでしょ! リンナ、後方支援お願い!」


 そう言ってミルミアは影に向かって一直線に走って行く。


「何度やっても同じことだよ、ミルミア。お前は俺には勝てない。剣術は俺より上手いかもしれないが、お前は魔法が使えない。ただの見習い騎士が魔剣士に勝てる事なんて、ありえないんだよ」


 すると影は左手を前に出し、手の平をミルミアに向ける。


「――ミストレアス・マード」


 すると、手の平から針の様に鋭く細い氷が発生し、一気にミルミア向かって飛ばした。


「――っ!」


 ミルミアは剣で防ごうと試みるが、空しく何本か自分の身体に刺さった。来ていた鎧が半分壊れかけていた為、いとも容易く鎧を壊され、氷の針がミルミアを襲う。

 アイスニードルとミストレアス・マードの違いは氷の細さと数だった。アイスニードルは針が太く、一撃必殺などにもってこいであるが、連続で放てる数が少ない。それに比べてミストレアス・マードは針が細く、数も多いため、急所も狙いやすい。

 ミルミアは一五、六本身体に刺さっており、そこから血が滲み出てくる。


「ミルちゃん!」

「リンナ。ミルミアの心配をしている暇はないぞ。今の自分の環境を見てみろ。お前しか動けない」


 タイガとレーラはうつ伏せで倒れており、ミルミアは氷針(ひょうしん)が刺さって動けない。現時点て立っているのはリンナただ一人だった。


「まずはお前からだ、リンナ。今までありがとな」


 そう言って再びミストレアス・マードを決めようとした時だった。


「勝手に……終わらせてんじゃねぇよ……」


 まだ放たれていない氷針が、砕け散った。そしてリンナの前に現れる一つの影。


「タイガさん……」


 顔が血だらけのタイガが、そこには立っていた。頭を強く打っただけで、骨に異常はないと言う。


「約束したろ。この依頼が終わったらデートするって。ここでくたばってたまっかよ」


 タイガは微笑み、リンナに言う。


「死に損ないめ……」

「何度も死地を駆け巡って来た俺にとっては、褒め言葉だね」


 影はタイガを睨み、タイガもまた、影を睨む。


「リンナ。ミルミアとレーラの事は頼んだ」


 タイガは小さい声で、リンナに言う。だが、リンナは納得いかなかった。


「ですが――!」

「それに――」


 そんなリンナに微笑んで、タイガは言う。


「お前達も、俺の事を守ってくれるんだろ? その時の為に、体力を残しておいてくれ」

「……はい!」


 リンナはタイガの下を離れ、ミルミア達の所に行く。タイガは再び一対一となった。


「そんな事をしても無駄な事なのに。どうせみんな、ここで死ぬんだから」

「死なねぇよ。ここにみんながいる限りな」


 タイガは深く深呼吸をし、心を落ち着かせ、剣を強く握り、影を睨む。


「行くぜ、偽物!!」


 タイガと影の剣が交差にぶつかり合う。タイガは空いている左手を影の右腕に掴もうとしたが、一足早く影が足を払い、タイガを転ばせようとする。タイガは足元を崩されたと同時に影の腕を掴み、崩された反動を利用して巴投げを決める。そしてすぐさま起き上がり、斬ろうとするも、目の前にいた影がいつの間にかいなくなっていた。


「ミストレアス」


 後ろから聞こえ、水の弾丸がタイガの左肩を貫く。


「ペトラ・ビースト!」


 タイガは振り向き様に剣に火を纏わせ、火の波を飛ばす。だが既に影はおらず、空振りになってしまった。

 するとまた背後から音が『チチチ……』と聞こえる。

 振り向くと、右手に雷を纏っていた影の姿があった。

 タイガの脳内に今朝の夢が走馬灯のように浮かぶ。


 ――確か俺はここで……


「これで僕は外に出られる。オリジナルはここで眠れ」


 夢と同じセリフを吐かれ、影の右手がタイガの心臓に差し掛かる。だが、影はタイガを見た瞬間、動きを止めた。


「な、何で……」


 何故ならタイガは――


「何でそんな顔してんだよ!!」


 笑っていたのだ。

 人は死ぬと錯覚した時、何を考えるか。それは無である。自分の命がここで終わると思ってしまうと、何も考えられなくなるのだ。だが、タイガは違った。死ぬ間際まで来ているのにも関わらず笑っている。それはただ単に、タイガがおかしくなったのではない。死を真に受けたのではない。信じていたのだ。


「やっと起きたか……」


 仲間を。

 タイガの正面、つまり影の背後から発砲音が聞こえ、影の右肩を貫く。影は撃たれた肩を抑えると、タイガに顔を蹴り飛ばされた。


「タイミング良すぎだろ。ホントは起きてたんじゃねぇか?」


 そして影の肩を貫いた彼女はうつ伏せのまま顔を上げ、苦笑いしていた。


「……レーラ」

「悪いなタイガ。かなり打ち所が悪くておじいちゃんに会ってきたぜ」


 冗談の様に言い、ゆっくりと起き上がる。


「遅くなってすみません、タイガさん」

「ごめんね、タイガ。迷惑かけちゃって」


 回復に専念したリンナに続き、先程まで串刺し状態だったミルミアが苦痛の顔を浮かべるも、タイガに近付く。


「いや、むしろ助かった。もう少しで予知夢()と同じ事が起きる所だった。ありがとう」


 タイガがそう言うと、蹴り飛ばされた影の方から声が聞こえた。


「――が……」


 すると神殿が少しずつ揺れ始める。


「な、何!?」

「地震か?!」

「違う。あれは――」


 タイガは影の方を見て、冷静に答える。


「影の暴走だ」

「クソがぁあああああああ!!」


 その瞬間、影は叫び、今の咆哮で神殿にヒビが入る。それにより神殿も大きく揺れ始め、今にも崩れそうだった。


「お前達はムナウド様を安全な場所に! 最悪ここは崩れる!」

「でもタイガは!?」


 タイガは自分はここに残ると言い、三人を無理矢理部屋から出させた。

 三人が出て行った瞬間、その出入口は落石で通れなくなった。完全にタイガは閉じ込められたのである。影の上にも崩れた岩が落ちる。だが、タイガの顔に焦りは見えなかった。


「さて、決着をつける時が来たか」

『気を付けてマスター。あいつ、さっきとはまるで別人だから』


 ジュピターの言葉に、タイガはふっと笑う。


「分かってるよ。それに、今なら見えそうなんだ。あいつの動きが」


 タイガは影への視線を逸らさず、ジュピターに話す。


「根拠はない。だけど、出来そうな気がする。それだけは分かる」


 真っ直ぐな瞳をしたタイガを見て、ジュピターはにっこりと笑った。


『帰らないとね! マスターの事を待っている人達の下に』

「あぁ!」


 すると瓦礫の中からタイガの影が雄叫びを上げて出てきた。完全に自我を失い、力だけで行動しているようにも見えた。

 タイガは目を瞑り、大きく深呼吸をする。覚悟を決め、閉じた瞼を思いっきり開けた。





 右目に魔眼を宿して――。


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