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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第四章 厄災の神殿
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第六五話 影の正体とタイガの……

「俺の中……だと?」


 タイガは影の言った事に耳を疑い、そしてその言葉に理解できなかった。


「あぁ。お前は知っている筈だ。既に聞いているだろ? ジュピターから」

「ジュピターから……」


 その時、タイガはジュピターに言われた『あの言葉』を思いだす。


『マスター。何があっても、自我を失わないで。マスターの中に別の者の『魂』を感じる』


 次に目の前の影の発言。


『もしそれが自分の能力ではなく、自分の中にいる能力だとしたら?』


 その時、タイガのピースがカチリとはまった音がした。


「俺の中にある『魂』。俺の中にいる能力……もしかして――!」

「一つ訂正を入れるか。確かに俺とお前は同一人物。身体能力も、使える魔法も全く同じ。だが、お前が本物(オリジナル)なら、俺も偽物(オリジナル)だ。何故ならお前はまだ未完成品だからだ」

「未完成品だと……!」


 影の言葉に少しイラついたタイガは敵意をむき出しにする。だが、影は怯むことなく話し続ける。


「あぁ。未完成品だ。だってそうだろ? お前には使えない魔法が、俺には使える。言うなれば、俺が本物(オリジナル)だ」

「ふざけんな! お前が本物だと!?」


 怒りを爆発させたタイガは剣を強く握りしめ、足にガリルを溜め、影に向かって一気に走って行く。


「お前の質問に答えてやろう。どうしてお前には使えなくて俺には使えるのか。それはな――」


 向かってくるタイガに、剣を左腰に構え、臨戦態勢に入った。


「僕が君の身体を借りているからだよ」


 その時、影の口調が突然変わり、急ブレーキをかけたタイガ。それを見越したのか、今度は影がタイガに向かってきた。一瞬思考が停止したタイガは判断に遅れ、影の攻撃を防ぎきれず、腹部から胸にかけ、大きな傷を負い、大量に出血した。


「ぐは――っ!」


 その後、顔の右側面に回し蹴りを決められ、よろめいてしまう。そして背後ががら空きになったタイガに、影は追い打ちをかけるかのように斬りつける。斬られた後もタイガは蹴り飛ばされ、文字通り手も足も出なかった。


「僕はもうヤマト・タイガじゃない。ヤマト・タイガは僕の器でしかないんだ」


 そう言いながら、タイガに少しずつ近づいていく影。


「お前は……誰だ……」


 ゆっくりと立ち上がるタイガ。肩で呼吸をし、視界が霞み、意識が朦朧とする。自分に回復魔法を掛けている暇もなかった。


「今から死ぬ人に、僕の正体を知る必要がある?」

「ふざ、けんな……。俺が死ぬ? 何を根拠に……」

「夢を見たでしょ? それが証拠だよ」


 タイガの今朝の夢が、今本当に起きつつある。深い傷を負うタイガ。それを見て嘲笑う影。


「俺は、死なねぇ……。約束したからな。あいつの下に必ず帰るって……」


 タイガは力を振り絞り、影がいつ仕掛けてきてもいい様、臨戦態勢に入った。だが、少しでも気が抜ければ命はないとみてもおかしくないだろう。


「約束、ね。ニートだった(お前)が約束なんてしても無意味だ」

「なに……?」


 雰囲気や喋り方が再びタイガに戻り、話を続けた。


「だってそうだろ? お前が約束をした所で何も救えない。救えやしないのさ。何故なら(お前)は――」

「止めろ!!」


 刹那、タイガが叫んだ。この先何を言われるか、自分でも想像できたのだ。だが影は、口を閉じなかった。そして、タイガにとっては聞きたくない言葉が、鮮明に聞こえた。


「かけがえのない大切な友を()()、最低な奴なんだからな」


 その時、タイガはフラッシュバックをおこした。

 数少ない友達の中で、唯一無二の親友と幼馴染の記憶が。

 そして自分が引きこもる原因となった、あの日の事件が。


「う、うわぁあああああ!!!!」


 タイガは頭を抱え、泣き叫び、両膝をつく。絶対に思い出したくは無かった。あの日の出来事は。それを今、目の前にいる(タイガ)が何食わぬ顔で言った。思い出させた。


(お前)がカリンを助ける理由は、死んでいったアイツ等への贖罪。カリンを守り、代わりに自分が傷つくことによって、少しでもアイツ等の痛みに近付こうとしているだけだ。そしてアイツ等に許してもらおうと、そんな勝手な考えでお前はこの世界で生きている」


 目の前の影が言っているという事は、タイガ自身、心の奥でそう思っていたに違いない。しかし、実際にそれを口にされ、タイガは耐えきれなかった。

 そんなタイガに、影は更に追い打ちをかける。


「本当は自分でも気付いている筈だ。そんな事したって、アイツ等は……智紀(とものり)明日香(あすか)は許してくれないと。(お前)と二人の傷の深さは、比べ物にならないからな」


 そして泣き叫ぶタイガに影は近づき、自身の剣の柄を両手で握り締め、刃先をタイガに向ける。


「悪いが、(お前)がカリンを守っている()()()理由はそんなんじゃねぇよ」


 ゆっくりと影は剣を振り上げ、口調が変わり言った。


「僕が君を利用して、カリンを守らせたんだ。僕が完全に目を覚ますまで、意識的にカリンを守らせてもらった。だけど、影の器が出来たお蔭で約束は果たせそうだ。ありがとう。そこは感謝するよ」


 そして剣に雷を流し、タイガに向けて振り下ろす準備が整った。


「これからは僕がヤマト・タイガとして生きていく。安らかに眠れ」


 そして勢いよく剣は振り下ろされた。

 振り下ろされた剣はタイガの心臓を貫き、一瞬で息の根を止めた――――筈だった。


「良かった……何とか間に合ったわね」

「大丈夫ですか? タイガさん」

「何でこいつは泣いてんだ?」


 そこに現れたのは、タイガのパーティーメンバーであり、タイガの事を慕うミルミア、リンナ、レーラだった。


「く――っ! 何で君達が!」


 影を見ると、首から下が氷漬けにされており、身動きが取れない状態だった。


「おま……えら……」


 タイガはミルミア達を見上げ、三人を見る。


「タイガ。あんたが(あいつ)に何言われたか分からないけど、そんな事で弱ったら、ウチ達のリーダーは情けないってカリン達に言いふらすわよ!」

「ミルミア……」


 服がボロボロで剣を構えているミルミアが、影を見ながら言う。


「タイガさん、まずは回復してください。その間に私達がこの偽者と戦います!」

「リンナ……」


 いつもと雰囲気が違うリンナが、影を睨み言う。


「その前に、その情けねぇ面をどうにかしろよ」

「レーラ……」


 リボルバーの銃口でハットのつばを上げ、タイガの方をニヤついて言う。


「みんな……ありがとう……」


 タイガは涙で汚れた顔を拭き、回復魔法を自分にかけた。


「君達が来たということは、(シャドー)は殺られたんだね」

「影? あいつら、クローンじゃなかったのか」


 影の発言にレーラは素っ頓狂な声を上げて言う。


「ですが、あのタイガさんは何か雰囲気が違うような……」


 目の前にいる影に違和感を感じたリンナが言った。


「あれは俺であって、俺ではない。それより、ムナウド様は?」

「村長なら、今安全な場所に待機させてる。それより、タイガであってタイガでないってどういう事?」


 回復が終わったタイガは立ち上がり、そう言うと、ミルミアが聞いて来た。


「あれは俺の中にいる『魂』そのものだ。姿、形は俺だが、今の中身は完全に別人だよ」

「タイガさんの中にいる『魂』。それって……」


 リンナは今朝のジュピターとのやり取りを思いだした。


「そうか。お前がタイガを苦しめていた張本人か」

「お前ら、知ってんのか?」


 レーラがそう言うと、不思議に思ったタイガが聞いた。


「ウチ達が今朝、アンタの相棒に聞いたのよ。ここに来れたのも、事前に彼女のガリルをマグナラに登録したから辿って来れたって訳」

「いつの間にジュピターと……」


『これは私のガリル。貴女達に渡すわ。マスターに何かあれば、二人のマグナラに私のガリルを反応させるから』


 ミルミアとリンナはそう言われ、今朝、ジュピターからガリルを受け取っていたのだ。


「そんな事より、今は敵前よ。タイガ。大丈夫なの?」


 表情が変わったミルミアを見て、タイガも心を完全に入れ替えた。


「――あぁ!」


 タイガは剣を構え、背後にいる三人に言った。


「援護、頼む」

「ええ!」

「はい!」

「おう!」


 その言葉で、三人も戦闘態勢に入った。


「行くぜ!!」


 そして再び、戦いの火蓋が切って落とされた。


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