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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第四章 厄災の神殿
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第六四話 光と影

「成程……。そうか。お前が――」


 タイガは自分にそっくりな、いや、瓜二つの自分に言った。


「お前が偽物(クローン)か」


 その眼には光を感じさせない程の虚無感が漂ってきた。そこからは何の感情も生まれない、ただの人形の様だった。

 そして、遂に偽物(クローン)が口を開いた。


「偽物……俺らはそう呼ばれているのか。確かに、言っている事はあっているが、根本的な所が違う」

「だろうな。俺も今感じ取ったよ」


 タイガは先程から、偽物に違和感を感じていた。偽物と言う割には、どこか大人しい。全く同じ人間から出来たのだから、感情も本物同様に表現しなければならない。だが、目の前にいる偽物はどうだろうか。確かにタイガ自身も冷静で落ち着いている部分もあるが、妙に静かなのだ。そこでタイガは偽物と言うより、この言葉の方が正しいと感じたのだ。


「偽物、と言うより(シャドー)の方が近いな」


 タイガの言葉に影は眉をピクリと動かす。そして再び影は口を開いた。


「その通り。俺達は偽物だが、正しくは影だ。お前達の情報を抜き取り、そしてあの装置に送られ、生成される。ミルミア、リンナ、レーラは既に作られたから、もう本体と合流する所だろう」


 あの装置とは、タイガが違和感を持った溝の事だ。その横の名前は、影が生成された人の名前らしい。


「俺達はお前達の影だ。お前達が日の光を浴びて、俺達は生まれる。お前らは影の気持ちを考えたことがあるか? 影はどんだけ外に出たくても出られない。お前と言う障害がある限り。ならどうすれば良い? 簡単な事だ。それは――」


 その瞬間、影が一気に目の前までやって来た。


「その障害を壊せばいい」


 そう言ってタイガの右頬を殴る。

 力が込められたせいか、タイガは吹っ飛んでしまい、壁に激突する。


「お前を殺し、石像に封印させれば、俺は外に出られる。ここにある石像は、俺達影に無様に殺された人用に作られたものだ。大広間の石像を見ただろ? あれは嘗てこの神殿にやって来て、影に無様に殺られた人間達だよ」


 タイガは殴られた頬を拭い、ゆっくりと立ち上がる。


「お前はこれから、あの石像の様になっていくんだ。つまり、ここでお前は死ぬんだよ。夢でも見たろ?」


 その一言で、今朝の夢を思いだしたタイガ。自分と瓜二つな顔を持つ男に心臓を貫かれ、死んでいく夢。


「お前は今まで、予知夢で自分の死を回避してきた。だが、今回は回避出来ない。何故だか分かるか?」


 刹那、目の前の影が消えた。そして耳もとで突然聞こえる、悪魔の囁き。


「相手がタイガ(お前)だからだ」


 そして背中を思い切り蹴られ、再び吹き飛ぶタイガ。タイガは受け身を上手く取り起き上がるが、その頃には既に目の前に影は近づいており、刃がタイガの顔へと向けられた。

 このままではタイガの顔、詳しく言うと目が斬られてしまう。そこでタイガは一目散にルカを唱え、影を吹き飛ばそうと試みた。だが――


「甘いよ。困ったらすぐにルカを使うなんて。そんなの俺には効かないよ。言ったろ?」


 目の前に剣も無ければ影の姿も無く、声のする方を見ると上に飛んでおり、脚を振り上げていた。


「俺は(お前)だと」


 その言葉と同時に、タイガの脳天に踵落としをする。だがタイガは無理矢理身体を回転させ、影の踵落としを躱した。本来タイガの脳天に決まる筈だった踵は地面へと突き刺さり、地割れを起こしていた。


 ――あれを喰らったら、間違いなくあの世行きだ。クソっ! 何でこんなに強いんだっ!


 そんな事を考えている間にも、既に影は目の前に来ていた。タイガは直ぐに剣を抜き、向かってくる影の攻撃に備える。すると影も剣を抜き、剣同士が交える。


「く――っ!」


 だが、影の力は想像以上に強く、タイガは圧し負けている状態だった。


「どうした。俺はそんなに貧弱だったか? 少なくとも、この世界に来てからはそんな事は思ったことない筈だ。何故なら、今までに存在しなかった力を得たのだから」


 影が言っていることは全部合っていた。この世界に突然転移して、いきなり絡まれたチンピラを殴ったら吹っ飛んで壁にめり込むまでの力を得ていた。脚力も上がり、より高くジャンプする事も出来た。


「お前は考えたことがあるか? お前(自分)(自分)が闘えばどうなるか。結果がこれだ。影の存在である俺に力負けしている」

「影の割には口数が多いな……」


 それでもタイガは必死に抗う。懐ががら空きな事に気付いたタイガは、足で蹴り飛ばそうとした。だが影も同じ様に、タイガの懐に蹴りを決め、互いに蹴りを決められて吹っ飛んだ。それでもタイガは怯む事なくすぐに立ちあがり、今度はタイガから速攻を仕掛ける。


「ソード・ルカ!」


 タイガは影に向かって走って行くと同時に、風魔法ソード・ルカを唱える。だが影は、一歩も動こうとせず、ただ立ち竦む。そしてタイガの攻撃が当たろうとした時、影は剣を一振りした。すると影に向かって放ったソード・ルカが全て打ち消され、近くまで来たタイガの溝尾に向かって手を伸ばした。そして見た事も聞いた事もない魔法を唱える。


「――ギリス・ルカ」


 そう唱えた瞬間、タイガの溝尾に激しい痛みが襲った。内臓の何かが破裂するような音が聞こえ、タイガは吐血し、後ろに吹き飛ばされ壁にめり込み、倒れてしまう。


「ゲホッゲホッ……」

「安心しろ。内臓は破裂していない。胃潰瘍(いかいよう)の様なもんだ。それにお前ならエントレスで回復できんだろ」


 そう言って少しずつ近づいてくる影。タイガは痛みに抗いながら、何とか立ち上がる。そしてタイガには、どうしても聞きたいことがあった。


「何だ……その魔法は……」


 相手は影。つまり自分。自分が使える魔法が相手にも使えるのは当たり前。だが、本物(オリジナル)が知らない魔法を影が使えるのは、タイガにとって疑問でしかなかった。


「お前の魔法は一部に過ぎない。カリンを初めて助けた時、突然頭に浮かんだ魔法。お前の魔法は全てそうだ。自分から学んだのではなく、突然得たものを()()()()()()()()使っている」

「待てよ。俺が使っているんだから、俺の魔法だろ」

「さっきも言ったろ。お前の魔法は自分で得たものじゃないって」


 その言葉に、タイガは押し黙る。そしてタイガは混乱し始めた。


 ――確かにこの魔法は俺が考えた訳でも自主的に取得した物でもない。勝手に浮かんできた、ただの偶然に過ぎない。じゃあ何で俺は魔法を使える? そもそも、どうして俺はここにいる? どうしてこの世界に来た?


 そしてその混乱は渦を巻き、歯止めが利かなくなった。


「これで終いだ。安らかに眠れ、タイガ()よ」


 気付いたころには目の前に影が立っており、剣を振り上げていた。このままではタイガの首は吹っ飛ぶ。そこでタイガの目を覚まさせたのは、一人の少女だった。


『マスター! 目を覚まして!』


 突然脳裏に響いた幼き声。そう。ジュピターだった。この声で目を覚ましたタイガは剣を防ごうと、自身の剣で対抗する。そして今度は間を開けず、直ぐ次の攻撃態勢に入った。


「クリアガービル!」


 剣に雷を纏わせた雷刀が、影の剣に雷を伝え、相手を少し怯ませる。その隙を狙って、タイガは影の顎を突き上げる。上に少し浮き上がった影は抵抗しようとするも、身体が思うように動かず、タイガの回し蹴りを喰らって吹っ飛んだ。


「ハァハァ……ありがとう、ジュピター。お前の声が聞こえなかったら、今頃石像に封印されてたぜ」


 タイガが混乱の渦に巻き込まれていた時、ジュピターは自分のガリルをタイガに流し、無理矢理目を覚まさせたのだ。


「少し気が緩んでいたか……」

「今ので少し、お前について分かった事がある」


 ゆっくりと立ち上がる影に、タイガは語る。


「まず、お前の言葉には少しばかり幻術が掛けられている。じゃなかったら、俺はジュピターに目を覚まして貰ってないからな」


 実はタイガが混乱している時、混乱させるよう幻術を掛けていたのだ。そこでジュピターがタイガに声を掛け、目を覚まさせた。


「そしてお前は影だと言っているが、実体を持っている事に変わりはない。先程の戦闘からお前には触れられるし、触った感触も人間そのものだ。そこで導き出されたのが、お前達影は『脳』は持っていなくても『脳に似たもの』なら持っている。それを確信したのはさっきの攻撃だ」


 タイガが顎を突き上げた時、影が一瞬怯んだのは、人間でいう脳震盪(のうしんとう)を起こしたからだ。


「お前は人間に変わりない。血は出ずとも、傷は必ず負う。だが、まだ解決していないのがある」


 それはタイガが幻術に掛かる前に聞いた、あの事だった。


「どうして俺が使ったことのない魔法を、影であるお前が使える」


 その質問に、影はゆっくりと口を開き、答えた。


「お前はこの神殿に来る時、ジュピターから聞いたな。神殿に入るものの情報()()を抜き取り、偽物を作り出すって」


 全て。その言葉にタイガは耳を疑った。


 ――確かに全てと言った。だけど俺はそんな魔法――


「使ったことない、だろ?」


 タイガの考えている事が影には理解したのか、先読みをされていた。


「じゃあ聞くが、お前、他人のオーラ見えるよな」

「それがどうした」

「もしそれが自分の能力ではなく、自分の()にいる奴の能力だとしたら?」


 その時、タイガの中の何かが動いた。




 ――あと少し。あと少しで僕は堂々と君を守れる。待っててね、カリン。


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