第六二話 謎の部屋と石像の秘密
タイガが開いた扉の先には、不思議な光景が映し出されていた。
「何だ……コレ……」
そこにあったのは、部屋の中心奥にある、不自然に縦に開いている窪みと、周りには人型ではあるが、まだ目や鼻などは付いていない石像があった。
タイガは恐る恐る中に入って行く。その瞬間、後ろの扉が一気に閉まり、タイガを閉じ込めた。
「おいおいマジかよ。いくらこの部屋が明るいからって、閉じ込める必要はねぇだろ……」
実はこの部屋だけ松明が部屋の周りを囲んでいて、明るかった。
閉じ込められた以上、何もできないタイガは、出口を探しつつ、この部屋を探索した。
タイガがまず目にしたのは、顔もまだ出来ていない石像。
――この石像、もしかして大広間にいた石像と何か関係しているのか? まだ顔もつるつるの状態だし、マネキンみたいだ。けど、この側面の縦に引かれている線は何だ?
そんな疑問を浮かべつつ、次は中心奥にある、人一人入れる窪みの所に行く。その窪みを見ていて、タイガはどこかに違和感があった。
――確かに岩そのもので出来ているが、何かおかしい。まるで人工的に作られたみたいに……。それに、その横に書いてあるものは何だ? 恐らく古代文字か何かだろう。全く読めない。
だが、文字を辿っていくと、一番下に書いてある文字だけが何故か読めた。そこに書かれていたのは、人の名前だった。
『ムナウド・ヴァンガレア』
――ムナウド・ヴァンガレア……。もしかして、村長のムナウド様の事か? でも、どうしてここだけ読めるんだ?
そして次の瞬間、ムナウドの下に新たな文字が書かれた。それを見て、タイガは言葉が出なかった。そこには自分の知っている名前が書かれてきたのだ。
『ミルミア・ガーネ』
『リンナ』
『レーラ』
――ど、どういうことだ……何であいつ等の名前が? 向こうで何かあったのか!?
そして、新たな名前が書かれた。その名前は――
『ヤマト・タイガ』
自分自身だった。
この時、タイガは理解した。ここに書かれている名前は一体何なのか。何故自分やミルミア達の名前が書かれたのか。
――この名前。この神殿に入って行った人の名前だ。ここに書いてある『ムナウド・ヴァンガレア』。そして後から書かれた俺達。これからすると、この神殿に入った人がここに名前を書かれるんだ。ムナウド様より上の人が読めないって事は、まだ古代文字が使われている時にこの神殿に入ったのか。だけど、何かが引っかかる。どうしてムナウドさんから、今使っている文字になっているんだ? ここが古くから存在する神殿なら、使われる文字も古代文字になる筈だ。なのにどうして……
『――が、……イガ! き――る?』
その時、タイガの脳内に一つのノイズが走った。だが、それは聞き覚えのある声だった。
「ミルミア! ミルミアなのか!?」
『タ……ガ! こっ――でそん……うみつ――たわ!』
ノイズが走っているせいで、何を言っているのかはっきり分からないが、タイガは何とか理解した。
『まだい――し……る! こっ――は……じよ!』
「分かった! 取りあえず早く合流を――っ!」
この時、目を離した窪みから何かを感じ、念話を途中で切って後ろを振り向く。振り向いた瞬間、何者かが何かを振り下ろしてきた。タイガはそれをぎりぎりで躱す。タイガは相手を見ると、全てを理解した。
「成程……。そうか。お前が――」
相手はゆるりと振り向き、タイガを見る。相手の服装、武器、髪型、そして何より、顔立ちがタイガと全く同じだった。
光の円を完成させ、先に進める様になったミルミア達。その先は再び地下に続く階段だった。そこからは冷たい風がミルミア達を襲う。
「急に雰囲気が変わったわね……」
「村長が見つかるか、タイガさんと先に合流するか……」
「どっちにしろ、先に進まなきゃ始まらねぇ。行こうぜ! 二人共」
レーラの言葉で、階段を下り始める三人。レーラは再び光魔法フラッシュを使い、先の道を明るくする。
コツン、コツンと三人の足音が響く。階段の途中には何もなく、下り切ると直ぐ左側に木の扉があった。
「二人共、行くわよ」
ミルミアの言葉に、リンナとレーラはコクリと頷く。それを合図に、ミルミアはそっと扉を押し開ける。少しの隙間から、三人共目を凝らして中を見る。中は縦に長い部屋で、扉から奥の机らしきものまで古い絨毯が敷かれ、それを挟むように長椅子が一〇列程置かれていた。イメージだと、結婚式で使われる教会に近い。
三人は誰もいないと認識し、中に入る。
「何か、気味悪いな……」
「周りが松明だけで明かりを灯していますからね。余計に雰囲気悪いです」
「ん? あの机の前で倒れているの、誰?」
周りを詮索している時、ミルミアが何かを発見した。
三人はゆっくりとそこに近付く。そこには一人の男の人が倒れていた。それを見た瞬間、レーラが声を上げた。
「コレ、村長だ!」
倒れていたのは村長であるのムナウドだった。ムナウドが倒れていた近くの机を見ると、箱のようなものが開けられていた。
三人で村長を抱え、近くの長椅子に寝かせる。
「多分、この箱を開けて気を失ったんだわ」
「まだ呼吸はしています。私がオールヒールを掛けるから、ミルちゃん、タイガさんへ連絡をお願い!」
「え、でも繋がらなかったんじゃ――」
「物は試しだ! やるだけやってくれ! あたいは付近を捜索するから!」
ミルミアは言い返す暇もなく、リンナに言われた通りにイヤリング型のマグナラにガリルを流し、タイガとの念話を試みた。すると、ノイズのようなものが走った。
「タイガ! タイガ! 聞こえてる?」
『ミ――ア、……ルミ――か!?』
どうやら、繋がったようだ。だが、ノイズのせいで向こうが何を言っているのか分からない。
それでもミルミアは話し続ける。
「タイガ! こっちで村長を見つけたわ! まだ息もしてる! こっちは無事よ!」
『わか――。とり……えず、ごう――』
「タイガ! タイガ!」
そこでタイガとの念話が途切れた。途切れ方に違和感を覚えるが、取り敢えず繋がって村長の無事を伝えられた事を伝えた。
「良かったです。村長さんも今は普通に気を失っているみたいですし、このまま目が覚めるのを待ちましょう」
リンナは村長の傍にいると言い、ミルミアとレーラは再び付近を探索した。だが一つ、ミルミアは気になっている事がある。それは、目の前にある蓋が開けられた箱だ。
――もしかして、昨日タイガが言ってたウチが開けた箱ってこれの事かな。
ミルミアはタイガが予知夢で、ミルミアが箱を開けて死んだと言うのを思い出す。だが、近辺には他に箱らしきものは存在しない。だからあるとしたら目の前の箱だろう、とミルミアは推測した。
ここで一つ、ミルミアの中で新たな疑問が生まれた。
――待って。タイガが予知夢でウチが箱を開けたのを見たのは一昨日。けど、村長がいなくなったのは約一〇日前。もし、その時に箱が開けられているとすれば、ウチが箱を開けるなんて夢は見ない筈。なのにどうして、予知夢でウチが出てきたんだろう……。もしかして、箱はまだ他に存在するって事?
その時、右上の方からレーラの声が聞こえた。
「おーい! ミルミア、リンナ! こっちにも部屋があったぞ!」
そう言われて見てみると、レーラは何処から上ったのか、上の階にいた。
「どこから上ったの?」
「何処って……ミルミアの右手奥に階段があるだろ?」
――階段? そんなの何処に……
ミルミアがレーラの言っていた場所に向かう。その時だった。
「ミルちゃん! 危ない!」
「え?」
突然、上の階の床がミルミアの頭上から落ちてきた。ミルミアが間一髪で逃げ切り、瓦礫の下で潰されずに済んだ。
「あ、危なかったわ……。ありがと、リンナ」
リンナに礼を言った時、リンナはレーラを睨んでいた。
「レーラさん、どういう事ですか?」
「な、何がだ?」
ミルミアもさっぱり分からず、二人を交互に見る。
「ミルちゃんが行こうとした時、その階の床を撃ちましたよね。それって完全に、ミルちゃんを殺そうとしてました。しかも、発砲音が聞こえないようにサイレントで」
「そうなのか? レーラ」
「あ、あたいがそんな事する訳――」
「私は見てましたよ。ミルちゃんが動いた時に、貴女の左の口角が上がっていた事」
レーラが言い返す暇がない程、リンナがレーラに対して色々言う。レーラは俯いたまま、リンナの話を聞いていた。
「正直に話してください。何故、撃ったのですか?」
「…………」
聞いてもレーラは返事をしない。
「レーラ! どうゆう事か説明しろ!」
「ん、んん……」
その時、長椅子で寝ていたムナウドが目を覚ました。
「ムナウド様! 大丈夫ですか?」
「私は……それに君達は……?」
ムナウドはゆっくりと身体を起こそうとするも、ふらついて起き上がれなかった。
「あまり動かないで下さい。村長さんはだいぶ弱っておられますので……。私達はドルメサ王国の国王直轄の冒険者です。今回、神殿の調査と、村長さんの救出の依頼で来ました」
リンナが起きたムナウドに伝わるように、ゆっくりと説明する。その時、レーラの顔が歪んだ。
「ちっ。仕留め損ねたか」
「レーラ、アンタ……」
今の発言を聞き、ミルミアは戸惑いを隠せない。
「本当はあんた達を始末した後、その男も始末しようと思ったんだけど、失敗に終わっちゃった」
「どういう事ですか? レーラさん」
「どういう事って……。こういう事だよ」
レーラは顔をゆっくり上げると、今までのレーラとは違い、目の色がおかしかった。白目の部分が黒くなり、黒目、瞳孔が赤くなっていた。
「な、何だ……レーラの様子がおかしい……」
「ミルちゃんあれは多分、レーラさんじゃないよ」
今のレーラの状況を、リンナが冷静に答える。
「多分、目の前にいるレーラさんは、本物じゃない。ジュピターが言ってた偽物だよ」
「流石だな、リンナ。お前ら二人、いつもタイガと一緒にいたから、観察力も思考力も似てきたな」
レーラが嘲笑いながら答える。
「確かに、あたいは本物の情報を基に作られた偽物だ。あたい達は本物を殺して、石像に埋め込んだ後に外に出られる。お前達を襲った石像は、以前この神殿に入り、偽物に殺されて石像に埋められた奴らだ。つまり――」
その言葉と同時に、奥から二人現れた。
ミルミアとリンナだ。
「ウチ達はあんた達と村長を殺して」
「貴女達を石像に埋めて、外に出る」
三人は上の階から飛び降りてきて、ミルミアとリンナの前に立つ。
「その前に聞かせて。レーラは今どこにいるの?」
「さぁな。あたい達は知らない」
ミルミアは歯を食いしばり、偽物を睨みつける。
「村長はウチ達の後ろに隠れて下さい」
「タイガさんがいない今、私達でやるしかないね、ミルちゃん」
「あぁ、そのタイガだけど――」
リンナの発言のあと、偽物のミルミアが口を開く。
「とっくにやられてるかもよ?」
「な――っ!」
「鵜呑みにしちゃだめ! ミルちゃん」
動揺しかけたミルミアを、リンナが何とか落ち着かせる。
「私達はタイガさんを信じないと。今は目の前の敵に集中!」
「……えぇ、そうね!」
ミルミアは剣を構え、リンナは杖を構える。それに合わせて、偽物も構える。
本物対偽物。遂に、戦いの火蓋は切って落とされた。




