第六一話 立ち塞がる壁と家族
タイガ達と別れたミルミア達は、リンナの明かりを頼りに、前へと足を進めていた。
「タイガさん大丈夫でしょうか……」
先程の大広間からの出来事を三人は振り返っていた。
「ウチ達を追って来なかったって事は、石像は最初からタイガを狙っていたって事ね。恐らく、大広間でウチ達を攻撃したのは、タイガが一緒に居たから……」
「待てよミルミア。それじゃタイガが原因みたいに聞こえるぞ」
レーラの言葉に、ミルミアは黙ってしまった。今のミルミアの発言は『タイガが一緒に居たせいで、自分達も狙われた』と言っている様なものだ。その言葉に、レーラは納得がいかなかったのだろう。
「ごめん。ちょっと軽率な発言だったわ……」
それから三人は会話もないまま、先に進む。だがミルミアがボソッと呟いた。
「ジュピターとの約束、早速破ってしまったわね」
三人は、今朝のジュピターとの会話を思いだす。会議の内容はいたって簡単だった。
『タイガを一人にしない』
それが唯一タイガを救える方法だと、ジュピターは言った。だが、結局離れてしまうと言う結果に終わった。
「ジュピター、怒ってるよね……」
そう思いながら、途中に部屋などもなく、壁画が描かれた一本道をただただ進むだけだった。
「あれ……?」
歩いて数分。三人の足が止まった。その理由は、目の前にあった。
「行き止まり?」
そう、行き止まりなのだ。変哲もないただの壁が、ミルミア達の進行を阻んでいた。
「もしかして、タイガの方が正解だったって事か?」
「正解も何もないと思うけど……」
三人は簡単に引き返さず、辺りを隈なく調べる。ミルミアは壁を触ったり、レーラは行き止まりの原因となった壁をじっと見たりしていた。リンナは明かりとして、二人の真ん中に位置する所で立っていた。その時、壁を触っていたミルミアが何かに異変を感じた。
「どうしたの? ミルちゃん」
リンナは様子を見に、ミルミアの所へ向かう。ミルミアとレーラの距離は少し離れていた為、リンナがミルミアの所に行くと、レーラの所が少し暗くなってしまった。
「リンナ! そっちに行くと何も……ん?」
リンナに声を掛けようとしたレーラだが、彼女も何かを見つけた。行き止まりとなった左端の床に、一辺三センチ程の正方形のタイルが黄鉄鉱の様に光っていたのだ。
一方ミルミアも同じく、一ヶ所だけ不自然に飛び出ている一辺三センチ程の正方形のタイルを見つける。
「何だ? これ」
「何? これ」
そう言って、二人が同時にタイルを触ったその時だった。二人の触れたタイルから、壁画の溝を沿うように光が走る。その光はやがて行き止まりだった壁に向かい、中心部に円を描く。だが、完璧な円は出来ず、通常の円の三分の二の弧しか出来ない。
すると突然、光が消えた。リンナはミルミアとレーラを見ると、汗を流しながら息を切らしていた。そしてミルミアは壁にもたれかかりながら座り、レーラは倒れてしまった。
「ど、どうしたの二人共?!」
リンナはまずレーラの下に行き、身体を抱える。呼吸はしているが、目を覚ます気配が全くない。オロオロと焦るリンナ。
――ど、どうしましょう。ミルちゃんも今は動けそうにない。レーラちゃんも恐らく寝ているだけでしょうけど……
ここは自分しかいない。そう思ったリンナは焦りを落ち着かせ、抱きかかえているレーラの帽子を取り、自分の帽子を彼女の枕にして仰向けに寝かせた。
「ミルちゃん、大丈夫?」
その後、壁に寄り掛かっているミルミアの下に向かい、話を聞く。
「ウチもよく分からない。だけど、このタイルを触った瞬間、ウチの中にあるガリルが一気に吸い取られる感覚だったわ。恐らく、レーラも一緒ね」
仰向けに寝ているレーラを、ミルミアが見る。
「取り敢えず、タイガに連絡しましょ。あいつの安否も気になるしね」
「そうだね。取り敢えず、ミルちゃんはここで休んでて。私が連絡するから」
そう言って、リンナは二人に回復魔法をかけると、自身のマグナラにガリルを流し、タイガへ連絡を試みる。
だが、タイガが出ることは無かった……。
石像達の追跡を追い払い、先へと進むタイガ。タイガは光属性の魔法は使えるが、生憎明かりとなる魔法は使えない為、近くにあった木の棒を松明代わりにして歩いていく。
「さてと……まずはここの地図が欲しいところだが……。マグナラ、ここの地図あるか?」
タイガがマグナラに地図を出してもらおうとすると、真っ先に『圏外』の二文字が浮かび上がった。
「圏外? 元々このマグナラは俺のスマホを取り込んだ物だから、圏外って事は電波が届かないって事か……。いや、もしくはこの神殿が遮断しているか」
タイガは試しに、ミルミアに連絡をしてみる。だがやはり繋がらない。
――やっぱりな……。取り敢えず、このまま進むしかない。俺達は今、どう足掻いても神殿には出られないんだ。このカラクリを解き明かすまで、アイツらの無事を祈っているしかない。
ミルミア達の無事を祈りつつ、歩き続けるタイガ。壁画をじっと見ながらゆっくりと歩いていく。だが、タイガにはこの壁画の意味がさっぱり分からない。だが、何となくだが、タイガが今見ている壁画の状況が分かって来た。
――何か大きな力を持つ者が、五人と対立する。でも五人は多分、戦いに敗れたんだろうな。そしてそいつは、何してんだろう。世界を治めようとしてんのか……? 違う。破滅だ。この壁画は一体、何を意味して作られたんだ……
そうしながら歩いていくと、行き止まりに着いた。
「ここで行き止まりかよ……ん?」
タイガは呆れかけた時、壁の真ん中に縦に細い穴を見つける。その細い穴を中心に、円が描かれており、その円が何を意味しているのか分かったタイガだが、どうすれば稼働するのか分からなかった。
――この細い溝は恐らくこの扉を開ける為の『鍵穴』だろう。その周りに描かれている円は、鍵を鍵穴にはめた時に回す様に作られた円だな。
タイガは冷静に壁を見つめ、顎に手を当て、考える。
――さて、問題はその『鍵』だ。どこにある? ミルミア達の方か? 連絡取りたいけど、生憎ここは圏外だ。通信を遮断されている。戻ろうにしても、まだ石像がいるだろう。こりゃ詰みだな……
そう言って剣に触れた瞬間、タイガの意識は飛ばされた。
『やっと来た』
「ジュピター?」
タイガを迎い入れたのは、頬を膨らませているジュピターだった。
「どうしたんだジュピター? そんなに頬を膨らませちゃって。可愛いぞ?」
『か、かわっ!? 可愛い!?』
突然の可愛い発言に、ジュピターは顔を真っ赤にさせた。
『あ、ありがとう……じゃなくて!』
嬉しかったのか、お礼を言うも、本題に戻った。
『ミルミア達と分かれた今、マスターと私しかいない。本当は別れて欲しくなかったけど、この際だからしょうがない。マスター、この先にとても邪悪なものが感じる。開けてしまえば、恐らく戦闘は免れない。どうする?』
ジュピターにそう言われたタイガ。だが、タイガの心の内は既に決まっていた。
「何言ってんだよ。数々の困難を乗り越えてきた俺だぞ。魔王軍と闘ったり、大量の魔物と闘ったり。今回だって負けねぇよ。なんたって――約束、したからな」
今朝、シャワーを浴びている時に思い出した言葉。そして浮かんでくる一人の少女。
「俺は、俺達は絶対にあいつの下に帰る。だから、俺を呼んだ理由を教えてくれ」
タイガの目を見るジュピターは『はぁ』とため息をつき、再びタイガの目を見て話す。
『さっきマスターが見ていた、細長い溝。あれは多分、ガリルを通す鍵が必要になってくる』
「やっぱりか……。だけど、そんな鍵らしい物何処にもなかったぞ?」
『多分、固有の鍵は存在しない。細長くてガリルの通るものなら何でもいいと思う。と言うか、それしかない』
「細長くてガリルを通す物って、どこに……」
タイガが言葉を言いきらずに、何かを察したのか、ゆっくりとジュピターを見る。
「まさか……」
『私を使って。マスター』
にっこりと、曇りのない笑顔で言ってくるジュピター。だが、タイガは良しとは思えなかった。
「でも、それでお前の身に何かあったら……」
『私なら大丈夫。私もマスターと離れたくないから……。私を信じて?』
曇りない目に、タイガは心折れた。
「何かあったら、直ぐに俺をここに呼べ」
『マスター……』
タイガはジュピターに背を向け、外に出る準備をする。そして去り際に何か言い残し、ジュピターの世界を去った。
タイガがいなくなって一人になったジュピター。タイガの先程のタイガの言葉を思い出す。
――お前も……俺達の家族なんだから。
『家族、かぁ……』
その言葉を聞いて、今まで流した事のないものが、頬を伝う。
『そんな事言われたの……初めてだよ……』
一人、静かに泣いた。
今まで道具としか見られてこなかった彼女にとって、どれ程嬉しい言葉なのか。それは彼女にしか分からない。
――そんな優しいマスターだからこそ、マスターの傍にいたいと思ってしまう。だがら、お前の思うようにはさせない……
涙を拭き、気持ちを切り替え、タイガからの行動を静かに待った。
ゆっくり目を開け、目の前の壁を見る。すると、先程は見えなかった黒いオーラが、今でははっきり見える。タイガの右目の魔眼が発動したのだ。
――確かに、もの凄い量で、それもどす黒いオーラだな。まるで悪意の塊だ。こりゃ、改めて気持ちを切り替えないとな。
タイガは再び目を瞑り、大きく一つ深呼吸する。そしてゆっくりと剣を鞘から抜き、刃を壁に向ける。そしてゆっくりと、溝に剣を入れていく。そして、奥がつっかえてこれ以上入らないと感じたタイガは――
「後は頼んだぜ、ジュピター!」
自分の愛剣にありったけのガリルを流した。すると、剣が刺さった溝から光が放たれ、その壁に描かれていた壁画から両側の壁画の溝にまで光が伝う。
そしてタイガは掴んでいる剣を反時計回りに九〇度回転させる。すると『ガチャン』と音がして、神殿が大きく揺れ、ゆっくりとその扉が開かれる。
その頃、ミルミア達はタイガと連絡が取れないことに焦っていた。
「どうしようミルちゃん! 繋がらないよ!」
「ウチの方もダメ。もしかして、タイガの身に何かあったの?!」
ミルミアとリンナが慌てる中、目を覚ましたレーラが口を開く。
「落ち着きな二人共。もしかしたら、通話できないのは向こうも同じかもしれないだろ? タイガはあの石像を始末した後、必ずこっちに連絡するはずだ。少なくとも、タイガはそう言う奴だろ?」
レーラに改めて言われると、ミルミアとリンナが落ち着きを取り戻し、再びレーラの話を聞く。
「もし、タイガの方でも同じことになっていたら、こっちからもかけられない。恐らくこの神殿が通信魔法を妨げているんだ。だからあたい達は、今出来る事をやろう」
レーラがそう言って立ち上がろうとした時、神殿が突然揺れた。
「な、何だ!?」
「もしかして地震!?」
「取り敢えず、三人で固まりましょう!」
そう言って三人は真ん中に集まり、くっついて縮こまる。
行き止まりと反対方向を見ていたレーラが、ある事に気付く。
「ん? あの光何だ?」
その光は壁画を伝ってミルミア達を通り過ぎ、行き止まりの壁となっていた場所に集まる。そして、先程完成できなかった円の三分の一の弧が出来上がった。
「これって……」
「多分、タイガが何かしたんだわ!」
「よし! あたい達もさっきと同じ様に……ミルミア! そっちは頼んだぞ!」
そう言って、先程の位置に戻るレーラ。するとそのタイルは、先程よりも浮き出ていた。それはミルミアの所も同じようで、先程より浮き出ていた。
「「せーの!」」
二人は同時にタイルからガリルを流す。すると、先程と同じ道筋で光が中心に集まり、遂に光の円が完成出来た。
その瞬間、『ゴゴゴゴ……』という音が神殿の中に響き渡り、その扉は開いた。
タイガと女子組。新たな扉を開き、合流を目指して扉の向こうへと歩いて行った。




