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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第四章 厄災の神殿
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第五七話 村の救出と真実

「ムナウド様の姿をした――ニセモノだ」


 そう言って睨みを利かせるタイガ。睨まれている相手はジッと見た後、ニヤっと笑った。


「よく分かったな、貴様。本当はここで貴様を始末したいところだが、またの機会にしよう」

「――っ!」


 その時、もの凄い殺気がタイガを襲った。他の二人は、ビクともしない。

 目の前の男の姿が陽炎の様に揺らめきだし、消えそうな所をロートンが声を掛ける。


「待て! 親父は何処だ!」

「あいつなら神殿の中に眠っているだろう。まぁ、命の保証は無いがな! ハハハ!!」


 そう言って、ムナウドの姿をした男は消えていった。

 その場に佇むタイガとレーラとロートン。タイガはゆっくりと剣を納め、すぐさまミルミア達と連絡を取る。


「ミルミア、リンナ。そっちは無事か?」

『こっちは何とも無かったわ。タイガの方は?』


 タイガの応答に、特に変わった様子のないミルミアが返事する。


「こっちは逃げられた。村は目の前だから、俺達はそのまま行く。リンナ、お爺さん達を頼んだぞ」

『はい』


 タイガはそう言い残し、ムナウドの姿をした者と一緒に来た人達を起こし、レーラとロートンと共に村に入る。


「一先ず、皆さんを先に休ませましょう。レーラ、手伝ってくれ」

「分かった」


 レーラはそう言って、奥の方から声を掛けていく。


「ロートンさん、村人全員を集められるような施設はありますか?」

「ここから遠くない所に、集会場があります。そこなら、村人全員入れられるかと」

「では、皆さんをそこに集めましょう」


 タイガとロートンも別行動を取り、村人の労働を止めさせ、集会場へ連れていく。

 遅れてきたミルミア達にも話をして、手伝ってもらう。事は速やかに片せそうだ。

 だがそんな中、タイガだけ様子がおかしかった。手と脚を震わせていたのだ。まるで、何かに怯えているように。


 ――何だったんだよ、あの殺気……。あの魔王軍幹部でも可愛いと思えるほど凄まじい殺気だった。しかも、ロートンさんとレーラは感じず、俺だけだなんて……。俺、この世界で恨まれる様な事したか? それに、実態そのものが消えたという事は、村長の姿をした奴は人間じゃないと考えられる……。何者なんだ、奴は……


 震えている手と脚を落ち着かせるため、大きく深呼吸し、両頬を自らの手で叩いた。落ち着きを取り戻すと、再び村人の作業を止めさせ、集会場に集める。

 村は酷い状況に陥っていた。そしてタイガは、この光景を見た事がある。


「これ、俺がカリンを追っている時に迷ってきた……」


 タイガが言っているのは、この世界に来た日の事だった。連れ去られているカリンを追おうとした時、迷いに迷って辿り着いた事のある貧民街そのものだった。


 ――家はボロボロ。外で寝ている人が何人かいて、服も破けている。もしかしてあの時、俺にかかっていたロー・リロードは、俺に近々起こる未来を教えてくれたのか?


 そんな事を思っていると、タイガに連絡が入った。


『タイガさん。殆どの人を運び終えました』

「了解。こっちもあと数人だから、すぐに向かう」


 リンナにそう伝え、外で寝ている人を起こす。

 肩を貸した時、もの凄い軽さに驚いた。


 ――食事もまともに与えていなかったのか……


 何とか自分で歩ける人は歩いて貰い、厳しい人には肩を貸す。途中、ミルミアも来てタイガを手伝った。


「ありがとう。この人で最後だ」


 そして集会場に入り、全体を見る。中には狐の亜人や、猫の亜人もおり、赤子の事を抱えている母親は涙を流し、赤子の無事を知ると安堵した。

 それをみたタイガ達は、間に合って良かったと心から思う。


「ロートンさん、おおよそ何人ですか?」


 隣にいるロートンに、タイガは聞く。


「村の人数は二〇〇人程。ですが現在、一〇〇人弱しかいません」


 ――反逆した人は命を奪われたって言っていたからな……


 まずはこの状況をどうにかしようと、リンナとローランに聞く。


「リンナ、ロートンさん。今この場にいる村人全員を回復させられます?」

「私はオールヒールを使えば、村人達を回復させられますが、ガリルが足りるか……」

「なら、俺もオールヒールを使う事が出来るので、二人で回復させましょう」


 そう言ってリンナとロートンは村人を挟み、正反対に向き合って、魔法を唱えた。


「「オールヒール」」


 村人の頭上には光が差し、村人を回復させていく。痩せ細った人の肉付きが良くなり、顔色の悪かった人は次第に良くなっていく。そして全員、体力が完全に回復した。その瞬間、村人が歓喜の声を上げる。そして村人がロートンに話しかける。


「ロートン様、何故このような事を……」

「あの人に歯向かっては、命の保証が……」

「まさか、今より過酷な事を……」


 その声は震えており、村人達も震えていた。村人の脳裏に浮かんだのは、回復させて、また強制労働を強いられると思っていたのだ。


「それに関しまして、前にいる方からお話があります」


 ロートンはタイガを指さす。それを合図だと知ったタイガは、ミルミア、リンナ、レーラを連れ、村人達の前に行く。そして三人の前に出て、口を開いた。


「初めまして。ドルメサ王国の国王直轄の冒険者であるヤマト・タイガです。後ろにいるのはパーティーメンバーであるミルミア、リンナ、レーラです。宜しくお願いします」


 慣れない言い方をしながらそう言って、四人は頭を下げる。因みに、直轄を使った理由は、ただ単に紋章を持っているからである。


「それで、王族関係者の方が、何故この村に……」

「もしかして、村の異変を知って来てくれたのですか!?」

「いえ、今回はこの村の先にある神殿の調査を依頼され、神殿に向かう途中でロートンさん達と出会い、村の異変を知ったのです」


 神殿――そのワードで村人の顔色は急に悪くなった。


「だがロートン。あのクソはどうした? お前が無事という事は、殺ったのか?」

「その事についてですが、ここは皆様と確認しながら話していきたいのですが、よろしいでしょうか?」


 タイガが質問を質問で返し、先程ロートンに聞いた老人は、渋々頷いた。

 そしてタイガは、ロートンや高齢者達にした質問を村の皆にも聞いた。ムナウドとはどういう人物なのか。様子がおかしくなったのは何時からなのか。これらの話を聞いていくと、ロートンや高齢者が話していたのと同じ答えが返って来た。


「この中で、村長が行った神殿に行った人は?」


 タイガはそう聞くと、幸い誰も手を上げなかった。


「それでは、皆様にお話ししましょう。何故村長は突然変わったのか……」


 タイガが言うと、村人が全員静まり返った。何処かで、喉を鳴らす音がする。


「結論から申し上げますと、あの村長はニセモノでした。私達と対峙し、消えたのです。それは、こっちにいるレーラと、ロートンさんが見ています。そして、皆さんが知っている村長――ムナウド様はまだ、神殿にいます」


 それを聞いた時、一人の村人が立ち上がり、ムナウドを救おうと一声掛けた。だが、タイガはそれを阻止する。


「確かに、神殿に行けば村長に会える可能性はあります。だが、奴はこうも言っていました。命の保証はないと。この意味、分かりますか?」


 先程の男は黙り込んでしまい、静かに座った。


「自分達が聞いた内容は、まだ誰も足を踏み入れていないと情報を受けています。ですが、ムナウド様が入った為、情報が誤っているのです。恐らく、自分達に依頼をしたのは村長のニセモノかと思われます。ロートンさんに村の入り口付近の森に幻術の罠を掛け、その間に村へと連れ込み、皆さん同様強制労働をさせるつもりだったのでしょう」

「という事は、若様の幻術を解いたのか?」

「一体どうやって……」


 村人全員がざわつき始める。村最強の最上級魔法使い(アークウィザード)の幻術だからだろう。

 だが、タイガはその事は言わず、話を続けた。


「そして本題に入りましょう。あの神殿は何なのか……」


 タイガは一間開け、ゆっくりと口を開く。ここから先は、メンバーさえも知らない話。そして本当なら、夜に話そうとしていた話。


「あの神殿は別名、終焉の地と呼ばれています」

「終焉の地……?」


 後ろから声が聞こえた。パーティーメンバーの誰かだろう。


「終焉の地……あの神殿に入ってしまった者は二度と外の世界を見る事が出来ない。つまり、あの神殿に閉じ込められると言う意味です」

「つまり神殿に入ってしまえばそこでお終い……だから終焉の地、ですか」

「……はい」


 タイガは一つ、嘘をついた。入ってしまえば二度と出られず、気が付いたら命を落としていると言われる神殿。


 ――だが本当の終焉の意味は、神殿の中にあるイージェの箱だ。開けてしまえばその場で世界が滅びる。そう言う意味での終焉の地なんだ。


 タイガは村人に、今まで通り、もしくはそれ以上の生活を送ってほしい事と、誰一人、神殿に近寄らない様に言い、解散となった。

 タイガ達はロートンの家に招かれ、食事まで用意してくれた。


「この度は息子共々、村の皆を救って下さり、ありがとうございます」


 エプロン姿で、ロートンの母は言った。


「いえ、困った時はお互い様ですから。それで、そのお腹には……」

「はい。九ヶ月でございます」


 母の腹には、新たな生命が宿っていたのだ。


「こんな身体で働かせられない、俺はそう思って、俺しか知らない所に身を置かせておいたんです。大事に至らなくて良かった……」


 ロートンは心底安心し、母の腹を撫でる。

 因みに、ロートンには他に三人の兄妹がおり、その三人共王都の方にいるという。

 今晩はロートンの家で泊まる事になった。タイガ達は食事と入浴を済ませ、タイガ、ミルミアと机を挟んでレーラ、リンナ、そして例の箱を持って来てくれたロートンを含めた五人が集まって座っている。例の箱は机の上に置かれていた。


「さて、約束の通り、お前らに話す。俺が何に悩んでいたのか。そして、ロートンさんにも聞いて貰おうと思います。良いですか?」


 全員が頷いた。


「よし。まず確認ですが、ロートンさん。あれからこの箱は誰も開けていませんね?」

「はい。誰も」


 それを聞いたタイガは少し安心した。


「今回、行方不明になる前のムナウド様と、行方不明になって七日前に帰って来たムナウド様は別人だった。五日前、つまり急変する前のムナウド様は演技だった。帰って初日で態度が変わると怪しまれるから。だから二日間、いつも通りの村長を演じた」

「では、タイガ様が村に着く前に言った気になった事って……」

「はい。その村長の正体ですよ。俺はあの時点で、神殿の事は知っていましたから、表立っている村長はどんな状態だったのか気になっていたんです。結果は、別人その者でしたが」


 タイガは向かいに座っているロートンを見て、話した。


「でもタイガ。それだけだったらウチ達に隠す必要ないじゃない」

「そうだぞ。そんなの怖くもなんともない」


 隣に座っているミルミアと、向かいに座っているレーラが言ってくる。竜車の時の話だろう。


「そんなの分かってるよ。それ()()ならとっくに話してるさ」

「という事は、他にあるんですね?」


 リンナの言葉に、タイガはゆっくり頷く。

 タイガはマグナラを少し操作し、リンナに言った。


「リンナ。お前のマグナラに情報を送った。そっちは三人で見てくれ。ミルミアは俺のを」

「う、うん……」


 ミルミアは嬉しそうに、そして照れながらタイガにゆっくり寄り添う。リンナはそれを面白くなさそうに見ながら、自身のマグナラを起動させ、タイガから送られた情報をレーラとロートンに見せる。


「昨日、カリンと話し終わった時、カリンがペルと話していたんだ。俺に隠していた、本当の神殿の恐怖を。その時、俺は調べたんだが、これがその結果だ」


 タイガは操作して、神殿のページを見せる。


「俺は村の人達に一つ、嘘をついた。二度と出られないから『終焉の地』と呼ばれるんじゃない」


 そしてあのページを、全員に見せる。


「イージェの箱。その箱を開ければ、この世界が消滅する。その箱が存在するのは俺達がこれから向かう神殿。だから終焉の地」


 全員がその記事を読み、驚愕した。タイガ以外、目の前に置かれている箱がそれではないかと身を構えた。


「あくまで可能性の一つとして、だ。だが、これだけは言える。早く何とかしないと、この世界は必ず――」


 タイガは小さく、弱弱しい声で言った。


「……滅びる」


 それを聞いた瞬間、その場の時間の流れが止まったかのように思えた。


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