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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第四章 厄災の神殿
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第五六話 指なし手袋とニセモノ

「俺、半分くらい使ってないんだけど」


 タイガのその言葉に、その場にいる全員が固まった。


「え、タイガ? どういう事?」


 ミルミアが恐る恐る聞く。だが、帰って来た答えは変わらない。


「だから、俺の魔法の中でこいつを使っているのは三つしかないんだよ」


 タイガはそう言って申鎮の剣を見せる。

 タイガはロートンに、自分が使える魔法を教えると、眉を顰めて言った。


「タイガ様。そのような魔法の名前は聞いた事ないのですが……」

「え――っ」


 タイガはロートンの言葉に、言葉を詰まらせた。今目の前で、自分の魔法の存在を否定されたからだ。だが、それと同時に、以前から疑問に思っていた事が頭を過った。


 ――確かに、リンナから無属性魔法を聞いた時、不思議に思った。リンナやレーラの魔法は英語なのに、何で俺のだけ意味の分からない言葉なんだ……?


 考えれば考えるほど、タイガは難しい顔になっていく。それを見かねたレーラは、タイガにビンタした。


「タイガ! 今はそれどころじゃないだろ! 今は一刻も早く村人を助けねぇと!」


 レーラのビンタで目を覚ましたタイガはフッと笑い――


「先を急ごう!」


 高齢者とミルミアとレーラは車の中に、リンナは操縦席に、タイガとロートンは先頭を歩く。


 ――とは言っても、この痛さは尋常じゃない。下手をすれば戦闘になる可能性もある……。正直、今の手でこいつを握れるか心配だぞ……


 歩きながら自身の両手を見るタイガ。隣にいるロートンは懐から何かを出し、タイガに差し出す。


「タイガ様。これをお塗下さい」


 出してきたのは瓶に入っているクリームだった。


「最初は痛いかもしれませんが、(じき)にその痛みは引くでしょう。騙されたと思って使ってみて下さい」


 そう言ってロートンは瓶の蓋を開ける。ロートンに言われ、タイガはそのクリームを手に取り、手のひらに満遍なく塗る。

 最初は苦痛の顔をしていたタイガだが、暫くすると表情が和らいできた。

 そして右手を開いたり握ったりを繰り返している。


「痛く、なくなった……」

「このクリームには治癒魔法の付加があります。リンナ様のオールヒールとは違い、神経痛などにも効くんです。恐らくタイガ様の痛みの原因は、魔法による神経痛でしょう。それに加えてあかぎれも出来ているので、痛くても仕方ありません」


 ロートンは蓋を閉じるとクリームを懐に入れ、別の物を出してきた。


「これは?」

「見た目はただの指無し手袋ですが、この手袋には先程言った制御装置の役割も果たします。これを着けていれば、魔法を手から出すことも容易い筈です。試してみては?」


 ロートンから手袋を受け取る。手袋はゴムで出来ており、手に着けると、馴染んで違和感はなかった。

 タイガは近くにあった大きな岩に向かう。みんなはそれを見守るが、車の中にいるミルミアとレーラは何が起きているのか分からない状態だった。

 タイガは一呼吸おいて、魔法を唱えた。


「クリアガービル!」


 右手に雷を纏い、岩を突く。すると岩は粉々になり、跡形も無くなった。

 そしてタイガは、先程雷を纏った右手を見る。


「痛みを感じない……」

「どうやら、成功したみたいですね」


 近くにロートンやミルミア、リンナとレーラが来る。高齢者達は車の中で待機だ。


「凄いな! タイガ。お前そんな事も出来んのか!」

「本当に身体から出しているわね……」

「信じられないです……」


 レーラは興奮し、ミルミアとリンナは唖然としていた。

 そして再び竜車を動かす。


「それをタイガ様に差し上げます」

「どうしてですか?」


 歩き始めると、タイガが手袋を外す前にロートンが言った。


「もしかすると、この先戦闘が待っているかと。その手だと何も出来ないのではないかとお思いだと思ったので……。それに、先程のお詫びも兼ねて」


 ロートン自身も分かっていた。戦いは免れないと。一番力のあるタイガがこの状態では戦力的にも厳しいため、先程の不埒な行動の謝罪としてこの手袋を上げた。

 タイガはロートンの言葉に甘えて、手袋を貰う事にした。


「それにしても、ロートン様は何者なんですか? 先程の幻術に治癒魔法の付加があるクリーム、そしてこの手袋。並みの人じゃ持ってませんよ」


 タイガに聞かれると、ロートンはポケットから赤色のカードを出してきた。Aランクのギルドカードである。


「様はお止めください、タイガ様。俺も冒険者なんです。職業は最上級魔法使い(アークウィザード)です」


 ならタイガも様付けを止めさせようと思っていたが、話を聞いてくれそうにないので、言うのを止めた。

 因みに最上級魔法使いとは、リンナの魔女(ウィッチ)魔法使い(ウィザード)の魔法使い界で一番上の役職である。


「そうだったんですね。だから……」

「その手袋も、魔法使いの時から使っていたのですが、今はこいつがありますから」


 そう言って出してきたのは、先が尖っている木の棒だった。この木の棒に制御装置が付いている為、ここから魔法を繰り出していると言う。

 ガモ村にも小さいギルドが存在していたが、今回の村の騒動で無くなってしまったらしい。


「着きました。この村です」


 ロートンが足を止め、目の前を指さす。その光景は声を失う程だった。

 服が破けており、フラフラの状態で畑を耕す人や、赤子を背中に背負いながら木材を運ぶ人。中には体内に新たな命を宿している人もいた。


「こいつはやばい……」


 そう呟いたタイガは、車の中のミルミアとレーラにマグナラで繋ぐ。


「お前ら、紋章は付けているな?」

『ウチは大丈夫よ』

『あたいもだ』


 リンナも確認すると、コクリと頷く。


「ここから先は気を抜くな。最悪戦闘になる。いつでも行けるよう準備しておけ」

『『『了解!!』』』


 するとその時、数本の矢が飛んできた。

 タイガはすぐさま申鎮の剣を抜き、全て防ぐ。リンナに遠くへ避難するように言って、竜車の方はミルミアとリンナに任せた。レーラはタイガの方に参戦である。

 奥から筋肉質の男が先頭を歩いて、意識が朦朧として様々な武器を持っている男一〇人を連れてやって来た。


「あの男が、俺の親父であり村長のムナウドです……」


 タイガは視線を変えず、耳だけ傾ける。いつでも行ける様に剣を構える。レーラもリボルバーを出して、備えていた。


「ロートン。どういう事だ? 何故お前が村外の人間を連れている。見た所、幻術も解けているようだが……」


 野太い声でロートンに話しかける。それだけでなく、とてつもない殺気も放っていた。


「俺の命令を無視するなんて、良い度胸だな……。お前ら、殺れ」


 セリウドの声で、男一〇人がそれぞれ動き出す。

 四人その場から矢を放ち、三人が魔法を唱える。他の三人は槍や剣を持っている為、タイガ達に接近して来た。


「レーラ! お前は後方で矢を放っている人を頼む! ロートンさんは魔法使いを、俺は目の前の三人をやります!」

「おう!」

「分かりました!」


 それぞれの役割を与えたタイガは速攻で向かってくる三人に駆け寄る。

 右の槍を持った男が向かってくるタイガを刺しに来る。タイガは身体を時計回りで回転しそれを避け、槍の持った男の所へ申鎮の剣で斬りにかかる。だが真ん中にいたサーベルを持った男が盾となり、サーベルでタイガの攻撃を阻止した。そして左端にいた薙刀(なぎなた)を持った男が、タイガの首目掛けて薙刀で斬ろうとする。タイガはギリギリの所でしゃがみ、薙刀を持っている男の脚を引っ掛けて転ばせた。

 だが、向こうの攻撃は終わらない。槍を持った男はまたタイガを後ろから刺しにかかる。


「ルカ!」


 タイガは魔法を唱え、男達を吹き飛ばす。直ぐに男達の背後に周り、起きてきた所を首に手刀を決め、気絶させる。


「本当に気絶するとは思わなかった。やってみるもんだな……それより」


 タイガはロートンとレーラの方を見る。どちらも同じタイミングで終えたようだ。


「さてと……ムナウド様。貴方を拘束させていただきます」

「ふん。貴様如きに捕まる俺ではない。それに、俺はムナウドでもない」


 ――やっぱりな……俺が思った通りだ。


 タイガが移動中、高齢者達から聞いた時の話と、事前に調べた神殿について考えていた事が繋がったと確信した。


「どういう事だ? タイガ」

「詳しい事は後で話す。今、目の前にいるのは、ロートンさんの父親でも、村長でもありません。あそこにいるのは――」


 タイガがムナウドを睨み、申鎮の剣を構え、戦闘態勢に入った。


「ムナウド様の姿をした――ニセモノだ」


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