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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第四章 厄災の神殿
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第五五話 村の存亡と制御装置

『確か……神殿を見つけたと言っていた時だったかの』


 一人の高齢者がそう言った。タイガは足を止めてしまい、目の前で聞いていたミルミアとレーラ、御者席にいるリンナは目を見開く。


『た、タイガ……』


 不安になったミルミアは、タイガにマグナラで声を掛ける。


「取り敢えず、詳しく聞かせてくれ。質問の内容はお前達に任せる」


 そして再び、タイガは歩き出す。声を出せば目の前の男にバレてしまう為、声に出さず頭の中で会話した。


『そ、その時の事を詳しく教えて貰っても良いですか?』


 ミルミアがゆっくりと口を開き、答えた老人に質問する。


『ワシ達の村、ガモ村の村長であるムナウド様は自由気ままな御方で、暇があれば村を離れて放浪していてのぉ。それでも、夕刻には必ず帰っておった』


 その後、別の老人が続けて話す。


『一〇日前の出来事じゃ。ムナウド様が帰って来んかった。村の皆は心配し、捜索もした。だが、結局は見つからんかった……』

『じゃがその三日後、つまり七日前に村長が帰って来たのじゃ。何か箱を持って』

『箱、ですか?』


 ミルミアの言葉に、一人の老人は頷く。


『その箱は何処からだ?』

『村長が言うには、歩いていたら神殿を発見して、中に入ると奥にあったらしい』


 その話を聞いて、タイガは固まった。昨日のセリウドの言葉をもう一度思い出す。


 ――待て待て。また矛盾が発生したぞ。セリウドさんは神殿が発見されて、()()足を踏み入れてないって言ってたぞ。もし、神殿を見つけたと話を流したのが村長だったら……


 そして、もの凄い鳥肌が立った。

 何故なら、一つの恐怖がタイガを襲ったからだ。


 ――今朝の夢、場所は明確に出なかったが、箱を開けたのはミルミア。そして災いがこの世界を壊滅へと追いやった。俺はてっきり神殿で開けたかと思った。でも今の話を聞いて、もし持ち帰った箱がイージェの箱だったら……。そしてあの神殿は終焉の地。その村長が神殿に足を踏み入れてしまった。一度入れば、二度と光を見る事は出来ない。それなら、お爺さん達が言っている()()()()()村長は……!


 そう思ったタイガは、男に早く案内するように言おうとするが、また新たな疑惑が生まれた。


 ――待て。なら何故、高齢者だけを働かせているんだ? 普通、女子供関係無しに働かせるだろう。それなのに、若者は何もしていない……。まて、そもそも俺の仮説が間違っているとしたら? お爺さんは老若男女問わず、関係無しに平等に接してきた村長の態度が急変したって言ってたよな……。その言葉の意味がもし、老若男女関係無しに、平等に村人()()強制労働させる程の態度に変わっていたら?


 タイガは思い出す。先程目の前にいる男は若様と呼ばれていた事を。

 タイガは至急ミルミアに声を繋ぎ、一つの質問を聞くよう言った。


『あの、前方を歩いている男なのですが、あの方はどういった御方で?』

『あの人は村長の息子のロートン様だよ』


 ――だから若様か……。待て。じゃあさっきのお爺さんが言ってた微妙な立ち位置って……


 タイガはそう思い、ロートンに話しかける。


「ロートン様」

「ど、どうして俺の名前を?!」


 いきなり自分の名前を呼ばれた事に驚いていたが、タイガはロートンの質問を無視して話した。


「貴方の父、つまり村長であるムナウド様に変わったご様子はありますか?」

「親父? いや、特にないけど……」


 タイガは知っている。ロートンが嘘をついている事に。


「正直に話してください。俺は知っていますよ。一〇日前に村長が行方不明になり、七日前に箱を抱えて帰ってきた村長の態度が変わったって事ぐらい」


 それを聞くと、ロートンは足を止め、顔が真っ青になり、汗がもの凄く噴き出て震えていた。その様子を見て、タイガの先程の考えは的中した。


「貴方も、強制労働をさせられているのですね」


 ローランはゆっくりと頷く。

 タイガは竜車も止め、ミルミア、リンナ、レーラを呼び、近くの木陰でローランを休ませる。車の中からも高齢者達が出てきて、彼を見守る。

 そして少し顔色が落ち着いたと見えたタイガは話を切り出した。


「事の発端を、話して貰えませんか?」

「分かった」


 ローランはゆっくりと口を開き、ガモ村での出来事を話した。


「先程、貴方が言った通りです。一〇日前に親父がいなくなり、心配になった村人は近辺を探しますが結局は見つかりませんでした。そして親父が帰って来たのは七日前。ボロボロになりながら箱を抱えて帰って来たんです」


 ここまでは、先程マグナラを通して聞いた通りだ。ここから、彼しか知らない話に入る。


「帰って来た親父は箱を開けることもなく普通に過ごしていました。ですが五日前、親父の態度が急変したんです」

「五日前?」

「はい。親父はいきなり村人全員に新しい村を作れと言ったんです。それも、女子供関係無しに。親父は村人全員に優しい人でした。なのに今度は村人全員に厳しくなったんです。少しでも休んでいる奴を見つけたら罰を与え、病気にかかっている奴でも働かせ、生まれた赤子には水のみ。酷く豹変していました」


 ここで、タイガの先程の仮定の解が出た。強制労働させられているのは村人全員。自分は何もせず、ただ罰を与えるだけ。そんなムナウドに、タイガは腹が立ってきた。


「待てよ。村人は反逆しなかったのか?」


 話を聞いていたレーラが、ロートンに聞く。だが、答えたのはロートンではなく、高齢者の中では一番若い老人だった。


「勿論したさ。だが、その瞬間反逆した物が倒れ始め、気付いたら死んでいた……」


 老人は拳を握り、近くの木を殴った。そして、涙を流した。


「俺も反逆していましたが、ある条件を押し付けられ、見逃してくれました」

「条件?」


 ロートンの条件に、全員が反応した。


「外から来た奴に幻術を掛け、この村で働かせるか、殺せ。そう言われて俺は先程の道に幻術トラップを掛けたんです。そして、貴方達を村に連れて行こうとした。ですが幻術は解かれ、王族関係者と知った時、自分の人生は終わったと思ったんです。だから、無理矢理にでも連れて行こうとしました。先程は申し訳ありません」

「いえ、事情が分かったので大丈夫です。それで、今の村の状況は?」


 頭を下げて謝って来たロートンに顔を上げさせ、村の状況を聞く。返って来た返事は、残酷なものだった。


「村人の半数がこの世を去り、村が滅ぶ寸前まで来ております」

「すぐさま、村長に会いに行こう。ロートン様、何があろうと俺達は全力で貴方達をお守りします。俺達は王族関係者である前に、冒険者です。今回はこの先にある神殿の調査に来たので、調べればもしかしたら村長も救えるかもしれません」

「どうしてそこまで……」

「目の前で困っている人がいるのに、見て見ぬふりをするのが大嫌いなんですよ。それに気になっている事もあるので」


 タイガの言葉に、ロートンは涙ぐむ。そして再び頭を下げて、声を震わせて言った。


「ありがとう……ございます……」


 タイガは微笑み、腰に手を掛けようとした。だが、タイガは忘れていた。自分の手が今、悲惨な目に遭っている事に。


「痛っ!」

「どうかしましたか?」


 いきなり叫んだタイガに、ロートンはタイガを見る。

 タイガは事の経緯を説明した。すると、パーティーと全員含め、驚愕した。


「た、タイガ! アンタバカなの!?」

「素手で魔法を使うなんて、無理に決まってます!」


 ――いや、リンナだって素手で出しているじゃん……


 いきなりバカと言ってきたミルミアと、信じられないと言った表情で見て言うリンナに、タイガはたじろぐ。そしてロートンが話を始める。


「タイガ様は見た所魔剣士(ミスティックナイト)ですね。タイガ様の属性は?」

「闇以外、全部使えますが」

「成程。ですがタイガさんはこう思っていらっしゃいますね? リンナ様も何も持たずに魔法を使っているのではないか、と」


 ロートンの言葉に、タイガはびくりとする。


「タイガさん。私は一度も素手から魔法を出していませんよ?」

「え? じゃあどこから……」

「これです」


 そう言ってリンナが出したのは、頭が直径五センチメートル程の水晶体が付いているステッキだった。


「これで私は魔法を使ってましたよ?」

「え、マジ?」

「タイガさん。私の事を見てくれなかったのですね……」


 そう言って涙を流すリンナ。タイガの事が好きな彼女にとって、かなりショックな出来事だった。


「ごめんリンナ。俺が悪かった」

「罰として、この依頼が終わったらデートして下さい……」


 誰にも聞こえない様に、タイガの耳元で言うリンナ。だが、タイガは思ってしまった。


 ――それ、フラグじゃね?


「んん!」


 その光景を見るに見かねたミルミアは、ワザとらしく咳をして二人を話した。


「それで話を戻しましょう。リンナの事は分かりました。ですが、俺は何回も手から魔法を出してますよ?」

「先程の風魔法ですね?」


 ロートンの言葉にタイガは頷く。実際、殺されかけた時に使っている為、全員がその姿を見ている。


「実際の所、風魔法の種類は少ないです。先程の様に風を発生させるだけなら何ら問題はありません。ですが、攻撃魔法となると勝手が違います。攻撃魔法を繰り出すとき、先程のリンナ様のような『制御装置』がないと、ガリルが安定せずに暴走します。その結果が、タイガ様の手でしょう」

「制御装置?」

「はい。恐らくタイガ様の場合、その剣でしょう」


 ロートンはタイガの腰に付いている申鎮の剣を指さす。


「タイガ様の魔法、今までそれを使ってきませんでしたか?」


 タイガは自分が今使える全ての魔法を思い出す。


 火を纏い、飛ばすことの出来るペトラ・ビースト。

 風を発生させるルカ。

 剣から風波を発生させて斬るソード・ルカ。

 剣に雷を纏うクリアガービル。

 土の壁を作る事が出来るゴート。

 指先から水弾を発射させるミストレアス。

 ミストレアスに雷を加えたクリアミスト。

 状態異常を回復させるエントレス。


 全てを思い出した時、タイガは思った。


「ねぇ、半分くらい剣使ってないんだけど」

「「「――え?」」」


 その場にいる全員が固まった。


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