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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第四章 厄災の神殿
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第五二話 理由と矛盾

 翌日――。


「忘れ物は御座いませんか?」


 セリウドから言われた神殿に行くため、タイガ一行は竜車に荷物を積んでいた。


「大丈夫だ。必要最低限の物はしっかり者のリンナが揃えてくれたから、忘れ物は無い筈だ」

「た、タイガさん!」


 いきなり言われたリンナは、顔を紅くした。それにミルミアが反応する。


「ちょっとタイガ! ウチは!?」

「お前もありがとな。竜車予約してくれて」


 ミルミアは、まさか自分も褒められるとは思わなかったのか、顔を紅くした。

 そんな中、カリンは一人浮かない顔をしていた。理由はタイガに隠し事をしてしまったからだ。


「カリン」

「は、はい!」


 いきなり呼ばれ、声を裏返して返事する。

 呼んだタイガは何も言わず、ただカリンの目をじっと見つめている。


「どどど、どうしたのですか?」

「……いや、何でもない。じゃあ、行ってくる」


 タイガはくるりと後ろを向き、竜車の方に歩いて行った。


「タイガ!」


 タイガは振り向かず、その場に立ち止まった。


「気を付けて……下さいね……」


 振り絞って声を出す。その声は自分でも震えていると分かる。


「――あぁ」


 その言葉だけを言い残し、タイガは客車に乗る。


「ペル、アイル、ルー、ウールさん。カリンを頼む」

「おいらはカリンちゃんの使い魔だよ? 当たり前じゃん」

「タイガも無理するなよ」

「お気をつけて」


 それぞれの言葉を受け取り、タイガ達は竜車を発進させた。

 カリンは竜車を見送り、竜車が完全に見えなくなると、直ぐに部屋に戻って行った。ペルは後を追い、他のみんなは仕事に戻った。

 ペルが部屋に入ると、カリンがベッドの上でうつ伏せになっていた。


「カリンちゃん……」

「ペル。あの時のタイガの目、覚えてますか?」


 カリンは、見つめられていた時のタイガの顔を思い出していた。


「あの目は、全て知っている人の目でした。タイガは分かっているのでしょう。あの神殿が、どれ程恐ろしいのかを……」


 その時だった。


『カリン』

「た、タイガ!?」


 カリンの脳内に、タイガの声が聞こえた。つまり、マグナラで連絡してきたのだ。


「ど、どうしましたか?」

『俺の言いたい事、分かるか?』


 カリンの心臓の音は激しかった。破裂しそうな勢いで動いている。


『何で、本当の事を言わなかった』


 カリンは想像していた。タイガは今、どんな表情で話しているのだろう、と。どんな気持ちで話しているのだろう、と。


××××××××××××××××××××××××××××××××


 数分前――。

 運転するリンナは別として、中ではミルミアとレーラがはしゃいでいた。


「財宝って、どんなのがあるんだろうな!」

「ウチ、早く行きたい!」


 だが、一人だけ、そのテンションに乗っからず、浮かない顔をしている人物がいた。

 そう、タイガである。

 タイガは一人目を瞑り、脚と腕を組む。


「どうしたんだ? タイガ」

「何か、今朝から機嫌が悪そうだけど……」


 ミルミアとレーラは、それを不思議そうに見る。タイガは、見られている事を気にしていない。


 ――カリンの奴、どうして黙っていたんだよ。


 タイガは、これから行く神殿の恐ろしさを昨日の時点で知っていた。

 全てはタイガが神殿に調査に行く話から始まった。タイガがカリンに調査に行くと言った途端、僅かであったが目が見開いた。それを見逃さなかったタイガだが、あえて触れずに話し続けた。


 ――そして何故『箱』というワードが出たのか。誰にも知られていないなら、そんなものがあるかも分からない。それに、箱以外にも罠があるかもしれない。だけどアイツは『箱系』しか言わなかった。


 カリンと話していくうちに、疑問に思って行くタイガ。そして、それを知ったのは部屋を出た後だった。


 ――聞いといて良かったぜ。別名『終焉の地』と『イージェの箱』ね……


 タイガはそれを聞いた時、すぐさま部屋に戻り、マグナラで調べた。すると、とんでもない結果が出たのだ。


 ――ドルメサに(ひそ)む神殿。別名『終焉の地』。その神殿に入ってしまえばもうおしまい。二度と光を見ることが出来ない。そして気付かぬうちに命を落とす。そして『イージェの箱』。こいつは俺の世界で言う『パンドラの箱』だ。その箱を開けてしまえば、この世界が滅びる。そして確信を得たのは今朝だ。久々だよ……


 タイガは目を覚ましたと同時に、神殿の恐ろしさを知ってしまったのだ。何故なら見てしまったから。


 ――カリンの死を見たのは……


 だから知りたかった。カリンが何故、本当の事を言わなかったのか。だから、寝ているふりをしてこっそりマグナラにガリルを流し、カリンに連絡したのだ。


「何で、本当の事を言わなかった」

『……』


 だが、カリンは何も言ってこない。それに痺れを切らしたタイガは、いつもとは違う口調で話してしまう。


「俺達が死んで良いのか? 何も知らないミルミア達が死んでも良いんだな?」

『そんな訳――』


 いきなりの出来事に、カリンは焦って答える。だが、タイガは止まらなかった。


「だってそうだろ? 自分自身は危険な場所だと知っているにも関わらず、俺に教えてくれなかった。そして現地の俺の判断に任せ、箱の物は触るなと言った。何で箱の物は危険だって決めつけるんだ? 本当は知ってんだろ? その箱の中身を。神殿は別名『終焉の地』。箱の名前は『イージェの箱』。俺が部屋に出た途端、そう呟いたよな。悪いが俺は聞いていたぞ。明らかにお前の様子がおかしかったからな」


 すると、すすり泣く声が聞こえてくる。カリンが泣き始めたのだ。タイガは、先程とは優しい声で、カリンに話しかける。


「なぁ、カリン」

『……はい』

「急に強い口調になってごめん。お前にそんな気持ちがないのも分かってる。伊達に長く過ごしてないからな。だから教えてくれ。どうして本当の事を言わなかったのか」


 そしてカリンは嗚咽しながら、話してくれた。


『本当は言いたかったんです。欲を言えば神殿に行ってほしくなかった。でも、タイガなら何とかしてくれると思ったんです。根拠はありません。今まで魔王軍の手下と闘って、私達を救ってくれて……。そんな理由ですが、タイガなら解決できると、そう思ったんです……』

「そっか……」


 ――カリンは俺の事を買い被りすぎだ。そんな凄い男ではない。でも、アイツにとって俺は命の恩人。


「カリン。話は分かった。だけど、今度は本当の事を話してくれ。俺も人間だ。対処しきれない時だってある。だから包み隠さず話してくれ」

『タイガ……』


 お互い表情は見えないが、タイガは歯を見せて笑い、カリンは大粒の涙を流しているだろう。


「お前が心底信頼している男が、何とかしてやるよ!」

『ありがとう……ございます……』


 そして通信を切り、目を開ける。

 目を開けると、目と鼻の先にミルミアとレーラの顔が見えてタイガはのけ反った。


「何だよ、人の顔をじっと見て」

「いや、今朝と比べて優しい顔になったなぁと思って」

「タイガ、もの凄く怖かったんだぜ?」

「そうか。それは済まなかったな」


 タイガが周りを見ると、既に王都から出ており、木々に囲まれた道を走っていた。

 時刻は一〇時半。王宮を出発してから一時間も経っていた。


「リンナ。ペースの方はどうだ?」

「はい。順調ですね。ですが、一回休憩を挟んだ方が良いかもしれません」


 タイガは竜の方を見ると、少々疲れが見えているのが分かった。すると目の前に橋が見え、その下には水が流れていた。タイガはここで休憩を取ると言って、橋を渡ったらすぐに端に寄せて竜車を止めた。

 川の水は透き通っていて、魚も泳いでいる程綺麗だった。一旦、車を竜から取り外して、竜は川の水を飲む。ミルミア達も手で水をすくい、飲む。


「んー! 冷たくて美味しい!」

「ホントだね。何て言うか、落ち着く」

「少し水筒に入れていこう!」


 ミルミア、リンナ、レーラが水を飲みながら笑顔で話している。端で木に寄り掛かって座っているタイガはそれを微笑ましく見ていた。その隣で、竜が寝ている。


 ――神殿の事は、もう少し後にするか。この穏やかな時間を壊すわけにはいかないからな……。それにしても……終焉の地、ねぇ……


 タイガは一つ気になっている事があった。それは、昨日の会話で生み出されたものだった。


 ――確かセリウドさんの話だと、森林の奥深くに神殿が発見されて、誰も足を運んでいない。そして噂で財宝があると聞いている。だけどセリウドさんのあの言い方だと、今まで神殿の存在を知らなかった。なのに財宝の噂は知っている……。明らかに矛盾してないか?


「あああ! 訳が分かんなくなってきた!!」


 タイガは頭をかきむしる。急に大声を上げた事により、ミルミア、リンナ、レーラが驚いてタイガの方を見る。そして近くで寝ている竜は目を覚ましてしまい、飛び上がった。


「ど、どうしたんですか? タイガさん」

「お前、今日おかしいぞ?」

「悪い物でも食べた?」


 リンナ達はタイガの下に駆け寄り、心配する。


「悪い、考え事をしていたら取り乱した。お前もごめんな」


 タイガは竜にも謝り、優しく頭を撫でる。竜は気持ちよさそうに目を細める。


「タイガ。何かあったらウチ達にちゃんと話しなさいよ!」

「ミルちゃんの言う通りです。タイガさんは一人で抱え込みますからね」


 ミルミアは腰に手を当て、タイガに自身の顔を近付けて話し、リンナは胸の前に手を組んで心配そうな目で見る。


「あぁ。分かってるよ。さて、もう行こう」


 タイガは立ち上がり、身体を伸ばして解す。竜に再び車を付けてリンナは御者(ぎょしゃ)席に、タイガ達は客車に乗って、竜車は走り出した。


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