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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第三章 コナッチ王国
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第四九話 婚約と旅人

 翌朝、タイガ達が王宮を出発する準備が出来た。全員が玄関に集まり、タイガ達の旅立ちを見送る。だが、中々出発できない。原因は――


「タイガと離れたくない」


 ミンティークがタイガにずっと抱き着いているのだ。

 実は朝食の時、ミンティークはタイガを見つけると、すぐさまタイガの所に走って抱き着いた。イグニルやメービル、ラモーネは驚き、ミルミアとカリンについては口を開けて固まっていた。二人は昨夜の出来事を知らない為、固まるのも無理はない。


「王女様。昨日言った通り、みんなに言わなきゃいけない事がありますよね?」

「うん……」


 タイガの言葉に頷き、一度タイガから離れる。


「お父様、お母様、お兄様、そしてカリンお姉ちゃん。昨日はごめんなさい」


 ミンティークはみんなに頭を下げて謝罪した。みんなは笑顔でミンティークを許し、王女家出事件は幕を閉じた。

 だが、ここで新たな問題が起きたのである。ミンティークがタイガから離れようとしないのだ。朝食の時もタイガの膝の上で食べた。イグニルは行儀が悪いと注意したが、何故かメービルが止めた。タイガの上に座っているミンティークの顔は幸せそうだった。

 そして出発の時、現在に至る。


「ミンティーク、タイガ君達が帰れないじゃないか。離れなさい」

「嫌だ」


 カリン、ミルミア、リンナはタイガの顔を見る。タイガも三人と目が合い、「はぁ」とため息をついた後、抱き着いているミンティークを撫でる。


「王女様。一回離れて貰って良いですか? 少しお話したいので」


 タイガが撫でながら言うと、抱き着いていた手を緩める。そしてタイガはミンティークと同じ目線で話をする。


「王女様。俺も王女様と別れるのは寂しいです。ですが、二度と会えないわけじゃありません。会おうと思えばまた会えます」

「嫌だ……タイガと離れるの嫌だもん……」


 ミンティークは俯き、涙目になってしまう。


「王女様。昨日の話、覚えていますか?」

「昨日……?」


 タイガに言われ、ミンティークは思い出す。魔獣に襲われた後の話を。


「別れるのは確かに寂しいし、悲しいです。ですがそれらを乗り越え、再会した時の喜びの方がとても大きいものなんです。先日、王女様がカリンに会った時のように」


 タイガはそっと包み込むように、ミンティークを抱き締める。


「一時のお別れです。必ず会いに、また来ます。その時は、最高の笑顔を見せて下さい」


 ミンティークもタイガの事を抱き締め、「分かった」と言った。それを見た周りの人は顔を緩ませ、一息つく。


「タイガ。私から何個か良い?」

「はい。なんでしょう」

「まず、敬語禁止。それから王女様じゃなくて『ミンティーク』って呼んで」

「分かった、ミンティーク」


 タイガは言われた通り敬語を止め、名前で呼ぶ。するとミンティークは笑う。


「それから、時々連絡していい?」

「全然良いよ」


 タイガのマグナラには既にミンティークのイグナートが登録されているため、連絡しようとすればいくらでも出来る。それは逆も同じ。


「それから――」


 その光景を見た途端、周りの人が固まった。ミンティークは顔を紅め、タイガは固まっている。


「いつか、私をお嫁さんにしてね!」


 そう言ってミンティークは王宮の中に入っていった。

 タイガは左頬にそっと触れる。まだ()()の感触が残っていた。


「タイガさん」


 メービルの声で我に戻ったタイガ。目の前にいるメービルを見上げる。


「ミンティークの事、宜しくお願いしますね」


 とても綺麗な笑顔でタイガに言い、その場を去って行った。タイガはゆっくりと立ち上がる。


「いやぁタイガ君! 婚約おめでとう!!」

「「「「ええええええええええええ!!!!!」」」」


 タイガ一行の叫び声が、青空いっぱいに響いた。


「レーラの事、宜しくお願いします」

「はい」


 王宮を後にしたタイガ達はローランに寄り、レーラを迎えに行った。


「レーラ、カリン様達に迷惑を掛けない様にね」

「あぁ! 行ってくるよ、父ちゃん、母ちゃん!」


 レーラの両親の目には涙が浮かんでいた。レーラも二人に別れのハグを交わし、タイガ達の馬車に乗っていった。タイガ達も挨拶し、コナッチ王国の王都を出た。


「いやぁ。それにしてもタイガ殿がご婚約とは」

「モナローゼさん。からかわないでください……」


 タイガはげんなりしていた。いきなりミンティークが頬にキスをしてきたかと思えば、求婚までしてくる始末。イグニル達も満更でもない様子でタイガ達を見送った。


「タイガ、お前結婚するのか?」

「ごめん。今その話しないで」


 何も知らないレーラが興味津々な目でタイガを見る。だがタイガは答えようとしない。からかわれる事を知っているからだ。

 その時、タイガが何かを思い出したようにレーラに聞く。


「そういえばレーラ。お前って無属性魔法の持ち主だよな」

「そうだけど?」

「タイガ。何処で無属性を?」


 無属性の話をした時に、カリンはタイガを驚いた表情で見る。


「昨日、リンナに聞いたんだ。レーラの使ったロードとサイレント、あれはどの属性か。っていうか、何で教えてくれなかったんだよ」


 そう言ってカリンをジト目で見る。カリンはスッと目を逸らす。


 ――こいつ、忘れてたな。


 カリンの反応で何となく分かったタイガ。


「で、話を戻すけど、その無属性魔法ってどこで覚えたんだ?」

「実は一回だけプロトーチ王国に行った事があるんだ。そこの図書館で知ったかな」


 プロトーチ王国。それを聞いてタイガは興味を持った。マグナラに地図を出してもらい、プロトーチ王国の場所を教えてもらった。

挿絵(By みてみん)

「ドルメサとコナッチの下か。また機会があれば行けるし、今度はプロトーチも寄ってみるか。リンナもたまには実家に帰りたいだろうしな」

「それは良いですね」


 タイガの横でカリンが頷く。


「カリンは無属性の魔法は使えないのか?」

「私は使えません。勿論ペルも使えませんし、王宮では今の所、誰も使えません」

「久々にペルの名前を聞いたな……王宮に置いてきて大丈夫だったのか?」


 ペルはカリン達と同行していなかった。ドルメサに戻って宮殿騎士(パラディン)のウールと共に王宮の警備をしている。


「ペルは私の優秀な使い魔ですから。王宮の事はペルとウールさんに任せておけば、問題ありません」


 ――カリンがそこまで言うなら大丈夫だろう。


 タイガ達は国境付近の村に馬車を止め、昼食を取る事になった。今回はタイガ、カリン、ミルミア、リンナ、レーラ、アイル、ルーの七人で食べる。


「ついでに、シェスカさん達へのお土産も買っておくか」

「そうですね」


 食事を済ませてからお土産を見に行くという大抵の流れを確認し、お食事処を探す。


「あ、ここ良さそうじゃない?」


 ミルミアが言って、そこを指さす。タイガはその店の名前に見覚えがあった。


「アジルって確か……」

「トカゲ専門店ですね」


 タイガは顔を青くさせた。タイガは爬虫類が苦手である。タイガは周りを見ると、行く気満々だった。


「アーメン……」


 タイガは流れに身を任せ、店の中に入る。席に案内され、タイガは震える手でメニュー表を見る。


 ――と、トカゲ丼にトカゲの盛り合わせ……。俺、生きて帰れるかな……


 タイガは覚悟を決めてトカゲ丼を頼む。他のみんなはトカゲの盛り合わせやトカゲ御膳など、様々な料理を注文した。

 待つこと一〇分。遂に来た。


「お待たせしました。トカゲ丼です」

「タイガ、来ましたよ」


 タイガの料理が運ばれ、タイガは目を瞑って料理を受け取る。机に置き、深呼吸をして目を開ける。そこには色つやが良い刺身みたいなものがご飯の上に乗せられていた。


「あ、あれ……?」


 まさかの出来事に、タイガはあっけらかんとしていた。

 そして全員分の料理が運ばれ、「いただきます」をして食べ始める。タイガもゆっくりと白い具を箸で掴み、口に入れる。入れた瞬間、タイガの食べた事のある味が口の中に広がって来た。


「これ、イカか?」


 この世界で言うトカゲは海鮮系という意味らしい。つまり、タイガが頼んだのは海鮮丼という事だ。

 イカにマグロ、タコなど久々に食べた海鮮系をよく味わい、タイガは黙々と食べ続けた。


「じゃあお土産探すか」


 昼食も済まして、それぞれ自由行動となったタイガ達。先程の駐馬場に一四時集合となり、タイガはカリンと共に行動した。


「どんなのが良いかな」

「シェスカには調理器具などどうでしょう。新しいメイドも増えた事ですし、沢山あっても損はないかと」


 タイガとカリンは様々なお店を回り、シェスカとハスキーのお土産を買って行った。


「結構買い込んだな」


 タイガは前が見えなくなる程の荷物を抱え込んでいた。シェスカの調理器具にハスキーの庭の手入れ用ハサミや肥料など、コナッチにしか買えない物を買いすぎてしまい、今の状況に至る。


「早く帰ろう」

「そうですね。皆さんも待っていますし」


 重い荷物を抱えながら、タイガはふと思った。瞬間移動が使えたらな、と。


「なぁカリン。一度行った場所に瞬時に行ける魔法って知らない?」

「一度行った場所にですか? 聞いたことはあるのですが……」


 カリンは手を顎に沿え、考え始めた。だが、名前が思い出せないらしい。


「リンナかレーラに聞いてみるか」

「そうですね」


 タイガ達は駐馬場に着き、早速リンナとレーラに話を聞いた。


「リンナ、レーラ。行きたい場所に瞬時に行ける魔法って知らない?」

「行きたい場所にか? あたいは聞いた事無いな」

「ごめんなさい。私は聞いた事はあるのですが、名前が分からなくて……」


 二人から良い答えを貰えずガックリしたタイガ。そこで、遠くから男性の声がした。


「もしかして、テレポートの事か?」


 いきなり話しかけられたタイガは声がした方を見る。そこには、赤色のバンダナをヘアバンド風にして、プリン色をした髪の毛で肩の長さまであり、後ろ髪が跳ねていた二〇代後半の男が立っていた。


「あの、どちら様で?」

「あぁごめん。俺はユウ。色んな国を旅している旅人だ」


 タイガの質問に、ユウと言う人物は答える。彼の恰好は紫色のフードなしポンチョを被り、ポンチョの中にはロングネックの黒のシャツを着ている。下はグレーの七分丈パンツに、(すね)から足首にかけて包帯を巻いており、地下足袋(じかたび)を履いていて、いかにも旅人という雰囲気を出していた。


「俺はヤマト・タイガです。それで、そのテレポートというのは?」

「テレポートはその名の通り、瞬間移動だよ。ただ、一度言った事のある場所にしか行けない」

「どうしてそれを俺に?」

「君が知りたがっていたから。ただそれだけだよ」


 タイガはユウと話している時、不思議な感覚に見舞われていた。


 ――何だろう。この人から似た境遇を感じる。はっきりとは分からないけど、そんな感じがする。


 タイガはそんな事を思いつつ、テレポートについて聞いた。だが――


「悪いが、使い方まで分からないんだ。名前だけ知っているだけあってね」


 と言われ、その日は使う事が出来なかった。

 ユウは旅を続けると言ってタイガ達と別れ、見送ったタイガ達は馬車へと乗り込んで、王宮へと向かって馬車を走らせた。



 第三章 ―終―

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