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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第三章 コナッチ王国
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第四六話 イグナートと新たなパーティーメンバー

 タイガは疲れていた。一人の少女のせいで。


「タイガ! 何もたもたしてるのよ! 早く行くわよ!」

「ミルちゃん。タイガさん疲れているんだからあまり無理させない方が……」

「何を軟弱な事言ってんのよ」

「お前、俺を何だと思ってる」


 呆れた顔でタイガを見るミルミアに、タイガは睨み返す。


「それに比べて、リンナは優しいな。どっかの誰かと違って」


 そう言ってリンナの頭を撫でる。撫でられたリンナは顔を真っ赤にさせ、どっかの誰かさんと言われたミルミアは後ろの方で騒いでいた。


「もう少しで着く。――あ、ここだ」


 タイガは地図を基に、イグナートを生成する場所に訪れた。外見はロケットの様に先が尖っていて、大人数では入れない程小さかった。そして看板にはデカデカと『イグナート』と書かれている。


「確か国王様が店に連絡してくれたから、大丈夫だと思うぜ」

「じゃあ入りましょ!」


 タイガは先頭に立って、ドアをノックする。奥から女の声がして、ドアが開く。


「はい。どちら様ですか?」


 そこには黄色と赤の二色に分けた髪を持つ、丸縁眼鏡を掛けた女性が出てきた。


「あ、イグニル・スゥ・コナッチ様から聞いていると思うんですけど……」

「あぁ、貴方がタイガ君ね。待ってたわ。さぁ、中へどうぞ」


 イグニルの名前を出した途端タイガだと分かると、直ぐに中に入れてくれた。

 店の中は機械だらけだが、とてもきれいにしてある。店の真ん中には、人が一人入りそうな縦型カプセルが置かれていた。


「私はロン。このイグナートを管理しているわ」


 タイガ達を席に案内し、紅茶を出してくれた。ロンから自己紹介が始まり、タイガ達も順に挨拶する。


「ここでは、個人情報の塊となるイグナートを生成、管理する所なの」


 ロンは真ん中にあるカプセルを指す。


「あそこにあるカプセル。あそこに入ってもらい、イグナートを生成するの。その右側のケースに、イグナートを搭載したい物を置いて、自動で搭載してくれるわ」

「イグナートを搭載するものって、何でも出来るんですか?」


 紅茶を啜りながらミルミアが聞く。


「何でもって訳ではないけど。例えば、今回貴女達が持っているマグナラは当たり前。それと、銃士が持つ銃、それからギルドカード」

「ギルドカード?」


 今度はリンナが聞き返す。


「殆どの人が、身分を証明する物を持ってないの。それの代わりになるのがマグナラにギルドカード。タイガ君、貴方のマグナラに聞いてみたら?」

「え?」

「だって貴方のマグナラに搭載されているイグナート、()()なんでしょ?」


 ロンの言葉に、タイガは背筋を凍らせた。


「な、何で……」

「国王様からさっき聞いたの。取り敢えず、聞いてみてよ」

「は、はぁ……」


 タイガは違和感を覚えるも、取り敢えず言われた通りにやってみた。


「マグナラ、俺の身分を証明する物映して」


 そして、タイガの顔写真付きの身分を証明するものが出てきた。

 そこに書かれているのは名前、年齢、性別、職業、出身国だった。


 ――出身国……まさか!


 タイガは嫌な予感をして、出身国を見る。そこには日本ではなくドルメサ王国と書かれていた。


 ――俺がドルメサ出身? この世界に転移した時の場所だからか?


「タイガってドルメサ出身だったのね」

「知らなかったです」

「ま、まぁ言った所で何も変わらないからな」


 ミルミア、リンナの言葉につっかえながらも答えていく。


「という感じよ。ギルドカードは盗難防止の為ね。そのギルドカードのイグナートに搭載されていない人が触ると、自然に持ち主の所へ戻るの。それは、ギルドに登録するときにしてあるわ」


 三人が嘆声を上げる。そして、ミルミアとリンナのイグナートを作る時が来た。


「じゃあミルミアちゃん、中入って」


 誘導されたミルミアはカプセルの中に入り、扉を閉められる。そして頭からレーダーが当てられ、足まで辿り着くと、今度はもの凄い煙がミルミアを覆う。ミルミアのマグナラを見ると、少しずつ光り出して数秒で収まった。それと同時に扉が開き、(むせ)ながら出てきた。


「お疲れ様です。これでミルミアちゃんのマグナラは完成したわよ」

「ホントですか!?」


 ロンからイヤリング型マグナラを受け取り、付ける。そしてガリルを流すと、目の前に起動中の文字が書かれていた。

 暫くすると、画面が変わる。


「初メマシテ、ミルミア・ガーネ様。貴女ノ情報ヲ登録シマシタ」

「きたぁああああ!!」


 ミルミアはデカい声で喜んだ。リンナは「良かったね」と声を掛け、タイガは鬱陶しいと言う目を向けながら耳を塞ぐ。

 その後リンナも登録して、全員マグナラを使えるようになった。タイガは一つ、先程の会話で気になった所があった。


「ロンさん。さっきイグナートの管理って言ってましたけど、それってどういう意味なんですか?」

「そのままの意味だよ。さっき入ってもらったこのカプセルに、ミルミアちゃんとリンナちゃんの情報が詰まっている。勿論、他の人もね。それで、ミルミアちゃんのマグナラにリンナちゃんのイグナートを入れたいなら、リンナちゃんの情報をここから見つけて、マグナラをこのケースに入れれば登録完了よ」


 その後、ミルミアとリンナのマグナラに、互いのイグナートを登録させてお店を出る。時刻は一七時四七分。


「もうこんな時間か。もう帰ろう」


 タイガの言葉にミルミアは駄々をこねるも、リンナが何とか言い包めて落ち着かせた。

 王宮に帰って来たタイガ一行。夕食を済ませると、タイガは入浴を済ませて部屋に戻った。そして、ベッドにダイブする。


「もう疲れた……」


 タイガは今日の出来事を振り返りながら重い瞼を閉じて、完全に意識を手放した。

 翌朝、王宮で朝食を済ませたタイガ達は、コナッチのギルドで依頼を受けに行った。


「久々に暴れたいわね」

「俺は昨日の事があるから、勘弁してほしいけどね」


 ミルミアが肩を回しながら、タイガは疲れ果てた表情でクエストボードを見る。

 タイガは昨日、強制的にジュピターに呼ばれ、ずっと抱っこさせられてた。理由はただ単に甘えたかっただけらしい。身体は寝ていても精神面で疲れたタイガは、疲れが残っていたのだ。


「タイガさん、大丈夫ですか?」

「まぁ、クエストを受けられない程って訳ではないから大丈夫だよ。それで、何か良いの見つかったか?」

「あれ? タイガ?」


 後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。タイガ達は後ろを向くと、カウボーイハットがトレードマークのレーラがいた。


「おはようレーラ。お前も依頼を受けに?」

「まぁな! お前達もか?」

「そんなとこね」


 ミルミアが軽く答えると、再びボードを見る。リンナも見てくると言い、その場にいるのはタイガとレーラだけ。


「そういえば……」

「ん?」


 レーラが突然口を開き、タイガはレーラを見る。


「昨日、父ちゃんと母ちゃんに話したんだ。タイガ達のパーティーに入りたいって。最初はダメだって言われたし、心配もされた。でも、あたい言ったんだ。ここなら、タイガ達となら新しい自分が見れるんじゃないかって。もっと強くなれるんじゃないかって。だから土下座までした。そしたら父ちゃんが『タイガ君達に迷惑かけない様にね』って言ってくれて、許してもらえたんだ」


 レーラは、先日タイガに言われた通り誠意をぶつけたら、タイガ達のパーティーに入ることを許された。タイガは「良かったな」と言ってレーラの頭をポンポンと叩く。


「じゃあ、今日は一緒に依頼受けるか?」

「良いのか!?」

「良いも何も、もう認められたんだろ? 俺も挨拶しに行くけど、パーティーに入ったんだから一緒に受けて当たり前だろ?」

「タイガ……」


 目を涙目にさせ、タイガを見るレーラ。そこにミルミアとリンナが帰ってきて、依頼内容を聞く。

 今回は北の森に住むマスターウルフの討伐クエストだ。それを聞いて、タイガは顔を顰める。


「今回は本当にマスターウルフ何だろうな?」


 タイガは先日の、ドリナエとの闘いを思い出す。あの時は見た目に騙されて討伐していた為、タイガは不安しかなかった。


「ん? 何でマスターウルフを疑ってんだ?」


 事情を知らないレーラが、タイガ達に聞いてしまう。タイガは「また今度話す」と言って、今はその場を乗り切った。

 タイガ達はレーラの案内の下、北の森へとやって来た。その道中、タイガはマグナラでマスターウルフの画像とダークウルフの画像を見比べていた。


 ――マスターウルフとダークウルフ、ホントそっくりだ……見分けがつかな……ん?


 タイガは、双方の目を見比べる。マスターウルフは眼球が白く、黒目でキャッツアイなのに対して、ダークウルフは白目の部分が充血していた。そして黒目の部分は白くなっていたのだ。


 ――見分ける方法はアイツらの目か。ミルミア達にも送っておこう。


 タイガは先程の画像をミルミアとリンナに送り、説明した。二人も画像を見て、見分け方を知った。

 その時、奥の草むらからガサゴソと音が聞こえる。タイガ達は気付かれない様、静かに近寄る。するとそこから一匹の狼が顔を出した。タイガはすぐさま目を確認する。白に黒だ。


「あいつよ!」

「バカ!」


 見つけたミルミアが大声を出してしまい、マスターウルフがタイガ達に気付いた。すると遠吠えをし始め、遠くに逃げる。暫くすると色んな魔獣がタイガ達の周りを囲む。


「確かにこれだったら、前に聞いたリンナの条件に当てはまるな」

「で、どうすんのよ」

「殆どお前のせいだってのに何でそんな偉そうなんだよ……」


 軽くミルミアに突っ込みを入れて、タイガは思考回路をフル回転させる。


「このクエストはリンナとレーラが主体だ。お前達であのお山の大将を討伐してくれ」

「オヤマノタイショウ?」

「あのマスターウルフの事だ。俺とミルミアはこの魔獣達を討伐していく。頼んだぞ!」


 タイガがそう言った瞬間、ミルミアとタイガは走り出して集まって来た魔獣を斬っていく。


「リンナ! お前のマグナラに俺のマップ機能を入れておいた! それでマスターウルフを見つけ出せ!」


 リンナはすぐさまマップを表示すると、点滅している点が動いていた。それがマスターウルフだと知ると、リンナとレーラはポイントの方を追って行った。

 追い始めて数分、ポイントの動きが止まった。


「リンナ、ここはあたいに任せてくれ」

「え?」


 不意に、レーラは口を開く。


「あたいの実力を見て貰いたいんだ。あいつの動きはすばしっこいし、あたいの銃さばきですぐに終わらせる」

「ですが、音でバレるのでは?」

「任せろ」


 レーラはリボルバーを出し、魔法を唱えた。


「――サイレント」


 そして銃口をウロウロしているマスターウルフに向ける。


「クリア・ブレット!」


 レーラは引金を引くが、音もしなければ弾も見えない。そしていつの間にか、マスターウルフは血を流して倒れていた。


「今の魔法は?」

「サイレントは撃った時の音を消すもので、クリア・ブレットは見えない弾って意味。つまり相手に気付かれず、気付いたら終わってたって奴だな」


 レーラは銃口から出ている煙をフッと吹いて、リボルバーをしまう。それと同時に、タイガ達も来た。タイガ達も魔獣を全部倒したらしく、今回の依頼を四〇分で終わらせた。


 ――リンナのマグナラに繋いで様子を見ていたが、一つ気になる。


 ギルドに戻る途中、前で女子三人が話しているのを余所に、タイガは気になっている事があった。


 ――この間もそうだったが、弾を装填する魔法ロードに、さっきのサイレント……。あれはどの属性になるんだ? 恐らく光か闇だろうけど……


「タイガ! 遅いわよー!」

「おう! 今行くー!」


 レーラの魔法はまた今度聞こうと決めたタイガは、三人を追う。新たなパーティーメンバー、レーラを入れて。


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