第四六話 イグナートと新たなパーティーメンバー
タイガは疲れていた。一人の少女のせいで。
「タイガ! 何もたもたしてるのよ! 早く行くわよ!」
「ミルちゃん。タイガさん疲れているんだからあまり無理させない方が……」
「何を軟弱な事言ってんのよ」
「お前、俺を何だと思ってる」
呆れた顔でタイガを見るミルミアに、タイガは睨み返す。
「それに比べて、リンナは優しいな。どっかの誰かと違って」
そう言ってリンナの頭を撫でる。撫でられたリンナは顔を真っ赤にさせ、どっかの誰かさんと言われたミルミアは後ろの方で騒いでいた。
「もう少しで着く。――あ、ここだ」
タイガは地図を基に、イグナートを生成する場所に訪れた。外見はロケットの様に先が尖っていて、大人数では入れない程小さかった。そして看板にはデカデカと『イグナート』と書かれている。
「確か国王様が店に連絡してくれたから、大丈夫だと思うぜ」
「じゃあ入りましょ!」
タイガは先頭に立って、ドアをノックする。奥から女の声がして、ドアが開く。
「はい。どちら様ですか?」
そこには黄色と赤の二色に分けた髪を持つ、丸縁眼鏡を掛けた女性が出てきた。
「あ、イグニル・スゥ・コナッチ様から聞いていると思うんですけど……」
「あぁ、貴方がタイガ君ね。待ってたわ。さぁ、中へどうぞ」
イグニルの名前を出した途端タイガだと分かると、直ぐに中に入れてくれた。
店の中は機械だらけだが、とてもきれいにしてある。店の真ん中には、人が一人入りそうな縦型カプセルが置かれていた。
「私はロン。このイグナートを管理しているわ」
タイガ達を席に案内し、紅茶を出してくれた。ロンから自己紹介が始まり、タイガ達も順に挨拶する。
「ここでは、個人情報の塊となるイグナートを生成、管理する所なの」
ロンは真ん中にあるカプセルを指す。
「あそこにあるカプセル。あそこに入ってもらい、イグナートを生成するの。その右側のケースに、イグナートを搭載したい物を置いて、自動で搭載してくれるわ」
「イグナートを搭載するものって、何でも出来るんですか?」
紅茶を啜りながらミルミアが聞く。
「何でもって訳ではないけど。例えば、今回貴女達が持っているマグナラは当たり前。それと、銃士が持つ銃、それからギルドカード」
「ギルドカード?」
今度はリンナが聞き返す。
「殆どの人が、身分を証明する物を持ってないの。それの代わりになるのがマグナラにギルドカード。タイガ君、貴方のマグナラに聞いてみたら?」
「え?」
「だって貴方のマグナラに搭載されているイグナート、特別なんでしょ?」
ロンの言葉に、タイガは背筋を凍らせた。
「な、何で……」
「国王様からさっき聞いたの。取り敢えず、聞いてみてよ」
「は、はぁ……」
タイガは違和感を覚えるも、取り敢えず言われた通りにやってみた。
「マグナラ、俺の身分を証明する物映して」
そして、タイガの顔写真付きの身分を証明するものが出てきた。
そこに書かれているのは名前、年齢、性別、職業、出身国だった。
――出身国……まさか!
タイガは嫌な予感をして、出身国を見る。そこには日本ではなくドルメサ王国と書かれていた。
――俺がドルメサ出身? この世界に転移した時の場所だからか?
「タイガってドルメサ出身だったのね」
「知らなかったです」
「ま、まぁ言った所で何も変わらないからな」
ミルミア、リンナの言葉につっかえながらも答えていく。
「という感じよ。ギルドカードは盗難防止の為ね。そのギルドカードのイグナートに搭載されていない人が触ると、自然に持ち主の所へ戻るの。それは、ギルドに登録するときにしてあるわ」
三人が嘆声を上げる。そして、ミルミアとリンナのイグナートを作る時が来た。
「じゃあミルミアちゃん、中入って」
誘導されたミルミアはカプセルの中に入り、扉を閉められる。そして頭からレーダーが当てられ、足まで辿り着くと、今度はもの凄い煙がミルミアを覆う。ミルミアのマグナラを見ると、少しずつ光り出して数秒で収まった。それと同時に扉が開き、咽ながら出てきた。
「お疲れ様です。これでミルミアちゃんのマグナラは完成したわよ」
「ホントですか!?」
ロンからイヤリング型マグナラを受け取り、付ける。そしてガリルを流すと、目の前に起動中の文字が書かれていた。
暫くすると、画面が変わる。
「初メマシテ、ミルミア・ガーネ様。貴女ノ情報ヲ登録シマシタ」
「きたぁああああ!!」
ミルミアはデカい声で喜んだ。リンナは「良かったね」と声を掛け、タイガは鬱陶しいと言う目を向けながら耳を塞ぐ。
その後リンナも登録して、全員マグナラを使えるようになった。タイガは一つ、先程の会話で気になった所があった。
「ロンさん。さっきイグナートの管理って言ってましたけど、それってどういう意味なんですか?」
「そのままの意味だよ。さっき入ってもらったこのカプセルに、ミルミアちゃんとリンナちゃんの情報が詰まっている。勿論、他の人もね。それで、ミルミアちゃんのマグナラにリンナちゃんのイグナートを入れたいなら、リンナちゃんの情報をここから見つけて、マグナラをこのケースに入れれば登録完了よ」
その後、ミルミアとリンナのマグナラに、互いのイグナートを登録させてお店を出る。時刻は一七時四七分。
「もうこんな時間か。もう帰ろう」
タイガの言葉にミルミアは駄々をこねるも、リンナが何とか言い包めて落ち着かせた。
王宮に帰って来たタイガ一行。夕食を済ませると、タイガは入浴を済ませて部屋に戻った。そして、ベッドにダイブする。
「もう疲れた……」
タイガは今日の出来事を振り返りながら重い瞼を閉じて、完全に意識を手放した。
翌朝、王宮で朝食を済ませたタイガ達は、コナッチのギルドで依頼を受けに行った。
「久々に暴れたいわね」
「俺は昨日の事があるから、勘弁してほしいけどね」
ミルミアが肩を回しながら、タイガは疲れ果てた表情でクエストボードを見る。
タイガは昨日、強制的にジュピターに呼ばれ、ずっと抱っこさせられてた。理由はただ単に甘えたかっただけらしい。身体は寝ていても精神面で疲れたタイガは、疲れが残っていたのだ。
「タイガさん、大丈夫ですか?」
「まぁ、クエストを受けられない程って訳ではないから大丈夫だよ。それで、何か良いの見つかったか?」
「あれ? タイガ?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。タイガ達は後ろを向くと、カウボーイハットがトレードマークのレーラがいた。
「おはようレーラ。お前も依頼を受けに?」
「まぁな! お前達もか?」
「そんなとこね」
ミルミアが軽く答えると、再びボードを見る。リンナも見てくると言い、その場にいるのはタイガとレーラだけ。
「そういえば……」
「ん?」
レーラが突然口を開き、タイガはレーラを見る。
「昨日、父ちゃんと母ちゃんに話したんだ。タイガ達のパーティーに入りたいって。最初はダメだって言われたし、心配もされた。でも、あたい言ったんだ。ここなら、タイガ達となら新しい自分が見れるんじゃないかって。もっと強くなれるんじゃないかって。だから土下座までした。そしたら父ちゃんが『タイガ君達に迷惑かけない様にね』って言ってくれて、許してもらえたんだ」
レーラは、先日タイガに言われた通り誠意をぶつけたら、タイガ達のパーティーに入ることを許された。タイガは「良かったな」と言ってレーラの頭をポンポンと叩く。
「じゃあ、今日は一緒に依頼受けるか?」
「良いのか!?」
「良いも何も、もう認められたんだろ? 俺も挨拶しに行くけど、パーティーに入ったんだから一緒に受けて当たり前だろ?」
「タイガ……」
目を涙目にさせ、タイガを見るレーラ。そこにミルミアとリンナが帰ってきて、依頼内容を聞く。
今回は北の森に住むマスターウルフの討伐クエストだ。それを聞いて、タイガは顔を顰める。
「今回は本当にマスターウルフ何だろうな?」
タイガは先日の、ドリナエとの闘いを思い出す。あの時は見た目に騙されて討伐していた為、タイガは不安しかなかった。
「ん? 何でマスターウルフを疑ってんだ?」
事情を知らないレーラが、タイガ達に聞いてしまう。タイガは「また今度話す」と言って、今はその場を乗り切った。
タイガ達はレーラの案内の下、北の森へとやって来た。その道中、タイガはマグナラでマスターウルフの画像とダークウルフの画像を見比べていた。
――マスターウルフとダークウルフ、ホントそっくりだ……見分けがつかな……ん?
タイガは、双方の目を見比べる。マスターウルフは眼球が白く、黒目でキャッツアイなのに対して、ダークウルフは白目の部分が充血していた。そして黒目の部分は白くなっていたのだ。
――見分ける方法はアイツらの目か。ミルミア達にも送っておこう。
タイガは先程の画像をミルミアとリンナに送り、説明した。二人も画像を見て、見分け方を知った。
その時、奥の草むらからガサゴソと音が聞こえる。タイガ達は気付かれない様、静かに近寄る。するとそこから一匹の狼が顔を出した。タイガはすぐさま目を確認する。白に黒だ。
「あいつよ!」
「バカ!」
見つけたミルミアが大声を出してしまい、マスターウルフがタイガ達に気付いた。すると遠吠えをし始め、遠くに逃げる。暫くすると色んな魔獣がタイガ達の周りを囲む。
「確かにこれだったら、前に聞いたリンナの条件に当てはまるな」
「で、どうすんのよ」
「殆どお前のせいだってのに何でそんな偉そうなんだよ……」
軽くミルミアに突っ込みを入れて、タイガは思考回路をフル回転させる。
「このクエストはリンナとレーラが主体だ。お前達であのお山の大将を討伐してくれ」
「オヤマノタイショウ?」
「あのマスターウルフの事だ。俺とミルミアはこの魔獣達を討伐していく。頼んだぞ!」
タイガがそう言った瞬間、ミルミアとタイガは走り出して集まって来た魔獣を斬っていく。
「リンナ! お前のマグナラに俺のマップ機能を入れておいた! それでマスターウルフを見つけ出せ!」
リンナはすぐさまマップを表示すると、点滅している点が動いていた。それがマスターウルフだと知ると、リンナとレーラはポイントの方を追って行った。
追い始めて数分、ポイントの動きが止まった。
「リンナ、ここはあたいに任せてくれ」
「え?」
不意に、レーラは口を開く。
「あたいの実力を見て貰いたいんだ。あいつの動きはすばしっこいし、あたいの銃さばきですぐに終わらせる」
「ですが、音でバレるのでは?」
「任せろ」
レーラはリボルバーを出し、魔法を唱えた。
「――サイレント」
そして銃口をウロウロしているマスターウルフに向ける。
「クリア・ブレット!」
レーラは引金を引くが、音もしなければ弾も見えない。そしていつの間にか、マスターウルフは血を流して倒れていた。
「今の魔法は?」
「サイレントは撃った時の音を消すもので、クリア・ブレットは見えない弾って意味。つまり相手に気付かれず、気付いたら終わってたって奴だな」
レーラは銃口から出ている煙をフッと吹いて、リボルバーをしまう。それと同時に、タイガ達も来た。タイガ達も魔獣を全部倒したらしく、今回の依頼を四〇分で終わらせた。
――リンナのマグナラに繋いで様子を見ていたが、一つ気になる。
ギルドに戻る途中、前で女子三人が話しているのを余所に、タイガは気になっている事があった。
――この間もそうだったが、弾を装填する魔法ロードに、さっきのサイレント……。あれはどの属性になるんだ? 恐らく光か闇だろうけど……
「タイガ! 遅いわよー!」
「おう! 今行くー!」
レーラの魔法はまた今度聞こうと決めたタイガは、三人を追う。新たなパーティーメンバー、レーラを入れて。




