第四五話 念願のマグナラと共有
「いやぁタイガ君。息子の目を覚ましてくれてありがとう!」
一悶着を終え、再び応接室に戻って来たタイガ達。あの後、ラモーネはイグニルにも謝り、許してもらった。カリンが座ると、そこにミンティークが走って行ってカリンの膝の上に座る。その景色はとても微笑ましかった。
「いやぁ、カリンの事と言いラモーネの事と言い、何かお礼させてくれないか」
「ホントですか!? じゃあマグ――っ!」
お礼という言葉を聞いた時、一目散にミルミアが喋るが、隣に座っていたリンナに口を塞がれる。
「ミルちゃん! タイガさんが何とかしてくれるんだから、邪魔しないの!」
リンナがミルミアの口を抑えたまま、ミルミアの耳元でボソッと喋る。
「どうかしたのかい?」
「あ、いえ。何でも」
それを見たイグニルが聞いてくるが、タイガは何でもないとスルーさせた。
――さて、こっからは俺次第だな……。ミルミアからのプレッシャーが凄い。
タイガはチラッと隣を見ると、『何としてもゲットしろ!』とでも言ってそうな雰囲気を纏っていた。タイガはため息をつき、もう一つの本題に入った。
「実はこの間、ドルメサのルージュという時刻盤専門店で、これを譲り受けたんですよ」
タイガは首にぶら提げているマグナラをイグニルに見せる。
「それはマグナラか! で、それがどうしたんだい?」
「今、このマグナラを持っているのは俺だけで、俺を通さないと念話が出来ない状態なんです。そこで、一番安いマグナラを売っているお店を紹介してほしくて」
それを聞いたミルミアが暴れ出す。だが、これはタイガの作戦であった。
相手に軽い褒美だけを求める。だが、それでは気が召さない相手は、それよりも豪華なものを渡したくなる。それが義理堅い人であれば尚更である。
「そんなお店紹介しなくとも、私が用意するよ」
まんまとタイガの罠に嵌ってしまった。
――こんな簡単にいって良いのかよ。だが、念には念を。もう一息だ。
隣で暴れているミルミアを、一度頭に手刀をして黙らせる。
「いえ! 国王様のお手を煩わせるには……」
「気にするな! 私がしたくてしているのだから。ギル! マグナラを持って来なさい!」
――チェックメイトだけど……。案外簡単に行くもんだな……
タイガの作戦通りに話が進んでしまい、あっけらかんとしていた。
「では、お言葉に甘えます」
暫くして、執事のギルがアタッシュケースらしき物を持ってきて、イグニルに渡す。
「では、この中から好きなの選んで良いよ」
その中には沢山のマグナラが入っており、種類も色も豊富だった。ミルミアが食い入るように眺め、リンナも目を輝かせて見ていた。
二人が見ている間、タイガ達は雑談していた。
「そういえば、このマグナラに搭載されるイグナートってどこに行けば手に入るんですか?」
「え? タイガ君は知らないでそれを使ってたのかい?!」
「まぁ、ちょっと特別でして……」
タイガは言葉を濁らせ、何とか切り抜けた。
「ギル! 王都の地図を出してくれ!」
「あ、良いですよ。俺が出します」
タイガはいつもと同じ感覚で地図を映す。その時、コナッチ家の人々は目を丸くさせた。
「タイガ。今の何だい!?」
「何って、地図だけど」
「それは分かるんだけど、どうしてマグナラから出てきたんだ!?」
「どうしてって、それは――」
ふと、タイガは言葉を止めた。そして、マグナラを手に入れた時の事を思い出す。
――確か、マグナラは個人の情報が搭載されるイグナートによって、初めて動くんだよな。俺のイグナートはスマホだった。俺のマグナラは地図も出せるし、この間マグナラのカタログ見るのに久々にネットを使ったな。っていう事は……
「完全にスマホじゃねぇか……」
そう。普通のマグナラは念話と時間の確認しかできない。だがタイガの場合、個人情報の塊であるスマートフォンがイグナートとなっているため、スマートフォンの機能が殆ど使えるのだ。
そこで、タイガは一つ思いついた。
「マグナラ。マグナラ同士での共有ってできる?」
「ハイ。共有シタイモノヲ上映シテ、共有シタイ相手ノマグナラニ触レテガリルヲ流ス方法ト、相手ノマグナラニ自分ノイグナートヲ搭載サセ、共有シタイ人物ト、ソノ相手ヲ想像スレバ、遠距離デ共有デキマス」
「会話も出来るのか……」
タイガとマグナラの行動に、コナッチ家は茫然としていた。
「因ミニ、タイガ様ノイグナートハ複製出来マセン。ナノデ、相手ノマグナラト、私ニガリルヲ流シテ頂ケレバ、タイガ様ハ相手ノマグナラモ使ウ事ガ出来マス」
「そうなの? ラモーネ、マグナラ持ってる?」
「も、持ってるけど……」
「ちょっと貸してくれ」
タイガはラモーネから球型のネックレスのマグナラを借り、先程書かれていたように自分のマグナラとラモーネのマグナラにガリルを流す。一瞬の出来事だった。タイガのマグナラから光を放ち、その光はラモーネのマグナラを包み込む。そしてタイガのマグナラから『登録完了』の文字が映し出された。
「これで、ラモーネのマグナラは俺の声にも反応するのか?」
「ハイ。実際ニヤッテミテハ?」
ラモーネにマグナラを返し、ガリルを流してもらう。
「今、何時だ?」
すると、タイガの声に反応してラモーネのマグナラから『一二時五九分』という文字が映し出された。
成功したのを喜ぶカリン達だが、タイガは時間を見て固まっていた。
「カリン」
「はい?」
「もう、一三時」
「そうですね」
「――昼飯、どうすんの?」
「「「「「あ……」」」」」
全員、マグナラに集中してしまい、昼食の事など忘れていた。
するとタイミングよくギルが入ってきて、昼食を持ってきてくれた。
――この人、何でタイミング良いんだろう……
タイガが思った、率直な感想だった。
ミルミアとカリンのマグナラ選びを中断させ、昼食を取り始めた。ミルミアのマグナラ選びは、タイガが脳天に手刀を決めて強制終了させた。
そして楽しく昼食を終え、ミルミアは真っ先へとマグナラ選びへと戻った。
「じゃあ、イグナートのお店を教えよう」
タイガはイグニルのマグナラにも登録して、タイガの地図をイグニルに送る。要領としては、携帯のアドレス交換するときにやる赤外線みたいな感じだ。
タイガのマグナラとイグニルのマグナラに地図が表示され、片方が動かすと同じ様に動く。
イグニルの説明で、イグナートが手に入る店を知ったタイガ。それと同時に、、ミルミア達のマグナラ選びも終わった。
ミルミアは雫の形をした薄紅の片耳イヤリングで、リンナはシルバーのブレスレットだった。
「ネックレスだけじゃないんだな」
「そう。人によって向き不向きがあるかね。タイガ君が見たマグナラは、基本形だよ」
――そういえば、あまりの値段に途中で見るの止めたんだ……
タイガがこの間見たカタログは、かなりの衝撃で全部見ることは出来なかった。
「形が変われば変わるほど、値段は上がる。ミルミア君達は運が良い!」
嫌味にも聞こえるが、素直にお礼を言って、オトランシス兄弟の帰りを待つ。今日は王宮に泊まる予定の為、自由行動となった。
「タイガ、これからどうしますか?」
応接室を出たタイガ一行。タイガは欠伸をしながら身体を伸ばすと、カリンが聞いて来た。
だが、タイガはカリンの目を見て何も話さない。
「た、タイガ?」
「……後ろの二人を見てくれ」
低い声でタイガは言い、カリンの後ろにいるミルミアとリンナを見る。
「……分かったか?」
「……はい。では私も――」
「いや、カリンは休んどけよ。久々にラモーネ達と会ったんだろ? 積もる話もあるだろうからさ」
タイガには悪気はないが、カリンにとっては少し複雑だった。
「……分かりました。気を付けてくださいね」
「お前は俺のオカンか。じゃあ、行ってくる」
タイガ達が離れていく中、カリンは少し寂しそうな顔をしていた。
「どうしたの? カリンお姉ちゃん」
不意にドアが開き、顔を覗かせるミンティーク。
「いえ、何でもありません。さて、ミンティークのお部屋に行きましょうか」
「うん!」
カリンとミンティークは手を繋ぎ、部屋に戻って行った。そしてタイガは早く使いたがっている二人を連れ、イグナートを取り扱っているお店に向かった。




