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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第三章 コナッチ王国
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第四一話 銃士の能力とお兄ちゃん

 チェックインを済ませたタイガ達は、夕食が出るまで自由行動となった。


「それにしても、カリンったら大胆よね~」

「迂闊だった。カリンの天然さを忘れてた……」


 タイガは頭を押さえ、後悔していた。それに続き、ミルミアとリンナも溜め息をつく。

 現在、タイガ達は王都付近の森に移動している。メンバーはタイガ、ミルミア、リンナ、レーラの四人。

 何故こうなったのか。事の発端は数分前に遡り、タイガの一言で始まった。


「なぁ、レーラの銃士ってどんな能力を持ってるんだ?」

「あたい? そうだな……口で説明するのが難しいから、実際に見てくれ!」


 それに興味持ったミルミアとリンナも付いて行くことになり、現在に至る。


「あった! ここだ」


 タイガ達が着いた先は、いくつもの的が木に張り付いており、何個もの穴が開いていた。


「ここって……」

「あたいの修行場だ」


 かなり修行したのだろう。辺りの木々がボロボロだった。

 レーラはガンホルダーからトリガーガードに人差し指を入れ、出したと同時に回転させて、顔の横まで持ってくる。薬室(チャンバー)が六つあるリボルバーの弾倉振出式(スイングアウト)で、銃身(バレル)が長いものだった。


「あたいのリボルバーはダブルアクション専用だ。だからいちいち撃鉄(ハンマー)を起こさなくて良いんだ」


 銃口(マズル)を的に向け、一発撃つ。初めて聞いたのか、ミルミアとリンナは騒音で耳を塞ぐ。


「こういう風に、動きながらでも打てる」


 レーラはバク転して地面に手が付くと、バネの力を利用して高く飛ぶ。正面を向いたと同時に引金(トリガー)を引くと、綺麗に的の真ん中を当てた。


「凄いな」

「あたいの専売特許は、射貫く場所の正確さと身軽さだ。ここまで来るのに相当苦労したんだぜ」


 レーラは得意げに話す。だが、ここまで身軽な銃士は今まで見た事がないだろう。


「でも、弾詰めに時間かかるんじゃないのか?」


 リボルバーは自分で弾を詰め替えなければいけない。その時間が長ければ長い程、敵に狙われてしまう。


「そこも大丈夫だ。あたいは魔法も使えるんだ。弾詰めはあたいが唱えれば勝手にやってくれる。――ロード」


 レーラが唱えると、シリンダーが勝手に振り出して空薬莢(からやっきょう)が捨てられ、新しい薬莢が詰め込まれた。その時間は僅か二秒。


「それに、弾に魔法をかけることによって、性質が変わるんだ。例えば――」


 再び銃口を的に向け、狙いを定める。


「アイス・ブレット」


 引金を引き、的に弾丸が当たる。その瞬間、的を中心に木が少し凍った。


「今のは氷の付加をかけたんだ。当たった対象は氷漬けだぜ!」


 レーラはどや顔で自慢げに言ってくる。レーラの実力を見たタイガ、ミルミア、リンナは驚いている。


「凄いわね……」

「銃士は中、遠距離型だし、物陰に隠れて相手を仕留めるのも容易いだろう。後方支援向きだな」

「ミルちゃんは近距離、タイガさんは近、中距離、私は後方支援。レーラさんが入ってくれれば、パーティーのバランスも良くなりますね」


 三者三様で喋る。そして、レーラはリンナの言葉に喰いついた。


「パーティー!? あたいをパーティーに入れてくれるのか!?」


 目を光らせてタイガに詰め寄るレーラ。


「落ち着け。お前の気持ちは分かっている。まだ入れる事は出来ない。俺達はドルメサで活動している。お前が俺達のパーティーに入るってことは、このコナッチから抜けるって事だぞ。それで良いのか?」

「あたいなら大丈夫だ! だから――」

「俺が言っているのは、お前の親の事だ」


 タイガがレーラの言葉を遮る。


「何も相談なしに、俺達のパーティーに入ったと知ったら、親御さん悲しむぞ。そんな事をしてまで、俺達と来たいか?」


 タイガに言われ、落ち着きを取り戻したレーラ。そしてゆっくりと俯き始める。


「俺達は数日ここにいる。その間に、両親と話してこい。そしたら、このパーティーメンバーに入れるよ」


 タイガはレーラの肩をポンと叩く。レーラが顔を上げると、タイガの笑顔が瞳に映った。その後ろでミルミアとリンナも微笑んでいる。


「お前が本当に入りたいなら、その誠意をぶつけろ」

「ああ!」


 タイガの言葉に、レーラも笑顔で答えた。

 タイガはマグナラで時間を確認し、宿に戻ることになった。


「お帰りなさい、タイガ。それに皆さんも」


 部屋に戻ると、丁度料理が机の上に並べられていた。


「レーラ、帰ってたのかい」

「母ちゃん!」


 その中の一人、頭の後ろをお団子ヘアーで二〇代中ごろの人がレーラに話しかける。


 ――おいおい、あれで母ちゃんかよ。姉妹って言ってもおかしくねぇぞ。


「あんたがタイガとやらかい?」


 レーラの母親が、タイガに話しかけてくる。


「私はレーラの母、トレーヌだ。旦那から聞いたよ。娘が世話になったね」

「あ、いえ。たまたまそこにいただけですから」

「それでもだよ。ありがとう」

「は、はぁ……」


 タイガは会話をしながら思った。一人称は違うが、リーラの言葉使いは間違いなく『母』の遺伝だろう、と。


「さて、娘の恩人だ。たんまり食っていきな」


 机を見ると、もの凄い量の料理が置かれていた。刺身から天ぷらまで様々な料理がある。


「ありがとうございます。ではいただきましょうか」


 カリンの一言で、みんな食べ始めた。因みに、お祈りは王宮でしかやらない。外ではみんな『いただきます』なのだ。

 食事中は他愛もない話をずっとしていた。馬車の中では話していなかった魔王軍の話をカリンがしてしまい、レーラは興奮していた。

 食事も終わり、みんなが寝床に就く。タイガ、アイル、ルーの順番で男子組は窓側に、仕切りを挟んで、ミルミア、リンナ、カリン、レーラの順でドア側になり川の字に布団を敷いた。


「では、明日は八時起床で一〇時には王宮に着くようにしましょう。皆さん、おやすみなさい」


 カリンが言うと、みんな寝静まってしまった。タイガだけ目を開けている。


 ――いよいよコナッチ王とご対面だな。どうせカリンの事だから、俺に説明させるんだろうな。失礼なこと言って首斬られねぇかな……


 そんな事を考えると、誰かがタイガの布団に入って来た。アイルが入って来たのかと思ったタイガだが、よく見ると水色の髪をした女の子――カリンだった。


「カリ――っ!」


 カリンを起こそうとした時、カリンがタイガに抱き着いた。そして小さい声で――


「お兄ちゃん……」


 と言いながら一筋の涙を流す。タイガは起こすことを止め、このままの状態にさせた。


 ――お兄ちゃん、か。カリンのお兄さんはどんな人だったんだろうな。もう、この世にはいないんだろうけど……


 タイガはカリンの頭をそっと撫でる。すると、カリンが少し微笑んでいるように見えた。

 撫でていくうちに、タイガも意識が遠のいていき、深い眠りについた。

 翌日、みんなにからかわれたのは言うまでもない。


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