第三話 行き先と身体能力
「未来が分かれば良いんだけどなぁ」
タイガがそういった瞬間、激しい頭痛がタイガを襲った。
視界が眩み、脳内からある映像が流れる。
「こ、これは……」
その映像は、先程の水色の髪の少女とその少女を連れ去った男の後ろ姿だった。
――もしかして俺に教えてくれているのか? 少女と男の歩いた道を……
そして頭痛は治まり、視界がはっきりした瞬間に、俺はその道通りに走った。
――まだ、まだ間に合うかもしれない。
タイガは早く助けたいと、そう思う一心で走り続けた。
「痛って!!」
途中、誰かとぶつかってしまい、その場に尻餅つく。
人数は五人。一人はムキムキのデブ。一人は右腕に蛇のタトゥーをしていて大刀を腰に提げ、そして、そのグループのリーダー格の人間は、耳、鼻、唇に三つピアスを付けていて、左目には恐らく切られたのであろう、切り傷があった。残りの二人は特に特徴は無かった。
「おい兄ちゃん、今の衝撃で俺の左肩外れちゃったよ。どうしてくれんの?」
「おめぇ、兄貴に何してんすか!? あぁ!?」
厳つい奴がそのリーダー格の事を兄貴といった。
――いや、周りから見たらお前が兄貴だよ。
なんてタイガは呑気に思っているが、脚はガクガク震えている。何故なら暫く人と関わって来なかったのだから。
「あれ? 兄者、こやつ脚が小鹿みたいに震えてまっせ」
――兄者って……お前は忍者か? あと、口調揃えろよ……って、ンな事言ってる場合じゃねぇ。早くあの娘を追わないと……
タイガは脚を震わせながら立ち上がる。
「じゃ、邪魔だよ……そこをどけ」
「あぁ!? お前兄貴にぶつかっといてその態度すか!? あぁ!?」
――あぁあぁうるせぇよ。
「とりあえず、有り金全部出しな。兄者の肩を外したんだから、慰謝料を払ってもいまっせ」
「悪いが、無一文なんですよ。ここは引いてくれると助かる。じゃあ」
そう言ってタイガは彼らの間を通り抜ける。だが、肩を外したと嘘をつくリーダーに肩を掴まれた。掴んできた彼の腕は左だった。
――あれ、外したんじゃなかったの? まぁ知ってたけど。
「金がないなら、金になりそうなもん全て出しな。そしたら許してやるよ」
「さっすが兄貴! 心が広いっす!」
「心が広いもなにも、肩外れてないから」
正直、タイガは呆れていた。こんな茶番付き合ってられない。
――てか、後ろのモブは何もやってないし……
そう思った瞬間、タイガは徐々にイライラが増してきた。脚の震えも治まり、彼らを睨む。
「あぁ!? 何すかその顔? 喧嘩売ってんすか!?」
「――せぇ」
「え? 何だって?」
そしてタイガは右手を握りしめ――
「うるせぇって言ってんだよ!!」
厳つい男を殴った。
男は吹き飛ばされ――かなり力を込めたせいか――壁にめり込んだ。
――あれ? 俺ってこんなに力あったっけ?
タイガはここに来るまで、家に引きこもりPCゲームしかしていない。
一般の人より筋力は衰えているはずなのに、一〇〇キログラム位ある男を壁にめり込むほどの力を持っているのだろうか。答えは否だ。では何故……
――もしかして、ここに来て俺の能力が覚醒したのか……?
「貴様! ここで斬られるがいい!」
忍者もどきの男は腰に付けている大刀を鞘から抜き、タイガに向かって刃を向けた。
だがタイガは刃に怯まず、躱し続ける。
「な、何もんだこやつ!? 私の剣を避けるなんて……」
――ここだ!
男の動きが少し止まった瞬間、タイガは後ろの左足で踏みとどまり、踏みとどまった足を前に出してそれを軸に右足踵の回し蹴りを忍者もどきの右顔面に喰らわせた。
その男も吹っ飛び、顔面から壁にめり込んだ。
「絶対折れたな、あれ。それにしても――」
――身体が軽い。相手の動きも良く見える。
タイガの動きは、まるで戦い慣れている人の動きだった。自分自身も驚いており、『元』学年一位でも訳が分からなかった。
「てめぇよくも!!」
肩が外れたと嘆いていた男は短刀を二つ取り出し、タイガに向かって行った。
「少し借りますよ、忍者もどきさん」
足元にあった大刀を足で拾い、男を待ち構えた。
男は短刀を闇雲に振り回す。だが、全てタイガに躱されていた。
「おいおいどうした! 躱すだけじゃ俺には勝てねぇぞ!?」
そう言いながらも男は振り回す。
――隙だらけだな。正直だるいし、終わらせるか……
そしてタイガから見て右から来る攻撃を、リンボーダンスのような感覚で後ろに反って躱し、刃が当たらないように右脚で受け止め、その腕を右脚で巻き付け固定させる。巻き付いた反動で左足で顔面に蹴りを決める――
「甘いな」
だが、男の右腕に防がれ、足を掴まれた。タイガは両足が浮いている状態になってしまい、身動きが殆どとれない。
それでもタイガは上半身を起こし、大刀の頭を男の脳天に決め、緩んだ手から抜け出し、立ちなおすとすぐさま大刀の頭を男の溝尾に決めると、男は泡を吹いて倒れた。
「ひ、ひぃぃぃ!!」
「バケモンだ!!」
残りの特徴がない二人は、ベタなセリフを吐いて、逃げていった。
「悪いな。ここでのんびりしてられないから。それに、正当防衛だから、俺に非はないさ――ないよね?」
タイガは大刀を鞘に納め、後ろの腰に柄が右に来るようにぶら下げ、そして今度こそ男達の間を通り、先程脳内に流れた道を辿っていった。