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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第三章 コナッチ王国
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第三六話 呪印と初野宿

 昼食も済まし、再び馬車に乗り込むタイガ一行。カリンは昼食後のせいか、ウトウトし始め、遂にはタイガの肩で眠ってしまった。


「はっはっは。カリン様はもの凄く、タイガ殿を気に入っている様ですな」

「止めて下さい。恥ずかしい……」


 モナローゼはその仲睦まじい様子を見て、静かに笑った。それにタイガは少し顔を赤らめた。


「ですが、カリン様は幼少期から人見知りな御方でした。言ってはなんですが、ここまで懐いているのは、カリン様の母方にあたります、セシル様以来です」


 母方。そう聞いてタイガは、モナローゼに聞いてみたいことがあった。


「あの、モナローゼさん」

「何でしょう」

「カリンの両親は……どうして亡くなったのですか?」


 タイガの質問に、モナローゼの笑顔が消えて、真剣な顔つきになった。


「どうしてそれを聞くんですか?」


 先程とは違い、低く野太い声になった。それにタイガは怯むことなく、口を開く。


「前々から疑問に思っていました。一四歳という若さで、ドルメサ王国をまとめている。どの国にも、そういう人はいると思います。とても優秀な子で、才能がある人は特に」

「カリン様は優秀でないと?」

「いえ、そう言っているんじゃありません。確かに、カリンは魔法に関しては完璧に近い程の知識を持っています。俺もカリンから魔法のいろはを教わりましたから。ですが、それに反比例するかのように、外の世界、つまり王宮の外の知識が無さすぎると思うんです。どの場所にどのお店があるのか、そこまでは大丈夫でしょう。実際、カリンは俺と初めて会った時に『ペガック』に泊っていたので」

「なら、別に問題ないとは思うが?」


 モナローゼは背もたれに寄りかかり、顎髭を撫でる様に触る。


「そこまでは良いんです。ですが、問題は『人間』について知らなさすぎるんです」


 人間、その言葉を聞いてモナローゼは目を見開いた。この男は、何処まで鋭いのか、と。


「カリンと出会った時の話は、カリンから聞いてますか?」

「あ、あぁ」

「カリンは、初めて会った俺に対して『一緒のベッド』に寝かせよとしたんです。その態度に俺はキレてしまって……。以前、カリンにも同じような事を話しました」

「それで、カリン様は何と?」


 タイガはカリンを起こさない様に、そっと首を横に振る。


「その時、俺が『今は何も聞かない』って言ったんで。何も言ってません」

「そうですか……」


 モナローゼは静かに目を閉じ、ゆっくりと開けた。


「流石タイガ殿。やはり、頭のキレる御方で。ですが申し訳ございません。私達はカリン様の事について、先代から口封じをされていまして」

「口封じ?」


 モナローゼは鎧を外し、背中をタイガに見せた。背中には呪印のようなものが施されていた。


「これは、先代が我々騎士団に施した『ジュドラ』という呪印です」

「ジュドラ?」

「ジュドラとは、術者がその対象者に呪印を施す際、何らかの発動条件を術式に施します。発動すると、呪印から焼けるような痛みが生じ、終いには死に至ることも」


 タイガはそれを聞いて、拳を握りしめ、歯も食いしばっていた。


「そして、その発動条件は――」

「カリンの正体、ですか?」


 タイガの言葉にモナローゼは静かに頷く。タイガの心の奥は、怒りで満ちていた。


「そんなの、操り人形みたいなものじゃないですか……」

「だが、それを我々が受け入れているのも事実。先代が亡くなられた後も、この呪印が亡くなる事はありません。解呪の仕方も分かりません」


 こんなにキレたのは何時ぶりだろう。恐らく、初めてカリンと出会った時か、ウリドラ以来かもしれない。


「タイ……ガ……」


 寝ぼけているのだろうか。カリンがタイガの名前を口にする。タイガはそれを聞いて、優しくカリンの頭を撫でる。そして、決意した。


「必ず、その呪縛を解き放ちます。だからそれまで、待ってて下さい」


 タイガは真剣な眼差しで、モナローゼに言う。


「本当に、貴方は優しい御方だ。何故、そこまでするのです?」


 モナローゼの言葉に、タイガは俯く。そして、ゆっくりと口を開いた。


「――俺には嘗て、二人の親友がいました。俺とその二人の三人で過ごす時間は楽しかった。だけど、自分のせいで、二人は死にました。俺がちゃんと話を聞いていれば、こんな事にはならなかった……。だからもう二度と、後悔はしたくないんです。あの時やっておけば良かったって。だから、見て見ぬふりはしません。カリンの近くにいるのも、俺がカリンを勝手に守りたいって思っているんです。自己満足かもしれませんが。だから――」


 拳を握りしめ、モナローゼを見る。


「言った事は二度と曲げません。なので、必ず解呪してみせます!」


 その時、タイガが大きな声を出してしまったのか、カリンが起きてしまった。まだ目がトロンとしていて、目を擦り、欠伸する。その姿は、ただの一四歳の少女で、タイガは微笑んだ。


「それでは、今日はこの辺で野宿致しましょうか」


 日もすっかり落ち、辺りが暗くなってきた。現在、国の国境付近まで来ている。


「魔獣とか大丈夫なのかな」

「ここら辺は魔獣にとって住みにくいですから、問題ありません。安心して、夜を明かせますよ」

「良かった~。寝ている時に襲われたらウチどうしようかと……。特にタイガ」

「俺は何もしねぇよ」


 ミルミアに言われたタイガは少し呆れながら聞いた。

 今は全員外に出て、焚き火を焚いている。


「そうだ。前々から聞きたかったんだけど」


 暖を取っている時、タイガが横に置いていた剣を取る。


「この申鎮の剣、どういう物なの?」

「た、タイガ殿。今まで知らないで使っていたのか?」

「はい」


 その言葉に、カリン以外あっけらかんとしていた。


「そろそろ聞いてくるころだと思いました。それでは説明しましょう。申鎮の剣とは何なのか。申鎮の剣が起こした()()を」

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