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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第二章 異世界生活
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第三二話 本当の黒幕と憑依

 タイガは、先程まで一緒にいたミルミア達の所へと走って行く。


「ペル! その時の状況をもう一度教えてくれ!」

「教えてくれも何も、おいらが着いた時には既に倒れていたんだ」


 ペルはタイガに言われて、ミルミア達の所に向かっていると、そこは氷の壁で覆われていて、上からも入れないドーム状になっていた。

 ペルは目を凝らし、ドームの中を凝視する。すると、顔までは見えないが一人以外みんな倒れていた。その一人が何をしているのかも分からない。そしてすぐさまペルは、タイガの下へと戻って来たのだった。


「もしかして、あのダークウルフが言っていた事、『まだとっておきが残っている』の意味……。本当の狙いはこれだったのか!!」


 タイガはスピードを上げ、ミルミア達がいると思われる場所へ走った。

 走り始めて数分。漸く氷の壁が見えた。


「ペル! 準備は良いか!」

「うん!」


 タイガは申鎮の剣を、走りながら構えた。


「ペトラ・ビースト!」

「ソイドレス!」


 タイガは火の魔法、ペトラ・ビーストを、ペルは風の魔法、ソイドレスを同時に唱え、威力を上げた火は氷を溶かしていく。そして氷を溶かした所にタイガは飛び込み、割って入った。

 中に入ると、マスターウルフならぬダークウルフと、ミルミア、リンナ、アイルが倒れていた。


「何だ……もう来てしまったのですね」

「お前……だったのか……」


 その人物は初めて会った時もタイガの仲間を傷つけようとした。


「ルーミア・オトランシス……」


 その男の目には光を感じず、何者かに取り憑かれているようだった。

 するとその時、タイガの目に映ったものがあった。


 ――これは……昼間にミルミア達に見えたもの……


 ミルミアとリンナに見えていたオーラが、ルーにも見えていた、だが、二人とは決定的な違いがある。


 ――でも、あの二人は白だったのに、何でこんなに()()んだ?


 ルーから漂ってくるオーラは、もの凄く黒かった。それはまるで、悪役だと言っているかのように。だが、そのオーラは直ぐに見えなくなってしまった。


「お前、みんなに何をした」

「何をした、とは?」

「今お前の足に倒れている、ミルミア達に何をしたって聞いているんだ!」


 タイガは剣を構え、いつでも戦闘に入れるように準備した。


「何もしてないよ。ちょっと寝ているだけ。持ち帰ろうとした所に君が来てね。もう少し待ってくれたら、君は被害に遭わなかったのに~」


 それを聞いて、タイガの中の何かが切れた。


「――るな」

「何? 何です?」

「ふざけるなぁぁ!!」


 タイガは怒りに任せ、一気にルーの所に駆け寄った。剣を構えているルーは、タイガが来た瞬間に振り抜いた。だが、タイガの姿が何処にもいない。下を見ると、右の拳を握ってルーを殴ろうとするタイガがいた。だが、ルーはその拳を掴む。


「!?」

「成程、君がウリドラを殺った人間か」


 その拳を掴んだまま、ルーは背中の方に振り向いてタイガを地面に叩きつける。

 背中を思いっきり打ったタイガは、一瞬呼吸が出来なかった。


「ウリドラはこんなガキに負けるなんて、やっぱ歳か。あのジジイ」


 刃をタイガに向け振り(かざ)し、勢いよく下げる。剣がタイガに刺さろうとした瞬間だった。


「ソイドレス!」


 ペルの魔法がルーに直撃し吹き飛ばされ、タイガは危機を脱した。


「大丈夫かい!? タイガ」

「サンキューペル。助かった」


 タイガはフラフラで立ち上がる。タイガは、ルーについて考えていた。


 ――カリンに自己紹介した時、確か双子の弟だと言った。アイルはそれを否定しなかったって事は、本当に双子なんだろう。もし兄弟でグルだったら、わざわざ兄を倒すか? 俺が来るまでここにはミルミアとリンナ、アイルにルーしかいなかった訳だから兄を倒す必要はなかった筈だ。それに、視界に少し入っていたから見えたが、アイルのオーラは白かった。もし、弟だけ魔王の手下なら、屋敷にいる時点で先にアイルを殺る筈だ。でもそれをしなかった。だけど俺と闘ったウリドラの事は知っている。っていう事は……


 タイガに一つの答えが導き出された。


「ペル、ルーは本当に魔王の手下に見えるか?」

「いや、ありえないね。もし本当に魔王の手下だったら、王宮で既に殺っている筈さ」

「それが聞けて十分だよ。それで、ルーから『引き剥がす』にはどうすれば良い?」


 タイガが出した答えは、ルーは魔王の手下ではなく、魔王の手下に()()()()()()いるのだ。


「瀕死の状態にさせるか、それか――」

「どうした?」


 ペルは口籠ってしまった。そして弱弱しく、もう一つの対処法を言った。


「――殺すしかない」


 タイガにとって、それは辛い選択だった。短い時間ではあるが、同じ釜の飯を食ってきた仲間であると同時に、タイガがこの世界に来て初めての男友達だった。


「なら、答えは一つじゃねぇか」


 タイガは落ちている自分の剣を持ち、迷いなく言った。


「ルーが正気になるまでやってやる! 絶対に殺しはしない!」

「タイガ……」


 タイガは覚悟が決まっていた。それをみて、ペルは呆れてしまった。


 ――これじゃあ、さっきと一緒じゃないか。


 そしてペルはタイガの肩に止まり、タイガの覚悟に乗っかった。


「しょうがないな~。おいらも手伝うよ。まだ、レンタルビルドは切れていないからね」


 ペルの言葉を聞いたタイガはフッと笑った。


「行くぞ! ペル!」

「うん!」


 この時、ペルは思ってしまった。


 ――タイガの優しい気持ちが、救いたいという気持ちが、おいらにも移っちゃったのかな。タイガ。君ならカリンを安心して任せられるよ。何故なら君の中には()がいるんだから……


 ペルはタイガへの感情をバレない様に、戦いに挑んだ。


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