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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第二章 異世界生活
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第二九話 好奇心旺盛と魔獣大量発生

 依頼も無事に終わり、帰宅途中のタイガ達。


「な~んか今日の依頼はつまらなかったわね」

「しょうがないよ。討伐の依頼が少ないって事は、平和って事なんだから」


 今回の依頼はメロット――日本で言う羊の五匹捕獲だった。メロット飼いが所有している牧場から五匹逃げだしたという事で、本来討伐依頼をやりたかったミルミアを説得し、この依頼を遂行した。帰り際に愚痴を言うミルミアをリンナが慰める。


「ん?」


 その時、タイガの目におかしなものが映った。タイガの目の前を歩いているミルミアとリンナ。その二人から白い『オーラ』のようなものが見えた。


 ――なんだ? これ。


 不思議に思ったタイガは目を擦り、もう一度見る。だが『オーラ』のようなものは見えなかった。


「どうしました? タイガ」

「いや、ちょっと目が疲れていたみたいだ」


 不意にタイガを見たリンナが、タイガの様子が変だと感じ、声を掛けた。だがタイガの返答に安心すると、再び前を見て歩き出す。


 ――なんだったんだ、あれ……


 だが、考えても無駄だと思ったタイガは、これ以上深く考えなかった。


「それにしても、タイガが持っているマグナラ。ホント便利よね」

「まさか逃げ出したメロット五匹を、全部探し出すなんて」


 今回の依頼は三〇分もかからなかった。タイガが持っているマグナラで五匹全部を見つけ、捕まえたのだ。


「ウチもそれ欲しいな~。タイガぁ頂戴よ~」

「やるわけないだろ」


 ミルミアがタイガの腰に抱き着き、おねだりしてくる。タイガはそれを全力で離そうとするが、全然離れない。助けてほしいとリンナを見ると「私も欲しいです!」と言っているような目をしてくる。

 タイガはミルミアを離れさせ、溜め息をつきながらマグナラに聞く。


「マグナラが売ってるお店知ってる?」

「殆ドコナッチ王国ニ置イテアルト思ワレマス」

「どうしてですか?」


 リンナが聞くも、マグナラは反応しない。何故なら、リンナの情報が入ったイグナートが入っていないからだ。代わりにリンナの疑問を、タイガが答える。


「恐らく、マグナラに搭載されているイグナートがコナッチ王国にあるんじゃないか?」

「ソノ通リデス」

「タイガ、イグナートって何よ」


 途中でミルミアが割り込んできた。前にマグナラの事について話したが、イグナートについては何も触れなかった事を思い出し、タイガは答える。

 タイガの分かりやすい説明により、二人は直ぐに理解した。


「じゃあウチの情報が入ったイグナートをタイガのマグナラに入れれば、ウチも使えるのね!」

「まぁ、そういう事だ」

「じゃあ早くコナッチへ――!」

「待て、ミルミア」


 タイガは今にもコナッチに飛んでいきそうなミルミアを止める。


「タイガ! 何で止めるのよ!」

「俺達は八日後にコナッチに行くんだから良いだろ」

「何で八日後なのよ!」


 怒っているのか興奮しているのか分からない状態のミルミア。


 ――前に、リンナの事を好奇心旺盛な娘って言っていたが、お前も似たようなもんじゃねぇか。


「ミルちゃん、私達は違う目的でコナッチに行くんだよ?」


 呆れて返答も出来なかったタイガの代わりにリンナが答えた。それを聞いたミルミアはやっと落ち着く。


「すぐに欲しいのは分かるが、我慢も大事だぞ」

「うん……」


 落ち着いたと思ったら、今度は拗ねて近くにあった石ころをコツンと蹴った。

 歳はタイガの一つ上の一七歳。だが、それでもまだまだ子供。滅多に見ないミルミアの可愛い姿を、タイガとリンナは優しい目で見ていた。すると奥から歩いてくるアイルを見つけた。


「あ、タイガ」

「おう、アイル。今帰りか?」


 実はタイガとオトランシス兄弟の歳は同じだった。それを知った時、タイガは二人に対して敬語を止め、親しくなった。因みにオトランシス兄弟はミルミアとリンナにも敬語で話していない。本人達からの希望だった。


「ルーは?」


 アイルしかいないことに気が付いたミルミアは、ルーの居場所を聞く。


「ルーなら『ザーナス』にいるよ」


『ザーナス』とは武器屋の事で、剣に槍、弓などの他に防具も売っている。種類も豊富だ。


「そういえば、お前ら兄弟って冒険者上がりなの?」

「いや、一〇歳の頃には既に騎士団に入っていたよ。前も言ったが、親父が副団長だからそのまま入らされてね」

「役職も騎士だけですか?」

「まぁな。冒険者が騎士になるにはまず見習い騎士にならなきゃいけないが、騎士団は違う。実は見習い騎士の下の小姓(ペイジ)って言うのがあるんだ」


 小姓とは見習い騎士より下の階級で、主に勉強だとか訓練をするらしく、表で活動することはない。

 アイルとルーは八歳で騎士団に入団。一二歳で小姓から見習い騎士へと昇格した。だが見習い騎士は王都を担当することが出来ず、近隣の村に配属されるらしい。


「兄さんお待たせ――ってタイガ! クエスト帰り?」

「おう、ルー。これから帰る所だ」


 ルーが合流して、タイガ達は王宮に向かって歩き始めた。


「そういえば、さっき噂で聞いたんだけど――」


 賑やかな中央通りで、突然ルーが口を開いた。


「何か最近、オルドラン村付近の森で魔獣が大量発生しているみたいだよ」

「魔獣が? 何で――!」


 タイガは理由を聞こうとしたが、途中で止めた。心当たりがあるからだ。


 ――俺の夢が本当なら、みんなが死ぬのは()()の筈だ……。なのにどうして……もしかして、森に現れた魔獣は!


 タイガは突然走り出した。森に向かって。後ろは何かを言っているようだったが、聞く余裕もなかった。

 走ったタイガの後姿を、ルーはずっと見つめていた。


「ボク達も行こう! 何か嫌な予感がする」


 そう言ってルーはタイガを追って走り出した。他のみんなも、ルーの後に付いて走って行った。



 それが、敵の思惑とも知らず――。


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