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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第二章 異世界生活
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第二八話 交渉と互いの疑惑

 一度席を外したタイガはシェスカに水を一杯貰い、ジャージから普段着に着替えて応接室に戻った。


「タイガ、本当に大丈夫ですか?」


 戻って来たタイガに、カリンは心配そうな目をしながら聞く。先程の弱弱しいタイガとは違い、いつものタイガに戻っていた。タイガも、もう大丈夫だとカリンに頷く。


「先程は失礼しました。俺はヤマト・タイガ。先程紹介したミルミア、リンナとパーティーを組んでおり、そのリーダーを務めています」


 因みに昨日まで、タイガ自身パーティーのリーダーだとは知らなかった。マスターウルフ討伐完了の報告をタイガが行くと言ったら――


「流石リーダーね」

「ですね」


 と言われて、成り行きでリーダーになってしまった。


「職業は魔剣士です」

「「み、魔剣士ぉ!?」」


 タイガの職業を聞き、顎に綺麗な逆三角形の髭を持ち、騎士団の団長を名乗ったモナローゼと整った顔をしており、肩まであるストレートロングで藍色の髪を持つ副団長、ウールは驚愕した。だが、タイガは予想していた。こうなるであろう事を。

 すると突然、モナローゼがタイガに近寄り両肩を掴む。そして興奮気味でタイガに言った。


「ぜ、是非! 我がドルメサ王国騎士団に入団しないか!? いや、してくれ!」

「あの、落ち着いてください。脳が……」


 肩を前後に揺らしながら言うモナローゼに、タイガは酔いそうになりながら止めさせた。副団長のウールも止めに入り、何とか収まった。だがあまりにも揺れが激しかったせいか、タイガは結局酔ってしまい、視界がグルグル回っていた。

 数秒程でタイガは復活し、モナローゼに話しかける。


「すみません、モナローゼさん。気持ちは嬉しいんですけど、俺は騎士団に入りません」

「ど、どうしてか聞いても良いかね……?」


 まさかの返答に、モナローゼは声を震わせながら恐る恐る聞く。二人からしてみれば、魔剣士がいるのといないとでは格が違う。

 騎士団の九割は役職である騎士の集まりだ。つまり、殆どが近距離攻撃しかいない。そこで魔法と剣術が両方使える魔剣士が入れば、中距離タイプが生まれ、尚且つ近距離タイプにも参戦できる。だから、モナローゼはタイガという金の卵を手放したくなかった。


「俺は冒険者になりたてです。それにこれと言って剣術が上手い訳でもありません」

「け、剣術なら僕達が教えます! だから――」

「それに――」


 ウールの話を遮り、タイガは優しい笑顔でこう言った。


「俺はこのパーティーを抜けたくないし、俺が傍にいないと誰かさんが泣いちゃうんで」


 その言葉を聞いたパーティーのミルミアとリンナ、誰かさんと言われたカリンが顔を紅く染めた。カリンに至っては、リンゴの様に真っ赤に染まっていた。


「た、タイガ! 私は別に泣いてなんか――」

「あれ? 俺、泣いちゃうのが『カリン』なんて一言も言ってないけどぉ?」


 まんまと罠に嵌ったカリン。タイガの追い打ちに、さらに顔を真っ赤にさせ涙目になった。

 そのカリンの姿を見たタイガは愛おしく思い、そっと頭を撫でた。


「ちょっとタイガ、カリンちゃんを苛めないでよ」

「ごめんごめん」


 カリンの肩に止まっていたペルは、タイガだけ聞こえるように話した。それに対してタイガは苦笑いしながらカリンの頭を撫でていた手を離した。その時、カリンは小声で――


「後でもっと撫でて下さい……」


 と、恥ずかしそうに言った。タイガは「はいよ」と返事し、モナローゼ達の方を見た。

 因みに、パーティー二人も撫でてほしいという顔をしていたが、タイガに気付かれず項垂れていた。


「俺は、今の生活が好きなんです。なので、騎士団には入れません。すみません」


 タイガはそう言って頭を下げた。モナローゼとウールは渋々了承し、「気が変わったらいつでも来てくれ」とタイガに言った。

 全員ソファーに座り直し、本来の目的に入る。


「それでカリン様。話というのは……」

「それは今からタイガがお話致します。タイガ、お願いします」


 ――いや、そこは自分で説明しろよ……。確かに提案したの俺だけどさ……


 カリンにお願いされたタイガは少し怠そうにしながら、今回の件を話す。

 タイガは事細かに説明し、騎士団での最高クラス宮殿騎士の派遣を要請した。


「成程……分かりました。それでは宮殿の守衛に宮殿騎士と騎士を二名ずつ。門番には騎士二人に、勉強として見習い騎士を一人派遣しましょう」

「ありがとうございます」


 モナローゼは快く了承してくれて、話し合いは直ぐに終わった。


 オトランシス兄弟は休暇を有意義に過ごしたいと、タイガ達はギルドに行くと言い部屋を出て行った。応接室に残ったのはカリン、騎士団二人、ペルの三人と一匹。だが、ペルは寝ていた。

 タイガ達と入れ違いでシェスカが入ってきて、空のティーカップに紅茶を注ぐ。


「いやぁ~それにしても、まさか魔剣士に出会えるなんて」


 注がれた紅茶を飲みながらモナローゼは言う。


「本当ですよ。それにあの頭のキレの良さ。カリン様、一体どこで拾って来たんです?」


 それに続いてウールが言う。カリンはタイガの事を物扱いしているのに少し怒るが、その後優しい顔であの時の出来事を思い出しながら話した。

 その話を聞いて、モナローゼは涙を流し、ウールはタイガを尊敬した。


「見ず知らずのカリン様を一人で助けに行くなんて……。カリン様の召喚獣のペル様とのリンクを完璧に使いこなし、そして魔王軍幹部No.2のウリドラ・ガブリエルを、傷を負いながらも一人で戦って勝つ。しかも魔法も剣術も本人曰く初心者……。カリン様、彼は一体何者なんです?」


 ウールはカリンの話から冷静に分析し、改めてその凄さを知った。その上で、ウールはタイガの正体を知りたかった。


 ――タイガの魔法の殆どは習得したものではなく『咄嗟』に出たもの。初めてなのにも関わらずあの剣術。時刻盤屋『ルージュ』で見せた涙。そして何より、タイガの中から匂う()()の臭い……いや、どちらかと言えば魔王に近い臭い。何処か懐かしい感じがします……。タイガ、貴方は一体……



 場面変わって、ギルドに向かう途中のタイガ一行。


「タイガさん、クエスト受けても大丈夫なんですか?」

「もう心配すんな。目覚めの悪い夢を見ただけだよ」


 先程のタイガの様子を心配していたミルミアとリンナ。今日は別に休みでも良いと二人は言ったのだが、タイガがそれを断って依頼を受けようとする。二人はもう何も言うまいと、黙ってタイガに付いて行った。


「それにしても、タイガがあんな嬉しい事を言ってくれるなんてね~」

「止めろ、恥ずかしい……」


 ミルミアは物凄い笑顔で、タイガが応接室で言った言葉を思い出していた。


「まだ組んだばかりだけど、ウチもこのパーティーが好きよ」

「私も好きです。タイガさん、ありがとうございます」


 リンナが頭を下げて言った。


「いや、俺お礼言われるような事してないんだけど……」

「違うわよ。『このパーティーを抜けないでくれて』って意味よ。正直、冷や冷やしたんだから。タイガが騎士団に入るんじゃないかと思って。だからウチからも礼を言わせて。ありがとう」

「いや、まぁ……」


 タイガは小恥ずかしい様子で、頬を掻いていた。

 だが、タイガの表情は直ぐに真剣になった。


 ――昨日と今日の見た夢……。昨日はカリンだけの死だったが今日は王宮の人()()だった。だけど一つだけ気がかりな事がある。それは狙われている人物だ。何で寄って(たか)ってカリンを狙う。


 今まで見てきたタイガの夢。ウリドラの件はただのカリンが死んでしまう夢を見ているだけだと思っていた。だが今回の死因は、複数いた『魔獣』による死。その魔獣は全てカリンの方へと一目散だった。


 ――それに、ウリドラのあの言葉……


『その女が何者だか知らないようだな』


 ――あの言葉の意味はなんなのか。カリン、お前は一体……


 タイガとカリンは、お互いに疑惑を持ち始めた。

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