第二三話 初仕事とパーティー
次の日、タイガは一人でギルドに来ていた。初めての仕事で、ワクワクと緊張が混ざっていた。
――昨日のニーマンとトラト、美味しかったな。日本と違って、ニーマンは苦みないし、トラトは果物だった事には驚いたが、あれなら食べられそうだな。
最初は躊躇していたタイガだが、カリンに心配されたのとシェスカのあざとい上目使いに完敗し、思いっきり口に放り込んだら、驚くほど美味しかったという。因みにメニューはニーマンの肉詰めとトラトパイだった。ここの料理は、何処か日本と似ている。
依頼ボードを一通り見て、一枚の紙に目が留まる。ランクの情報は、ボードによって分けられている為、分かりやすい。
「東の森にいるビックマウス三匹の討伐。報酬は四〇パス。ビックマウスって、デカいネズミの事か? 気持ち悪ぃけど、報酬金額がなぜか高いし、これにするか」
その紙には赤のバツ印が七つ付いていた。タイガはその意味が分からず、受付に持っていく。セリウドに驚かれたが、タイガは何も気にせずギルドを出て行った。
「あれ、依頼失敗の数なんだけどな……」
一人呟くセリウドの言葉は、タイガには届かなかった。
歩いて四〇分。タイガは東の森に到着した。竜車で行けば早いのだが、無駄使いをしたくないと言って歩いて行った。マグナラにマップを表示させて。
「ここにそのビックマウスって言うのがいるのか。腕試しがてら、少し張り切ろうかな」
東の森をうろうろしていた時、ドシンと地鳴りがした。タイガは直ぐに気を引き締め、対象を待つ。次第に地鳴りが大きくなっていく。そして、遂に姿をさらした。それを見て、タイガは固まってしまった。何故ならその対象は高さが約三メートル、全長五メートル程の、その名の通りビックマウスなのだから。
「で、デカすぎだろ……」
タイガがビックマウスを見ていると、向こうもタイガに気付いたのか近くにやってくる。すると、餌だと認識したのか雄叫びを上げてタイガに向かって一直線に走って来た。タイガは間一髪で躱し、態勢を立て直す。ビックマウスは器用に急停止して、方向を変えてまたタイガに向かって走ってくる。
「あんな巨体で、どうやってあの速さで走るんだよ。よけ続けたら埒が明かない……」
タイガは申鎮の剣を抜き、ガリルを流す。
「ソード・ルカ!」
風波を飛ばし、ビックマウスの右前足を切断する。バランスを失ったビックマウスは右から地面に滑り込む。タイガはその隙にビックマウスの上に乗り、剣を刺してクリアガービルで止めを刺す。ピクリと動かなくなったのを確認し、タイガはビックマウスから降りる。すると突然遠くから爆発音が聞こえた。タイガは仕留めた証拠に、ビックマウスの尻尾の先端を切って音のする方に走って行った。
「な、何よこの大きいの!」
「と、取り敢えず逃げましょう!」
タイガはその場に到着すると、ビックマウス二匹に襲われている女子二人を見つける。一人は女騎士、一人は魔法使いの様だ。だが、女子二人では反撃できず圧される一方だ。するとビックマウスは女騎士を突き飛ばした。突き飛ばされた女騎士は木にぶつかり、衝撃で動けなくなってしまった。
「ミルちゃん!」
飛ばされた女騎士に視線が行ってしまい、魔法使いはビックマウスに喰われそうだった。
「ルカ!」
タイガはルカで魔法使いを飛ばし、喰われるのを阻止した。タイガは直ぐに駆け寄り、安否を確認する。
「大丈夫か? 手荒な真似をしてごめん。怪我は無い?」
「は、はい。あの――」
「話は後。今は俺がこいつらを相手するから、今のうちにその子を連れて逃げて」
タイガは魔法使いから離れると、ビックマウス二匹を挑発し始めた。
――まさか二匹同時に相手するとはな。ケド、新魔法を使ってみるのに丁度良いな。
二匹とも標的をタイガに変え、タイガに向かって走る。タイガは二匹を飛び越え、後ろからソード・ルカを連続で出し、ビックマウスの両後ろ足を切る。大量の血が溢れ出て悶えているビックマウスに、新魔法を決める。
「――ミストレアス」
親指と人差し指を伸ばし、手でピストルを作る。人差し指の指先に水が集まり出し、親指の第一関節くらいの大きさをした水玉を、一匹のビックマウス目掛けて撃つ。すると水玉は弾丸のようなスピードでビックマウスを撃ち抜き、動かなくなった。もう一匹にはクリアガービルで止めを刺し、合計三匹のビックマウスを討伐した。
「何とか終わったな」
二匹のビックマウスも尻尾を切り、懐に入れた。
タイガは二人の下に行くと、女騎士が目を覚ましていた。タイガに気付いた魔法使いは立ち上がり、お礼を言った。
「助けて下さり、ありがとうございます」
「どういたしまして。二人とも怪我は無い?」
「はい、私は大丈夫ですが……」
魔法使いが女騎士に視線をやる。女騎士は木にぶつかった衝撃で右肩が脱臼したそうだ。
タイガは女騎士に近付き、右肩に手を添える。
「エントレス」
エントレスは回復魔法で、身体の状態異常を治してくれる。因みにミストレアスとエントレスは、今頭の中で知った。
すると女騎士の顔がどんどん柔らかくなり、痛みを堪えている顔じゃなくなった。
「これで大丈夫な筈だ」
女騎士は肩を回す。だが、痛みを感じない。
「凄い……治ってる」
「そりゃ良かった」
驚いている女騎士に、タイガは笑顔で言う。その時、魔法使いの頬が少し紅くなったのを、誰も知らない。
「今回は助けてくれてありがとう。ウチはミルミア・ガーネ。職業は見ての通り、騎士よ。騎士は騎士でも見習い騎士だけど。宜しくね」
「私はリンナと言います。家名はありません。職業は魔女を生業としています」
ウィッチという言葉を聞いて、タイガは眉を顰めた。理由はウィッチの意味に関係する。
――ウィッチって確か、日本語では『魔女』を示していたよな。魔女は自然な力で人畜に害を及ぼすとされた人間、または妖術を行使する者のことだってネットに書いてあった。まさか、リンナさんも……
「私、ウィッチって言っても人に害を及ぼしたりしません。基本、女性の魔法使いを『ウィッチ』と呼ぶので。安心して下さい」
リンナはタイガの異変に気付いたのか、その疑問に答えた。タイガはそれを聞いて安心し、自己紹介をする。
「俺はヤマト・タイガ。ヤマトが家名でタイガが名前。職業は――」
「魔剣士ですよね! 私知っています!」
タイガが言おうとした瞬間、リンナに遮られた。そして目を光らせ、タイガにグイグイ近寄る。タイガは正直困っていた。奥にいるミルミアに目を向けると――
「この子は好奇心旺盛なの。許してあげて」
と言われ、助けなかった。
暫くしてリンナが落ち着きを取り戻した。
「それにしても、ここで魔剣士に会うとはね~」
「タイガさんはどの属性を持っているんですか?」
「俺は闇以外全部持ってるよ」
「五つも使えるんですか!」
三人は竜車で王都に向かっていた。ミルミアとリンナの二人は、王都より少し離れた『ハル村』という所に手紙を届ける依頼だったらしく、その帰りにビックマウスに遭遇したそうだ。
「タイガって、今日が初めてだったんでしょ?」
「まぁな」
「でも、タイガがビックマウスの依頼を受けてくれて助かったわ。あの依頼、Dランクのくせに難易度高いのよ」
「確か、七回も失敗したんですよね」
「え? そうなの?」
「ちゃんと見てなかったの? 依頼の紙に赤でバツしてあったでしょ」
タイガは依頼を受ける前の事を思い出した。
――確かに、赤バツが何個かあったな……。あれって、これだけ失敗しましたよって意味だったのか。ならDランクに置くなよ……
タイガは少しギルドに不満を持ってしまった。
ギルドに着くと、セリウドに依頼達成したことを報告した。セリウドはタイガを見て驚いていたが、その証拠となるビックマウスの尻尾を見せると「無事で良かった」と言ってくれた。確認が終わると、銀貨四枚の四〇パスを受け取って二人のいる所に戻った。
「ミルちゃん、今何時か分かる?」
「ごめん、時刻盤壊れちゃったんだよね。あのビックマウスの衝撃で」
二人は先に終えていた為、近くのテーブルに腰かけていた。
「タイガさん。今何時か分かりますか?」
「ちょっと待ってね」
タイガはマグナラに聞く。時刻は一三時一五分だった。
「た、タイガ。それ何?」
いきなりバーチャルモニターが出てきたと思ったら、時間が表示されたのを見て、二人は驚いていた。タイガはマグナラの事を説明して、二人は理解した。
タイガは念話でシェスカとカリンに「お昼は要らない」と伝え、ミルミアとリンナの三人で食事に行った。
「ねぇ、タイガはこの後どうするの?」
ビックマウスの肉を頬張りながら、ミルミアは聞く。因みに、ビックマウスは食料品だったらしい。
「俺は帰って休むよ。初依頼で疲れたしね」
「そっか~。どうせなら三人で依頼したかったな~」
残念そうにミルミアが言う。すると、リンナが提案してきた。
「それでは、私、ミルちゃん、タイガさんの三人でパーティー組みませんか?」
「良いわねそれ!」
リンナの提案にミルミアは乗っかった。タイガも、別にそれくらい大丈夫だろうと思い、賛同した。
「じゃあ帰りましょうか」
昼食も済まし、お支払もして店を出る。明日は九時にギルド前集合となり、ミルミア達は宿屋『ペガック』行くため、逆方向であるタイガはここで別れを告げた。
「今日は疲れたけど楽しかったな。帰ったら寝よう」
欠伸をしながらそう呟き、家路についた。
後ろの影に気が付かずに。




