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異世界でニートは英雄になる  作者: 相原つばさ
第二章 異世界生活
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第二〇話 仮想時刻盤と人の優しさ

 タイガの時計、(もとい)時刻盤を買いに来たタイガとカリンは、ドルメサの街を歩いていた。


「相変わらず賑わってんなぁ」

「ここは王都の中で一番大きいですからね。他所から来る人も沢山いるんですよ」

「外交とかしてるの?」

「ここから西に位置するコナッチ王国とですね。先代、つまり私のお父様の頃からコナッチ王とはご友人でいらしたので」


 話を聞いていたタイガに、一つ思ったことがあった。


 ――今日屋敷で過ごしていたけど、カリンの父親らしき人に会ってないな。それに、この若さで王様……


 聞き辛い内容ではあったが、タイガは聞いてみた。


「カリン、お前今、何歳だ?」

「私ですか? 一四ですけど……」


 ――一四で王様って事は恐らく、そういう事なんだろうな。普通、お(きさき)は王位を継げない。継ぐのはその二人の間に産まれた子供となる。つまり、先代だったカリンの父親は既にこの世にいない……


「そういえば、タイガはおいくつなんですか?」


 タイガがぶつぶつ考えている時、カリンが話しかける。だが、タイガは反応しない。不思議に思ったカリンは、タイガに顔を近づけ、タイガの顔色を窺った。急に視界にカリンが映って来たタイガは思わず驚いてしまった。


「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。ごめん。それで?」

「ですから、タイガはおいくつなんですか?」

「俺か? 俺は一六だよ」


 タイガは心の中では複雑な顔をして、カリンと話しながら時刻盤屋へと向かった。

 

 王宮を出て二〇分。時刻盤『ルージュ』に着いた。中には沢山の時刻盤が置いており、種類も豊富だった。レジの近くには作業台が置かれており、そこでは右目に片眼鏡をしているおじいさんが何かを修理していた。


「これが時刻盤……」


 四角い形をした時刻盤や、腕時計にしか見えない時刻盤など、タイガはガラスケースの中に収まっている時刻盤を見ていた。

 一通り見た所で、タイガは一つのガラスケースの前で足が止まった。そこには他とは違い、時刻盤とは何も関係ないものが置かれていた。それはエメラルドグリーンの色をした、八面体のダイヤが付けられたネックレスだった。


「何ですか? それ」

「分かんない。そもそも、時刻盤とは何も関係ない気が……」

「それはただのネックレスじゃないよ」


 声がする方を見ると、さっきまで作業台で作業していたおじいさんが来た。


「それも一応時刻盤なんだが、どうも使い方が分からなくてね」

「これが時刻盤?」

「何でも、時間が空中に浮かぶとか、地図が見れるとか」


 おじいさんが顎に手を当てながら言う。

 おじいさんの話によると、このネックレスは数百年も前からこのお店に置かれていたらしい。何故それが時刻盤と言えるのか、何故その機能が分かるかは記録が残っていないらしく、先代の時も分からなかったとか。言われたことはただ一つ。使える者が誰もいないという事。


「誰か飾りとして買おうとはしなかったんですか?」

「見る人はいるんだが、誰も手に付けなくてね。今としてはただのお飾り物だよ」


 カリンの質問におじいさんが苦笑いで言ってくる。


「時間が空中に出て来るって事は、バーチャルか。それは別として、地図も欲しい所だよな~。こいつが使えたら――ん?」


 タイガがポケットからスマホを出して残念がっていると、突然スマホが光り始めた。画面ではなく、スマホ()()が。そしてネックレスのダイヤも光始める。いきなりの出来事で困惑している三人。するとスマホがタイガの手元から離れ、八面体のダイヤに吸い込まれた。そして暫くして、光は治まる。


「な、何だったんですか? 今の」

「わ、ワシにも分からん。君、一体何したんだ?」

「俺もさっぱり……」


 未だ混乱している三人。するとカリンが何かを見つけたように声を掛ける。


「タイガ! ネックレスが!」


 タイガ達が見たのは、ゆっくりと浮き始め、ガラスケースから出ようとするネックレス。それを見たおじいさんは急いで鍵を持ってきて、ケースを開ける。するとネックレスがタイガの下にやって来た。


「これを俺に……?」


 何が何だか分からないタイガだったが、目の前に来たネックレスを手で持つ。するとダイヤからバーチャルモニターが出てきて、文字が書かれていた。


「ヤマト・タイガ 契約完了」

「け、契約?」


 急に契約されたタイガは何の事だか分からずに、ただモニターを見つめていた。


「コノ仮想時刻盤『マグナラ』ハ、ヤマト・タイガノ所有物トナリマシタ」

「仮想時刻盤? タイガ、どういう意味ですか?」

「正しいかどうかは分からないけど、恐らく今みたいに、何もない所でこういうスクリーンが映し出されることだろう」


 するとタイガの声に反応して、仮想時刻盤『マグナラ』が答えた。


 ――これ、もしかして俺達の声に反応してる? 俺のスマホを取り込んだからか?


 タイガはマグナラに話しかけた。


「なぁマグナラ。お前って、俺達の言葉が分かるのか?」

「勿論デス。デスガ、私ガ声ヲ聞ケルノハ契約者デアルタイガ様ダケトナッテオリマス」

「他の人が聞けるには?」

「ソノ人ガ所有シテイル『イグナート』ガ必要ニナリマス」

「イグナート?」

「タイガ様ガ先程マデ持ッテイタ『スマホ』ノコトデス」


 タイガが持っていたスマホは、この世界では『イグナート』と呼ばれていた。だが、スマホがイグナートではなく、スマホの中にあるICチップの事らしい。


「つまり、昔は沢山あったイグナートが何故か少なくなり、マグナラを使える人が殆どいなくなったんだ。説明書も何もないのは、全部イグナートに搭載されていたんだろう。使い方は? お前に話しかければ良いの?」

「私ニ『ガリル』ヲ流シテ話シカケテ頂ケレバ、ゴ要望ニ応ジマス」


 タイガは「ありがとう」とお礼を言うと、モニターが消えた。

 タイガはお支払しようと隣のおじいさんに会計をお願いしたが、そのまま譲り受けれられた。おじいさんに礼を言い、お店を出る。


 ――この街、良い人ばかりだな。俺も人に優しければ、ちゃんと話を聞いていれば、『アイツ等』は死なずに済んだのかな……


「ど、どうしたんですか!?」

「え?」

「タイガ、何で泣いているんですか?」


 気が付くと、タイガの頬には一筋の涙が流れていた。タイガは急いで涙を拭き、誤魔化す様に「大丈夫」と笑顔で言い、先を歩いた。カリンはその背中を見て、何処か辛そうな、何かを抱え込んでいるように思えた。だが、これ以上の詮索は良くないと、何も聞かず、タイガの後を追って行った。

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